誰もいないレストランに持中さんと入って
いく……と、てっきりそう思っていた僕は拍
子抜けしてしまった。
そこにはすでに、任三篩君、高宮君、逆珠君
に柳前君が揃っていたからだ。
「おやおや……これはこれは…
いるところにお会いしましたねぇ…仲睦まじ
くて大変お羨ましい限りです…フフッ…」
そこでその場の四人がこっちに気が付くと
、分かっているくせに任三篩君が僕らがさっ
きから一緒行動してることをからかって来た。
「ちょっと!そんなんじゃないよ…ほら、持
中さんだって困ってるじゃないか…ねぇ!持
中さん!━━…持中さん?」
僕が彼女に同意を求めようと横を向くと、
どこか呆けた様子で若干顔を赤らめていたの
で肩を叩いて再度呼びかけた。
「ねぇ…大丈夫?持中さん」
「……っへ!?あ、ああうん大丈夫、大丈夫
…あ、あはは……ゴメンゴメン…それで、何だ
っけ?」
「えっと、僕なんかとそんな風に見えるなん
て迷惑だよね?……って話だったんだけど、
別に気にしなくて良いからね?あんなの、任
三篩君がただからかってるだけなんだからさ
!」
「う、うん……」
「佐藤殿の言われる通りにござる…男女の仲
など軽々に周囲が取り沙汰して良いものでは
ありますまい…少々お戯れが過ぎるのではあ
りませぬか?任三篩殿?」
そう言う柳前君の顔も若干綻んでるのを僕
は見逃さなかった。
まったく…みんなしてそういうところばっか
り反応するんだから………かと思えば他の二
人が焦れったそうに先を促す。
「そんなことより、早く話を進めるっスよ~
!なんの為に呼ばれたのか気になって気にな
って仕方が無いっス~~!!」
「そうだ、この愚民共が!いつから貴様らは
我が輩の一分一秒を無駄にできる程偉くなっ
た?……まったく、
約一名は言い方がいちいち癪に障るけど、
話題を切り替えてくれたので良しとしよう…
…というかめんどくさい……さて━━
「……うん、それじゃあ、話を━━━「えー
っと…場所はこの辺やったかな?」!」
突如、僕の台詞に被せるようにして誰かの
言葉がこのレストランに割り込んできた。
声の聞こえた方に目を向けると今まさに出入
口から入って来たであろう荒海君の姿が見え
た。
「わぁーいっ!」「レストランだーっ!」「
食べ放題だーっ!」
「「バイキングだー!」」
「おーっ!!こりゃ、ずっと前にレストラン
でバイトしてた頃を思い出すぜーー!そうい
や、丁度こんな感じだったなぁー」
「なんかすごい高そうな雰囲気のレストラン
よね…でも、逆に緊張して食べづらいかも…」
「レストランとは、もともとフランス語の「
restaurant」からの外来語で、その由来は
ラテン語で「再度」「良い状態にする」「回
復する」と言う意味の「restauro」であり
、これらの語系から……」
「う、うん…錯刃さん。もうそこまでで……」
「む…そうか?」
「……ああっ!!なんと素晴らしい!!私め
のようなゴミにまでこのような最高の食事の
場を与えて頂けるとは…なんたる至福!!感
動のあまり神に感謝を捧げずにはいられませ
ん!!」
その彼の後からも続々と皆がこのレストラ
ンに入っていく、そして延べ十六名?もの超
高校級がこの
「……ゴクッ」
「…ほら!ミナたん!みんな来たよ?主旨を
説明しないと!私も手伝うからさ」
「う、うん…わかったよ!ありがとう、持中
さん!」
正直、これほどの人数(僕を除いて…十五
名?)もの人から注目を浴びて流石に緊張し
てしまった。でも、持中さんが僕にだけ聞こ
えるように手伝うと言って元気付けてくれた
のでなんとかなりそうだ。
若干持中さんの助けに期待しつつも自分でも
気をしっかりもってみんなの前に立った。
「え、えーと…実は皆に提案があるんだ。今
、モノクマから提示されている校則とは別に
自分たちでルールを設けたいんだよね」
「うん、そうなの……ほら、モノクマのルー
ルにあったでしょ?この船で二週間過ごす以
外にここから出るためのルール……」
「ここで人を殺めれば、学級裁判が起き、そ
の渦中に於いて人を殺めた事実を隠し通し、
己以外の全員を処刑へと導かねばならぬ……
さもなくば……」
「……自分が死ぬ、か」
「……そんなことにさせ無い為にも、自分た
ちでも対策は打っとくべきだと思うんだよね
……もちろん、わざわざそんなリスクのある
方法を取るような人はいないだろうし、起こ
らないとは思うんだけどさ…」
「しかし、それでもしも、死人が出ました、
何もしていませんでしたでは示しも付かない
か…愚民の中にも少しは考える者がいるよう
だな」
