あ、ちなみにキリコ今59レベです
VTXユニオン社付近の森林地帯。そこにティラネードと相対するように1つの機体が宙を浮いていた
全体的に丸みの帯びた漆黒のフォルムに頭部にはウサギの耳のように伸びた長いセンサー。左前腕の側面には各種武装に設定される3本の円柱状の突起が突き出しており、背面には飛行機の水平翼とジェットエンジンのノズルを組み合わせたようなスラスターを持つ
「お疲れ様です。特務一課のサギリ・サクライです」
すると漆黒の機体から若い女性の声が聞こえてきた
サギリと名乗った女性の声を聞いて、相対していたティラネードに乗るサイゾウが反応する
「サクライ…お前か…」
「お知り合いなんですか?」
「サギリ・サクライ…通称『特務一課の堕天使』…」
「堕天使…!?」
随分と物騒な呼称にラミィは驚く
「俺と同期入社でもある」
そう、サイゾウとサギリの2人は同じ時期にVTXユニオンに入社した社員同士であったのだ
「久しぶりねトキトウくん。とりあえず、昇進おめでと」
顔見知り同士だから、サギリも気兼ねなくサイゾウに話しかける
しかし、その柔らかい雰囲気は一気に変わる。まるで蛇が獲物を付け狙うかのように
「でも残念…!今日で特務三課が解散になるからすぐ降格になっちゃうけど」
「解散…!?特務三課が!?」
唐突なサギリの宣言に困惑するラミィ。そんな新人に説明すべくサイゾウが語り始める
「プロジェクトTNDは地球連邦軍の次期量産機コンペに提出する機体の開発だ。だが、その前段階として複数の機体が社内コンペにかけられていた」
「そしてその最有力候補だったのが、私の乗っているこのゲシュペンストよ」
「ゲシュペンスト…」
「元々、次期量産機コンペは特務一課が担当するはずだったのに、土壇場で横からかすめ取られたんでうちとしては収まりがつかないわけ」
特務三課が課せられた業務の内容こそプロジェクトTNDの完了…即ちティラネードを完成させることである。しかし、本来ならばティラネードではない機体がその役目を務めるはずだったのであった
それがこの「ゲシュペンスト」。ドイツ語で“幽霊”の意味を持つその機体は、漆黒に包まれた色合いで揺れる姿にピッタリな名前といえた
「それで現場を不満を収めるためにうちのティラネードを潰しに来たのか」
「おたくの課長さんも承認した以上、ここで私が勝ったら大人しく社長に失敗の報告をしてもらうわよ」
つまり、ティラネードを討ち倒しゲシュペンストの方が優秀だということを知らしめる。それが特務一課の挑戦状の内容である
「お前が勝ったらな」
そんなサギリの不敵な発言に挑発で返すが、サギリはサイゾウの挑発に乗らない
「悪いけど強いわよ、私もゲシュペンストも。ただ強いだけじゃなく、高い拡張性の証として今回は修理装置まで装備してきたのよ」
「しゅ、主任…!どうするんですか!?」
こうも自信満々に来られては不安にもなるのか、ラミィがサイゾウにそう聞く
「業務内容は向こうが説明した通りだ。聞いてなかったのか?」
「じゃあ、戦うんですか!?」
「模擬戦だ、負けても死にはしない。もっとも…プロジェクトを奪われればサラリーマンとしては死ぬがな」
「サラリーマンの死…」
サイゾウの言葉は実に重みがあった
「心配しないで、ラミィ・アマサキちゃん。特務三課が解散になれば、あなたは当初の予定通り戦術研究課に行けるから」
「!」
「何となく分かるわよ。あなた…三課に配属されたことに不満があるんじゃない?」
「…確かにサクライさんの言う通りです」
「ラミィ…」
サギリに指摘されたことをラミィは肯定した。サイゾウが黙って見ていると、ラミィはさらに口を開く
「でも、昨日教えてもらいました。やりたいことがあるならそこで探せばいいし、見つからなければ作ればいいって。少なくとも、不満だから特務三課を出ていけばいいって言うのは違うと思います」
「ラミィくん…」
「よく言った、ラミィ。それでこそ特務三課の一員だ」
「あら、思ってたよりしっかりしているのね。気持ちのいい新人ちゃんじゃない」
自分なりの答えを出した新人の姿にサイゾウたちやサギリが感心して
「…なあ、1つ聞いてもいいか?」
そんなタイミングで声をかけてきたのは、今まで終始無言のクロウであった
「どうした?」
「なんで俺もここにいるんだ?」
その質問の意味を理解するにはクロウの置かれた状況の説明が必要だろう
