格納庫から頑丈なシャッターを傷1つなく突き破った銀色の機動兵器は翠色のツインアイで敵を捕捉する。その中でクロウは感嘆の言葉を漏らす
「驚いたぜ。まさかブラスタをそのまんま中に隠していたとはな」
そう、トライアは万が一に備えてブラスタにリ・ブラスタTの外装をつけることでパージできる仕組みを組み込んで制作していたのだ。格納庫で損傷したリ・ブラスタTのパーツを全てパージしたことで内側から新品同様のブラスタが姿を現れる
『見た目はブラスタだが、武器の出力や機体性能はリ・ブラスタを少し下回る程度さ。
「ありがとよチーフ。CDSもバッチリ使えそうだ」
『とはいえ、帰る手段がないと考えて大事に使いな。壊したら承知しないよ』
プツン!
「安心しな!借金がほぼ完済済みの俺はそんなヘマしねえぜ!」
そんな哀しい事実を口にしつつ、クロウはブラスタを敵機の軍勢に向かって盾を構えながら突っ込んだ
ギュン!
「は、速い!」
「この速度…ティラネードを圧倒的に上回っている…」
マジンやバッタが撃墜すべくビームとマシンガンの弾幕を張るが、盾を使うまでもなくヒョイヒョイ躱す
「食らいな!」
ダダダダダ!
クロウは右手のAX−99
すると命中した2機は簡単に風穴を開けられて爆散した
「ムゥ、なんという火力!」
「しかも全弾命中…乗り手も良い腕をしている」
ビッグボルフォッグはブラスタの火力、鉄也はクロウの操縦技術の高さに注目する
「こちらも負けていられないな!」
「ひゃあああ!!主任、スピード出し過ぎです!」
負けじとサイゾウもティラネードをさらに加速させて敵を撃破する。そしてとばっちりを受けるラミィ
しかしテロリストの機体はまだ20体前後は残っていた
ダダダダダ!
そんな中、テロリストの機体の1つが撃った機銃の流れ弾が会社敷地内の施設に向かう
「!!」
「マズい!」
それを察知したクロウとサイゾウは弾幕の射線上に入る。そしてクロウはバンカー、サイゾウはビーム・ベイオットを盾にして弾幕を防いだ
バンカーは表面から発生するフィールドのおかげで無傷だが、ビーム・ベイオットの方は決して無視できないダメージを受けてしまった
「し、主任!壊れましたよ!どうすれば!?」
「落ち着け。敵を早く撃退すればいい」
「でもその武器が…!」
「ここは俺に任せな」
そこで会話に割り込んできたのはクロウだった。オープン回線でそれだけ伝えると、一気にブラスタを加速させて、もっとも敵が集まっている方へ向かう
敵を多く、かつ素早く片付ける必要のある状況…それを解決する戦術を実行するために
「いくぜ!アサルトコンバットパターン・ファイズ!」
グレネード弾のカートリッジに交換して敵の密集地に撃ち込む。即座にアサルトカートリッジに切り替える
直後に左半身を大きく引いて左腕を突き出す。すると左腕のシールド、バンカーの先端が発射され、残ったシールドと繋がったワイヤーがぐんぐん伸びていく
「ターゲットを中央に固定!」
発射されたグレネードは多くの敵を巻き込んで爆発、そして追い討ちをかけるようにバンカーが敵機の1体に深々と突き刺さる
「そのまま一気に火力を集中…!」
そのバンカーがワイヤーを引っ張り、遠心力で敵の周囲を旋回しながら蜂の巣にする
「とどめはド真ん中のストレート!」
最後に
「呆れるほどに有効…かつ最高の戦術だぜ」
この戦術を生み出したある特殊部隊の隊長のことを思い出し、最後の言葉と共に脳裏にしまった
あれだけいた数多くの敵は、たった1機のたった1度の攻撃で一気にひっくり返された
「て、敵機…8割以上が撃墜です…」
「な、なんてデタラメな機体…」
メリルとエイミスはブラスタの圧倒的過ぎる性能に唖然とする
「主任、形勢が一気に逆転しましたよ!」
「ああ、そうだな…」
「な、何か嬉しくなさそうですね…」
ティラネードに乗っているラミィはサイゾウの反応を訝しく思うが
「ティラネードのプレゼンが完全にあの機体のインパクトで塗り潰された。かなり由々しき事態だからな…」
「命が助かったことを素直に喜んでください!」