「いや、これは起きた時の言い訳的なものじ
ゃなくて……そんな事を絶対に起こさない為
のものなんだ!」
「なるほど…じゃあその“自分たちで決めた
ルール”とやらを聞かせてもらおうか」
ここで、星木馬さんが肝心のルールについ
て質問をした。
そこで僕はルールの詳細を皆に伝えた。
・夜時間は出来るだけ立ち歩かないようにす
る。
・朝食、昼食、夕食の三食は全員で集まって
摂る。
・この船について調べた内容や情報を全員で
共有する。
「……以上が僕たちが決めたルールだよ」
「まぁ、そんな所だろうな」
「確かに、良い心がけだ」
「うん、これなら大丈夫なんじゃないかな?」
「で、でも…これで、本当に大丈夫なんです
かね?」
「……ふむ、一つ、質問させていただいても…
…よろしいですか?」
「何かな?任三篩君」
「この、食事の全員参加ですが、何らかの事情
で……例えば風邪など?、で寝込んだ場合も参
加しなくてはならないのですか?」
「ううん、なにか事情があって欠席しなきゃな
らない場合はその限りじゃないよ。でも、欠席
する場合は他の誰か…この場合はこの人は確実
に参加するだろうって人、若しくは僕か、持中
さんに知らせてくれれば後は皆に伝えるよ」
「成程、、、ん~~フフ…お答えいただきア
リガトウゴザイマス……フフ、それを聞いて
安心しましたよ、ええ…」
「次は我が輩からだ。くれぐれも下手な受け
答えをしてくれるなよ…」
任三篩君の次は高宮君が質問の声を上げた。
「え、え~と…どうぞ」
「さきほど貴様は、夜時間には出来るだけ出
歩かないようにと宣っていたな…しかしだ、
先ほどのように個人の事情で夜に部屋を出な
ければいけないような状況に陥ったらどうす
るのだ?また、そのようなことを許せばその
ことを口実にいくらでも夜時間に行動できて
しまうが?」
「え、え~…それは……」
「ちょっと、てる兄ぃ!ちゃんと話聞いてた
?
に威圧しないでよ!」
「貴様こそ我が輩の話を聞いていたのか和菓
子娘……この取り決めはこの船内における僅
かばかりとは言え存在するコロシアイの可能
性を潰す為のものだろう…それがこんな程度
の抑止力で良いと?」
「そこは…もう、それぞれの判断に任せるよ。
皆それぞれ事情はあるから強制はできないけ
ど…でもせめて注意だけはしておいて」
「……そうか。我が輩からは以上だ」
この提案には賛同の声を上げる人、疑問を
抱く人…そしてやっぱり、不安の声を上げる
人もいた。
「でもよ~…やっぱ決められた時間に集まんの
なんかめんどくせえよな…」
「そうじゃのう…例え皆が律儀に守っちょって
もその決まりを破り続ける奴がでたら他の
に示しもつかんし」
「そうなったら、次々に決まりを破る奴が出
てきちゃうじゃないっ
すかーー!」
「でもそんなのやってみなきゃわかんないじ
ゃん!!」
「ならば、一応の対処法としてやって見ては
どうだ?別にそれほど自由を奪うものでもな
いだろう…ただ決まった時間に皆で食事をし
、今日あったことや見たものや聞いたことに
ついて話し合う程度だろう?夜時間のことに
ついても強制ではないし、もし出歩く場合は
個々に警戒すれば良いだけの話だ」
「まぁ、確かにな…」
「結局、先のことなんて後になってみないと
わかん無いっスもんね…じゃあ、いっそやっ
て見ますか!」
「そうじゃのう……決まりを破るもんが出る
と決まった訳や無いしのう……」
錯刃さんのその提案で不安の声を上げた三
人はとりあえずこの場は納得してくれたよう
だ。
「では、一旦はこの方針で様子見……という
ことで良いでござるな」
「……ふん、そうするほかにないのならどう
しようもあるまい」
続いて、柳前君と高宮君が賛同してくれた。
…そこからは皆、程度の差はあれど反対する
人は居なかった━━なので、この場は一時解
散となった。あ、あと━━━━
「食事はこの船の『食堂』で取るからその時
は集まってねっ!!」
その僕の台詞を受けてからかは分からない
けど鑑さんたちが騒ぎ始めたのを皮切りに皆
それぞれに動き出す。
「わーい!」「わーい!」「「皆で食事だー
」」「「毎日三食パーティーだー!」」
「え………………この一つ屋根の下ならぬ一つ
船の中で、男女が食事、プラス、パーティー
、イコール……乱交っ!?」
「ちょっと機利旗さん、早速変な意味に捉え
て暴走しないの!」
「アハハっ☆こあちゃんのへんた~~いっ!」
「そ、そんなっ////!!た、たたた、たと
え…へ、へんたいだったとしても…変態と言
う名の紳士ですッ!!!」
「機利旗さん……それフォローになってない