現在、クロウはブラスタに乗った状態でティラネードとゲシュペンストの間に挟まる形…まるで試合の審判員のように配置されていた。それも誰からもなんの説明もなく
これだけでもうお察しである
「模擬戦である以上死ぬわけじゃない…だが課の存続がかかっている手前、本気で勝つ必要がある。場合によっては両機とも動けなくなる可能性を考慮してお前も出撃させたわけだ」
「…鉄也は?」
「社内の尻拭いを他人に任せるわけにはいかない。だから建前上は派遣社員であるお前に白羽の矢が立った」
つまり、クロウは面倒な役割を任されたということである
「フッ…これも貧乏クジの
「何か、すごく悟っているわ…」
エイミスにそんなことを言われてることも気づかず、
「ところで彼は?」
「あいつはクロウ・ブルースト。昨日スコート・ラボからブラスタに乗って特務三課へ派遣されることになった」
「スコート・ラボ…?聞いたことがないわね…」
「気にすることはない」
「それもそうね。特務三課が解散しちゃえば元の会社に戻るだけだし」
ブラスタのことが気になりはするが今は考えないようにするサギリ
「頼むぜサイゾウ…!ここで負けて特務三課が解散されれば路頭に迷うことになる。借金も返さずにラボに戻れば、鬼チーフに何を要求されるか分かったもんじゃねえ…!」
「必死ですね、クロウさん…」
借金のことになると普段の余裕がウソのような必死ぶりにクロウの評価が若干下降したのだった
そんなこんなで余計な経緯があったが、いよいよ特務三課VS特務一課のファイトが始まる
「じゃあ行くわよ…!恨みっこなしで!」
「トキトウ主任、サクライくん…残念ながら乱入者です」
しかし模擬戦が始まるその直後、狙ったかのようなタイミングで所属不明機が戦闘エリアに侵入してきた
「所属不明機、戦闘エリアに侵入!ネオ・ジオンと
「そんな奴らにネオ・ジオンや
エイミスからの情報を聞いたメリルが忌々しげに呟く
「脱走兵なんでしょうね、多分…」
「比較的治安がいいと言われる日本ですが、こうも無法者が蔓延るとは…悲しいことですがこれも時代ということでしょうか…」
黄昏の時代ゆえの無法化に思わずアマサキもため息を吐く
「ご安心を、課長」
だが、それを聞いたサイゾウはティラネードを強盗団たちの前に動かした
「何をするんですか主任!?も、もしかして…!」
「そのもしかしてだ」
サイゾウの行動と状況から考えれば、これから戦闘するとしか思えなかった
「地球連邦軍の次期制式採用機がセコハンに乗った山賊に負けるわけにはいかない。さっさと蹴散らして戦闘データになってもらう」
「き、昨日の今日でまた戦闘になるなんて…!」
そうラミィが困惑していると、ティラネードたちの後方から鉄の勇者が姿を現す
「そういうことなら俺とグレートの出番だな」
「鉄也さん…!」
「なら俺も働かねえとな」
そんな鉄也を見て、クロウもブラスタをティラネードの隣に移動させた
「課長さんよ、聞きたいんだが…」
「大丈夫ですよクロウくん。VTXの勤務時間は9時から18時までですが、ちゃんと残業手当も深夜手当も支給されますよ」
「よしっ!それが聞けりゃあやる気が出るってもんだぜ!」
(守銭奴…)
ラミィははしゃぐクロウを見て、そんな単語が頭に浮かぶ
「礼を言うぞ、クロウ、鉄也」
だが、とサイゾウはセリフを付け足す
「見せ場はティラネードにゆずってもらう」
「特務三課の俺やクロウはそれでいいが、彼女は同意できないようだぞ」
当然それはゲシュペンストに乗るサギリ
「ちょうどいいわ。ここで私とゲシュペンストの活躍を見せれば、連邦軍と社長へのいいアピールになる」
「思考様式が主任と一緒…!」
「ついでと言ってはなんだけど…」
ギュン!と黒い機体を木星帝国のモビルスーツ「バタラ」に接近させる。そして左前腕部に格納してあるビームサーベルを取り出し肉薄、撃墜するとそのまま元の場所に戻ってきた
「特務三課の皆さんにもゲシュペンストの力を見せてあげる」
早速1機倒したサギリはそう宣言した
「いいだろう。こちらも礼代わりにお前にティラネードの力を見せてやる」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思います!」
「心配するな新人」
的外れなことを言うサイゾウに突っ込むラミィだが
「俺が守る」
「主任…」
サイゾウのその言葉に頰を染めた。この子チョロすぎである
「そんじゃあ、悪党退治といくか!」
クロウの言葉を皮切りに、4機は強盗団と戦闘を開始した