どこまでも業務に命をかける主任を見て、やっぱり何も変わってなかったと思うのだった
ブラスタによって逆転した状況を見て、何より圧倒的スピードと火力を持つブラスタを見たテロリストたちは、脇目も振らず逃走していった
「敵機、全て撤退していきました」
「あの機体が来なければ何かしらの被害があったかもしれません。そういう意味では今日は幸運な日でしたね」
「機体が突っ込んできたりテロリストに襲われるのは幸運だとは思えません…」
「そこはほら、ポジティブにいきましょう」
ポジティブすぎるわよ、とメリルは思った
「その2つの機体がVTXユニオンの開発した新型ですか…」
戦闘が終了したので、援護に来ていたビッグボルフォッグはティラネードとブラスタの両方を見て言う
「正確にはこちらの機体がだ。向こうの機体は我々VTXユニオンとは無関係だ」
「…なるほど。何か事情があるのですね」
サイゾウの物言いに察したビッグボルフォッグはそれ以上のことは追求してこなかった
「この新型機の名はティラネードだ。完成した暁には、ぜひともご用命を」
「了解しました。その旨、報告させていただきます」
サイゾウの宣伝を聞いたビッグボルフォッグはそう答えると戦線を離脱するべく移動する
「では、失礼します」
そう言ってビッグボルフォッグは離れていった
「よかったですね、主任。売り込みに成功したみたいです」
「いや、間違いなくティラネードよりもあの機体の方が印象に残っているだろう。何かしら手を考える必要があるな…」
「主任、助けてくれた人を商売敵として見るのはやめたほうがいいと思います…」
仕事に情熱的過ぎる上司に億劫となるラミィであった
「剣鉄也さん、ご支援ありがとうございます」
「いえ、俺がここに来たのは、あなた方特務三課に協力するためでもありますから」
「え…」
「グレートマジンガーが私たちに…?」
(なるほど…社長からのアシストというわけですか…)
メリルとエイミスはそれを聞いて驚くが、アマサキだけがその意図を理解していた
そんな中、クロウはティラネードとキャリアクスに近づいた
「よう、無事か?」
「ありがとうございます。今回のご支援、特務三課を代表して感謝いたします」
「気にしないでくれ。次元震に巻き込まれた俺を助けてくれたのはあんたたちなんだろ?だったら恩人の危機くらい助けるさ」
「次元震…?」
聞き覚えのないワードにエイミスはメリルを見るが、メリルも首を振る
「主任、次元震ってなんですか?」
「いや、俺も初めて聞く」
「主任も知らないんですか?」
このなんでも知ってそうなサイゾウですら知らないことがあった方にビックリするラミィだった
「…やっぱり完全に俺の知らない世界みたいだな…しかも超次元世界のことも知らないのか…」
「え…?」
「知らない世界…あなた何を言ってるの?」
急にトンチンカンなことを言い出したクロウにメリルが問い詰める。どう答えるべきかクロウは迷い…
「あー…実は俺はだな…」
『その説明は私に任せな』
「どわっ!?」
話に飛び込んできた聞き覚えのある声にクロウは驚きの声をあげた。なぜならコックピットのモニターには再びおキツネ博士が映っていたのだから
「チーフ!?なんでモニターに映っていやがるんだ!?」
『あんたが別の並行世界に跳ばされても連絡が取れるようブラスタに細工したからに決まってるだろ?しかし今回は超次元世界とは異なる並行世界だったからね、僅かな次元の穴を探すのに少し時間がかかったんだよ』
スラスラと出てくるトライアの説明に絶句する。ただしそれはクロウではなく…
「へ、並行世界…?」
「…まさか、あなた方は…」
これまでの情報からサイゾウが導き出した答え…それをトライアが答えた
『察しがいいね。そのブラスタに乗っているクロウは、私たちのいる超次元世界からやってきた………いわゆる別世界の人間さ』
一瞬の沈黙
「ええええええええええええっ!!!?」
ラミィは、今日何度も叫んだ時よりも…恐らくこの先の人生でも絶対超える日がないというくらいの音量で絶叫した