よ…あと、紳士だと男の人だよ………女の人は
淑女」
「はぅっ!?」
機利旗さんの暴走気味な発言に副本さんが
ツッコミをいれる。
……先ほどまでの緊張した雰囲気から一変、
皆それぞれに自分のペースのままに賑やかに
騒ぎ始めた。
「まぁなんつーか、あれだろ?要はコロシア
イの事なんか頭からぶっ飛ぶくらい全員で二
週間遊びまくればいいんだろ!?楽勝じゃね
ーか!!」
縦王君が右手でガッツポーズを取り、息ま
きながら大声でそう言い放つ。
「その為に必要とあらば是非なんなりとお申
し付けください。微力ながらお力添えさせて
頂きます。皆さま、なんとしても共に惨劇を
回避致しましょう」
「その役割、この私めにも是非ともお与えく
ださい!……ああっ!皆さまの土台、踏み台
となれるこの喜び…!!なんと素晴らしいっ
!!」
褐斎さんが静かに、しかし、内に力強さを
秘めながらそう響いた。
黒田君は……なんていうか素直に喜べないけ
ど、とにかく、協力してくれるみたいだ……
なので、早速お願いしてみることにした。
…偶々近くに居た黒田君が何かうわごとを言
いながら褐斎さんから離れて行ったのを見計
らって彼女の方へ歩いて行った。
「あの、褐斎さん……」
「はい、如何なさいましたか?」
「…それじゃ…早速で悪いんだけど、お願い
しても良いかな?」
「はい。どうぞご遠慮なさらず…」
「それじゃあさ…みんなの分の食事を用意し
てもらう事って出来るかな?」
僕がそうやって褐斎さんになんの下心も無
く頼んでいると、どこから嗅ぎ付けて来たの
だろう…持中さんが傍によってきた。
「おっと~?早速アプローチかな~~?二ヒ
ヒ…感心感心♪」
「ちょ、ちょっと持中さん……////! ……
っと、どうかな?引き受けてくれる?」
「はい、承知致しました。私でよければ…お
任せください」
僕が寄ってきた持中さんを押しのけ気味に
そう問いかける………すると、さもそれが当
然かのように聞き入れてくれた。
「ありがとう!良かった~……正直、ぱっと
見で料理も出来そうなのは褐斎さんくらいだ
と思ってたからさ」
とその僕の台詞に反応した人が横からなん
か主張してきた。
「ちょっとちょっと~!? いくら何でもそ
れは聞き捨てならないんですけど~!! う
ちだって出来るし!!」
「え?でも、和菓子専門なんじゃ…?」
「ちがいますぅ~~っ!! ちゃんと普通の
料理もできますぅ~~!」
「ワシにも出来るぞ!!」
……という荒海君の聞こえた気がするけど、
僕と持中さんは全力で無視する。
しかしそれは、褐斎さんには聞こえていたみ
たいで……━━それなら手伝っていただk━
と危うく応えそうになるのを二人で全力で阻
止した。
その後、持中さんが改めて主張する。
「…とにかくっ!うちも出来るから!いっそ
和菓子の方が難しいまであるからっ!」
「そうなのですか? …それなら、食事の支
度を手伝っていただいてもよろしいのですか
?」
「え?全然良いよ!……むしろやらせてくだ
せいっ!!お願いしやすっ!」
……なんだか、受け答えがすごく不安なん
だけど…━━どうなっているのか分からない
けど何故か歯が出っ歯で目がキツネ目だし━
━凄い小物臭だ……人はここまで小物臭さを
漂わせることが出来るのか…………
でも、そこまで言うなら止める理由も無いか
な…別に持中さんが料理下手な根拠も無い訳
だしね………というかむしろ期待しても良いく
らいだ。
なんと言っても彼女は超高校級の和菓子職人
なのだから。
「まぁ、そこまで言うなら別に止めないけど
さ…ほんと~に大丈夫?」
「いや……っていうか逆になんでそこまで疑
うのかわかんないんだけど……まぁまぁ!
…ちゃんとミナたんのこと!アピっとくんで
、任しといてくださいよ~~っ!!」
「ん!?///…そ、それは置いといて…それ
じゃあ、頼んだよ持中さん」
「……うん、頼まれてあげよ~っ!!」
笑顔と共に敬礼をして元気に応える持中さ
ん。
……心なしかいつ
もより元気そうなのに…なんだろう、どこか
寂しさを感じるような……?などと、気のせ
いなんだか違和感なんだかよくわからないよ
うな感覚に戸惑っていると、持中さんのより
豪快且つ圧倒的な声量が飛び込んできた。
……そのボリュームの所為か若干風が来た。
「よっしゃーーー!!皆で集まって宴会なら
食材がおるろう!これから大量の魚を釣っち
ゃるき待っとれ!!」
「いやいやいや!?魚だけ大量にあっても困
るしっ!!……っていうかアレはもう止めて
……見てるこっちがヒヤヒヤするっ!!それ
なら、料理手伝ってくれた方がましだから!
チョットマッテ~~! ……よし、じゃあ、
エソラン!いこっか!」
「はい、参りましょう」
気合いと共にそう叫び、そのままこの部屋
を出ていこうとする荒海君を持中さんが慌て
て呼び止め、(荒海君はしぶしぶ従った)次
いでに料理に誘って食堂の厨房に褐斎さんと
共に食事の準備をする為に向かった。
その際にこちらにお辞儀する褐斎さんと、笑
顔で手を振る持中さん、次いで肘を持って拳
を顔の前にガッツポーズをこちらに決めた暑
苦しくも豪快な笑顔の荒海君がこの部屋から
退出した。
と、皆が各々のペースで自由に行動を始める
中、僕は錯刃さんに声を掛けられていた。
どうやらこの提案を持ち掛けた事に関しての
お礼のようだ。それは元々は彼…任三篩君か
らの助言が元だし、僕の方こそ助かったと彼
女に伝えた。
「なに、少しでもそこにある不安要素に対し
て予防策は打っておいて然るべきだと、そう
判断したまでだ。気にするな」
相変わらずの何かを企んで居そうなその目
と顔の下半分を覆うほどのマスクでその内心
を推し量り辛いけれど、気遣ってくれている
のは伝わって来たのでその言葉はありがたく
受け取っておいた。
そう言えば、錯刃さんってあまり感情を表に
出さないけど、普段って何を考えてるんだろ
う…?少し気になるな…聞いてみよう!僕が
そう考えて錯刃さんに声を掛けようとしたと
ころで、奥の方から逆珠君の“あぁぁ~~っ
!!!”という叫び声のあと、
「やっぱうだうだ考えるのなんて性に合わな
いっス~~!こういう時はやっぱガツンと行
くのが一番っスね!!」
と、声を張り上げ、凄い勢いで扉の方へ走っ
ていった。
それはもうガッツリ特訓━━秘密?特訓━━
をするのが目に浮かんだ……でも、恐らく彼
なりに色々考えてくれたんだろう…まぁ些か
容量を超えてしまったみたいだけど…そのこ
とに若干呆れつつ、一方で感謝していると、
ふと他にも扉の方へ向かっていくのが目の端
に入ってそっちに顔を向けた。
すると柳前君が扉の前で“では、拙者も鍛錬
に入る故、これにて御免…”と皆のいる方へ
一礼して扉を開けて出て行く━━━それを見
送ってから僕も、錯刃さんにさっき思いつい
た質問をする。
「ねぇ、錯刃さん…」
「ん…?なんだね」
「錯刃さんって普段どんな事を考えてるの?」
「私か?そうだな……つい先ほどまでは我々
をこの船に乗せたモノクマなる者の意図を考
えていたのだが、今それを考えても答えは出
なかったので、今は危機的状況下における脳
の神経細胞(ニューロン)のシナプスの伝達
速度の値とそれに伴う人間自体の判断力、ま
たそこから行動に至るまでの時間の関係性と
そのような危機的状況で起こる興奮状態時に
発せられるアドレナリンの分泌量との関連性
とその時に最も陥りやすい思考回路の傾向、
統計等、それらを加味した上で人がその状況
に於いて生存できる確率とあらゆる状況のシ
ミュレーションを……」
「うん…参りました!!……ごめんなさい。
もう、そこまでで…」
「む…そうか?……もうすぐ終わると思うの
だが…」
「ううん………心の底から遠慮します…」
「ふむ、そうか……それは残念だ」
明らかに話が長く成りそうな嫌な予感がし
た僕は、こっちから聞いておいて申し訳ない
気持ちになりながらも錯刃さんの話を打ち切
ってもらった。
……それを断るときの僕はさぞかし遠い目を
していたことだろう。
「話は終わったか?それなら、俺はもうここ
を出るとするぜ……じゃあな」
「あっ…待って!星木馬さん!」
話は終わったらしいことを確認するような
声が聞こえたのでそちらに顔を向けると、出
て行こうとする星木馬さんを副本さんが呼び
ながら追いかけていく所だった。
それに対して彼女は少し煩わしそうに、振り
向く。
「なんだ…食事の時間にはまだ早いだろう…
その
「……ううん…そうじゃなくて…一緒にこの
船を見て回ったり、皆で遊んだりしないのか
な…なんて」
「……悪いが、俺は俺の
合う所だからな」
そういうと彼女は自身の腰に巻いているベ
ルトのホルダーからカードの束を出して見せ
た。
ああ、なるほど…彼女は“超高校級のカード
ゲーマー”…つまり、今から自身の持つデッ
キの調整やら整理等をこれから行うつもりな
んだ。
語り合うとは恐らくそのことを指しているん
だろう。
などと考えていると、更にそこから話声が聞
こえてきた。
「語り合う…って…それってひょっとしてそ
のデッキの調整や整理…とか?…!それなら
私も手伝━━━」
「いや、今の俺はこいつらの他にカードを持
っていないし、整理するほどの枚数でもない
…もしそうだったとしてもすぐに終わる」
「え……じゃあ、一体何を……」
「それは、戦術やコンボを考えるとか………
まぁ色々とあるが一番は俺と
の間でだけ通じることを……色々と、な」
「そ、そうなんだ…それじゃあ私は……」
何かとても意味深でその
ても気になったけど、それよりも、力になれ
ることが無さそうだと少ししゅんと落ち込ん
でいる副本さんが少し可哀想だった。
しかし、それは星木馬さんの次の言葉で杞
憂に終わる。
「だが、出来ることもある」
「えっ…!それはなに!? なんでもするよ!」
「なら、この俺と対戦……
「!?」
「今の己のレベルを見るには誰かと闘うのが
一番だからな。もし、手伝ってくれるという
のなら、俺と
唐突な展開に端で見ている僕はついて行け
ずに置いてきぼりをくらう。
しかし、そんな僕のことなど知ったことでは
ないとばかりに話は進む。
「えっ……え!?でも、今持ってるデッキ以
外には持ってないって……それに、私は初心
者だし……ご期待には添えないかも…」
「……誰が、この手に持っているカードしか
持っていないといった?」
彼女はそういうと革ジャンのその裏側を見
せる…そこには、およそ五つのカードの束、
いわゆるデッキが入っていた。
「これは俺が大会で優勝を勝ち取った時その
ままの構成のデッキだ……今手に持っている
ものを含めて六ある」
その言葉通り、彼女のデッキは今手に持っ
ているものを含めて六個であり、革ジャンの
内ポケットにも丁度あと一つデッキが入りそ
うなものが一つあった。
「そして、ルールも戦術も考え方も俺が全て
戦いながら教えてやる……問題ない」
「……!! それじゃあ!!」
その時、その言葉を聞いた彼女…副本さん
の顔が嬉しさに染まる。
━━━どうやら、取り越し苦労だったみたい
で安心した。
「(優しいな……星木馬さん)」
少しの不和からも良からぬ事態に繋がってし
まう気がしていたからどうなるか不安だった
けど、これなら心配なさそうだ。
辺りを見渡すと、鑑さんたちが昼にどれだけ
食べられるかを競う為に食事の前にアクティ
ビティやゲームセンター、レジャー施設で勝
負をする話で盛り上がっていたり、縦王君が
苦流々汽さんを、その苦流々汽さんが機利旗
さんを誘っていたり、褐斎さんは黒田君と一
緒に皆で食べられるような食事を用意しよう
としている所だった。
それには、荒海君と持中さんが手伝いとして
名乗りを上げる。
しかしその中で、気になる二人組の姿があっ
た━━━━任三篩君と高宮君だ。
何やら二人で話し合っているようだがその内
容までは聞き取れない…とそこに横から錯刃
さんの声が割り込んできた。
「どうやら、この一件はこのまま杞憂で終わ
りそうだな」
その彼女の声に僕も返事を送る。
「うん。取り越し苦労で嬉しいことがあるな
んてね」
「ああ、だが予防は大切だ。例え取り越し苦
労に終わろうとも、施していなかった後悔よ
り、もっと施せたかも知れないという後悔の
方が次に繋がるだろうし、建設的だ」
「…そうだね」
そうだ。
誰も死なせたりしないし、何も起こさせるも
のか!……第一、僕は平穏無事なのが一番良
いと思うし好きだし何より僕のポリシーだ!
必ず、ここで、何事も無く、平和に、二週間
を過ごして見せる!
……内心でそう息巻いていると、隣にいる彼
女から気になる一言が発せられる。
それは、僕もさっき気になったことでもあっ
て━━━
「まぁ、秘密裏に動いている者たちもそこに
居ることだしな」
「え…?」
その彼女の視線の先には今まさにこのレス
トランから出て行こうとする二人…任三篩君
と高宮君の姿があった。
「追うかね?」
「えっ…!」
「別に良からぬ事を企もうというのではない
だろう…いや、むしろその逆なのだろうが、
気になる事を放っておくのは些か持ち悪いだ
ろう?」
「確かに……」
二人に疚しい事が無いのは分かっているつ
もりだし、信じてもいるけれど、でもそれが
僕ら全体の為だったとしても何をしようとし
ているのか気になるし、もしもそのしようと
していることが逆効果になってしまった日に
は目も当てられない……なので、二人を疑っ
てるようで悪いけど僕は錯刃さんの提案に乗
って二人の後をつけることにした。
そして、その二人の後を付けている最中━━
━━
「━━━ところで君は尾行の経験はあるかな」
「えっ…どうしたの?急に…」
「実は私はそういう事はしたことが無く、や
り方をまったく心得ていなくてね…そこで君
に尾行の経験はあるかと訊ねたのだが……」
「えぇー……今頃それ言う!?……ってあれっ
!?……まずい、見失うっ!」
「おい、こら…ちょっと待ちたまえ!佐藤君
っ!」
僕が小さく叫んで錯刃さんを軽く非難し、
一瞬目を離してまた戻すと二人の姿はものの
見事に無くなっていた。後ろか錯刃さんの呼
び止める声が聞こえてくるが構わず慌ててそ
の二人を探そうと二人がさっきまでいた場所
まで駆け寄る。
「えぇーっと、確かこの辺のはず……」
《xbig》「わっ!!!」《/xbig》
「っ!!うわあああぁぁぁぁぁぁっっっ…う
っ!!いてて……」
僕が立っていたところはちょうどT字路に
なっており、その曲り角から突然、誰かが驚
かせるようにして出した大声に驚き、かくも
無様に尻餅をついてしまった。
━━━そして、その姿を見た先ほどの仕掛け
人と思われる人物の、まったく忍ぶつもりの
なさそうな忍び笑いが耳に入りこんでくる。
「くっ…クククククっ………いやぁ……すw
みまwせwん…大丈夫ですか?……あと、私
たちに何か御用ですか?」
「まったく……このマヌケ……」
笑い気味に差し出された手の先に視線を向
けると、そこには今しがた探していた二人……
任三篩君と高宮君が━━━任三篩君は笑いを
堪えながら?(差し出している方と反対の手
で腹を抱えている)、高宮君は心底呆れ、額
指で抑えながら━━そこに居た。
「あ、あれ~~…?見つかっちゃった?」
「逆にどうして見つからないと思った?」
「やれやれ…だから待て、と言っただろうに…
…」
「どうやら、ん~~その制止は間に合わなか
ったようで…この有様を見るに…ククッ……」
全員からの呆れやら、諦めやら、笑いの視
線を受けて僕は恥ずかしさに顔を赤くしなが
ら、差し出されている彼の手を取って立ち上
がった。
「う、うん…あのさ、いつから分かってた……
とか聞いても良いかな…」
「いつからだと?もう一度言うぞ?何故いま
のでばれて無いと思った?……いや、やはり
答えなくても良い…望み通り我が輩が答えて
やる……いつからと言うなら、最初からだ!
貴様らのそのチョロチョロとした尾行とも思
えん尾行は終始目障りで仕方なかったぞ」
「ククク……アハハハハハ!!……ッ失礼!ア
ハハ……」
「……そこの奴などあの部屋を出た所からず
っとそんな調子だったしな」
いまだにクツクツと笑いを堪え気味に笑っ
てる任三篩君を流し目で指しながら、言葉を
飛ばす高宮君。
………いや、いくら何でも笑いすぎなんじゃ……
「……そ、れ、で……改めてお聞きします…私
たちに何か御用ですか?」
「ああ……実は…」
僕と錯刃さんはもう観念して、二人に事情
を説明することにした…と言っても、ただ二
人の行動が気になったってだけなんだけど……
「━━なるほど~…それで、私たちの後を付
けて来られたと……それは、それは……大変ご
苦労様でしたぁ~ふふ…」
「随分と余計な気を回してくれたものだな?」
「さて、こちらの事情は話した。それで?疚
しい事は無いとは思うが…それなら何をしよ
うとしていたのか説明してはくれないか?」
彼女がそう切り込むと二人は顔を見合わせ
、その後に発せられた言葉は僕らの予想の斜
め上を行った。
「まぁ、私は構いませんよ?」
「ああ…というか…初めから貴様らには言う
つもりでいたからな」
「?」
「えっ!?そうなの?」
「ええ、なのでお二人にだけ分かるよう行動
したのですが…」
「そんな回りくどいことしないで言ってくれ
ればいいんじゃ…?」
「それを貴様らに言われる筋合いは無いし、
そもそも四人も固まって部屋を出たら目立つ
だろうが」
「……と言うわけでお二人には私たちの後を、
うわけです…ですが…ふふ…」
「貴様らの……特にアホ毛、貴様の下手な尾
行で逆に目立ちはしないかと内心穏やかでは
なかったぞ…」
「だが、そこまでして他の皆に隠す必要があ
るのか?」
「それも先程と同様の理由で、団体だと目立
ちますし…不要な混乱を避けるためというの
もあります……それと…」
そこで、指を折り曲げながら話していた任
三篩君が二本目の指を折ったタイミングで横
にいる彼に視線で先を促す。
「今、全員の脳内がお花畑で能天気極まりな
いとはいえ、平穏無事にことに変わりはない
…なら、下手に事を荒立てることもないだろ
うと……そういう事だ」
そう言ってから鼻を鳴らしながら腕を組み
そっぽを向く高宮君。
そうか、そんなことを考えてくれてたんだ…
結構、優しいところがあるじゃないか…と意
外に感心する一方で、なんで僕たちを選んだ
んだろうとふと考えた。
「でも、僕たち以外にも秘密を守れそうな人
はいるけれど…僕たちを選んだ理由は?」
「そこは我が輩の直勘だ」
「え?」
「我が輩が、貴様らならすぐには殺されない
…または何かに巻き込まれて行動不能に陥る
こともないし秘密を守れるだろうという己の
勘を信じた結果だ」
え…それって…もしかして……
「ええ、その通り…我ながら実に役立たずな
ことこの上無いと思えてなりませんが……何
かが起きる要素も情報も少ない中で、誰が無
事で居られて、誰が危険に遭遇するかなど私
には見当も付きません。まぁ、言うなればこ
の船の中の誰もがその可能性を孕んでいると
いえます…なので今回は彼の“才能”にあやか
ろうと思ったしだいです、ふふ…はい」
「なるほど…それが“超高校級の幸運”……か
…」
「……まぁ、そういう事だ」
つまり、誰がどうなるか予測できない(な
るとすれば、だけど)この状況下で誰を選べ
ば良いかを少なくとも“超高校級”と認めら
れる程の“幸運”を持つ高宮君に委ねたって
ことだ…確かに、ただ闇雲に協力者を選ぶよ
りかは良いかも知れない……でも……僕はさ
っき高宮君に自己紹介をしている時に彼から
伝えられたことを思い出していた。
「そうだ、よく覚えていたなアホ毛…ついさ
っき貴様に話したように我が輩の幸運は……
が得られるだろうとは思うがそれまではどう
転ぶのか…我が輩にもわからん……故に警戒
だけは怠らず、あまり頼りにし過ぎるな……
まあ、無駄かも知れんがな」
ここまで警戒を促すのは、本人でさえどう
なるか分からない幸運が既に
という事に他ならないといんだろう………
それはまるで、目的地に着くように選んだ電
車のその行く末は乗ってそこに着くまでわか
らないようなものだ。
僕自身、彼からの才能の来歴を聞かされてい
たのでそれは納得のできる話だった。
とそこまで考えていると、彼女が不意に本題
にメスを入れる。
「……私たちを選んだ理由は分かった…こんな
回りくどい方法をとったこともだ……それで
はいよいよ…“何故
か、という質問に移ろうか」
彼女はそこまで言うと僕たちが向かおうと
していた先に目を向けた。
……よく見るとそこには僕が持中さんに仲介
してもらって高宮君と自己紹介をしあった、
あの階段があった。降りるとエントランスホ
ールに出られる、あの階段だ。
「っ!?」
「……」
……いつの間にまたこんなところに…とい
うか、三人とも全然驚かないな…任三篩君は
いまだに、人当たりの良さそうでありつつ、
何か裏がありそうな不気味な雰囲気をだして
笑顔でいるし、高宮君に至ってはだた、“フ
ンッ…”と鼻を鳴らし腕を組んでそっぽを向
いている……指摘をした張本人の錯刃さんは
言わずもがな…眉一つ動かさない…一度来た
場所だったのも手伝ったのか僕なんて……
相当驚いたっていうのに……なんでそんなに
平気なんだ?
…そうやって一人で、展開について行けずに
戸惑っていると、不意に任三篩君の声が廊下
に響く。
「オヤァ~~……、アハハ…これは驚きまし
た………いつから、お気付きになられてたん
です?」
質問をする相手に手を向けながら彼がそう
問いかけるのを聞きながらその意味を考える。
いつから気付いていたか…っていうのはこの
場所が目的地だっていつ気付いたかってこと
だよな……とか、考えているうちに彼女が口
を開いた。
「いつからだと問われれば、ここに立ち止ま
って話し合いになる直前からだ……実際、こ
こに来るまでに右左折できる道や、階段を下
る道も通ったがそれらには目もくれずに素通
りだったのにも関わらず、この辺りにくると
何かを探すような素振りがあったのでな…」
「……ええっ?そんなに挙動不審でしたか?」
「こう見えて、観察眼は良い方でね。それに
、何かを探す仕草と言うのはいくら隠そうと
しても行動に出てしまうものだ…まぁ、探し
物に注意を払っているのだから当然と言える
が…後は、それだな」
そういって彼女が指差す方にその扉はあっ
た………………………「情報管理室」という、
あからさまに怪しそうなプレートのかかった
扉が。
「……あ、あれ~…?こ、こんな怪しさ全開
の部屋…あったっけ?」
「ああ、貴様の言いたいことは分かるぞアホ
毛…我が輩もこの部屋を見つけたのは偶然の
産物だったからな…いや、我が輩にとっては
必然か?」
「つまりは、あれです。彼のように、“幸運
”でもない限り、見つけられないような?場
所にあるとか、創意工夫等の施しがなされて
いた、ということです、はい、んふふ…」
「え…?」
任三篩君がそう続き、それに対して更に、
高宮君が“そういう事だ”と続けた。
そして、得意げにこの“情報管理室”を見つけ
た経緯を語り始めた。
彼曰く、始めは何気無くこの廊下を歩いてい
たところ、ふと━━この廊下に設置された━
━窓が気になり、外を見ると窓にうっすらと
映ったこの廊下の壁に奇妙な違和感を覚え、
その原因を探ろうとその壁を調べてみると、
その壁に何か継ぎ目のような線が入っていて
、試しに壁を手で叩いてくとその裏に空洞が
あるような手応えがあり、次に継ぎ目の部分
を引っ掻くと張り紙のようなものが剥がれた
のでそのまま剥がすと巨大な防火扉が現れた
のだと言う。
「……そして、その防火扉を開けるとこの部
屋を見つけた、と言うわけだ」
「……あれ?でも、それを見つけたのってい
つの話?僕と持中さんに会った時にはもう見
つけてたの?」
「ああ…既に見つけ、そして試しに開け放っ
たままにしておいてみた…因みにカモフラー
ジュ用の張り紙を剥がしたのは半分までだ。
全て剥がしてゴミとして捨てるのも面倒だっ
たので元通りに張りなおしておいた…防火扉
が見えるか?ほら、そこだ」
……確かに、情報管理室の数メートル先に
防火扉等によくある円形の取っ手の付いた、
廊下を完全に塞げる程の大扉が壁に重なるよ
うに付いていた。
……恐らくあれが右側を中心に反転されるこ
とで、
でも……っていうか………
「今さらっと
「言ったが、それがどうした?」
「あぁ……いや……それはもういいや………」
あの時、既に実験台にされてたのか……
ってことはあの台詞も?
―――《「ほ~う?まさか…この我が輩の他に
もこの場に目を付けた者がいるとは驚きだ…
…」》
…………まぁ、どこか納得できない感はある
けど、ひとまず脇に置いとこう……
「でも、僕達が通った時にはやっぱりこんな
部屋、見なかったと思うんだけど……」
「ふん…貴様らが気付かなかったのも無理は
ない…なぜなら、この廊下自体が構造的死角
を作り出しているのだからな」
「え…? それって、どういう…」
「そこの防火扉の張り付いている壁をよく見
てみるがいい」
「………!!」
彼が腕組をしながら顎でしゃくって見せた
先に、防火扉があり、その壁を僕らの進行方
向へ目でなぞって行くと、まるで、その部屋
の扉を隠すかのように出っ張っているのが分
かった。
つまり、僕らのいる位置よりもその先の方が
廊下が若干狭くなっていた。
「……ええ、しかも?今の私たちのようにあ
えて意識してこの方向に進みでもしない限り
、普段の生活においては、んん~無意識的に
この道を逆に進むことを選びたくなるような
施設や部屋の配置に…」
「確かに、そのような加工が随所にみられる
ようだ……」
「ああ、実際に我が輩が気付いたときも、こ
の道を今進んでいる方向とは逆に進んでいた
しな……理解できたか?アホ毛…」
なるほど…僕たちは今とは逆方向の道に常
に誘導され、且つ、この廊下の構造で気付か
ないようにされてたのか…――その時はそれど
ころじゃなかったけれど━━それに高宮君が
防火扉を開けてなければ今こうして見つける
こともできなかっただろうし、それにもしも
錯刃さんが気付かなかったら、または彼女が
気付かず、且つこの二人が教えてくれなかっ
たら━まあ、それはないだろうけど━僕は気
付かずにここを通り過ぎていたかも知れない
……そんな仕掛けや構造になっているのを感
覚的にというか違和感として、なんとなくだ
けど、感じる……気が付いた今となっては、
だけど。
「例えば、サブリミナル効果と言う心理現象
を耳にしたことはないか?…今まさに、そこ
の壁にも使われているのだが…」
確か、聞いたことがある。
一つの映像の中に━━例えば映画とかに━━
ほんのコンマ数秒分ほど、何か別の画像か映
像を、ある一定の間隔で挟むことで、その映
像を見ている人が知らないうちに、挟まれた
映像に基づく行動を取りやすくなってしまう
…って話しだったと思う。
━━さっきの映画を例に取るとポップコーン
やコーラなどの映像が挟まれていて、その映
画館ではポップコーンとコーラの売り上げが
かなり高かったらしい━━と、錯刃さんの言
葉でそんな話を思い出したので言ってみると
概ねあっていたらしく彼女から同意を得るこ
とができた。
「ああ、その認識で大体合っている。 その
映像を視認している者が気がつかないような
その瞬間に別の映像、ないし画像を紛れ込ま
せることによってその者の潜在意識に働きか
ける…その仕組みがそこの壁に施されている
のだが、この場合は廊下の壁に一定の間隔で
仕込まれているようだ」
そこで、壁に近づいて一定の間隔で彫られ
た溝を見てみるとその溝の中に………
に沿って
……これか
「……あ、あったよ! …これ?」
「そうだ……先ほどの話を聞いて壁を見てい
たら確かに違和感を感じてな……さっき、壁
に近づいて見た時に見つけた。この廊下には
これをはじめとする様々な仕掛けが施されて
いるようだ」
「そういえばさぁ…任三篩君はどうやってこ
このことを知ったの?……もしかして、刑事
の捜査力…とか?」
「ん~~、そうだったら良かったんですけど
ね~?残念ながら、私は
だけでして……ふふっ……すみません……」
その言葉と共に任三篩君は高宮君を手のひ
らで指し示す。
━━なんだ、任三篩君も僕と同じ普通なとこ
ろがあるや━━と僕は一人だけ取り残されな
かった安心感を得ると同時にほんのちょっと
がっかりもした。
そこで、再び錯刃さんから質問があがる。
「それで?この部屋を見つけたは良いが、こ
の後はどうするのかね?」
「え……そ、それは……」
「ふむ、まぁそう来ると思っていた……それ
については考えがある」
“ふっ”…と不敵な笑みを浮かべながら言う
彼をみて、僕の脳裏にかなり物騒な想像がよ
ぎったので思わず口に出してしまった。
「……! まさか…“ぶっ壊して入ろう”なん
て言うんじゃ……」
そして、口に出してしまったことによって
まんまと揚げ足を取られてしまう僕。
「クックッ……あはは、ん~~いやはや、そ
んな突飛な想像に至るなんて、見かけに寄ら
ずダイナミックな方だ…んふふ……」
「…おいアホ毛…我が輩がそんな考え無しに
見えるのか? 貴様の脳内は筋肉に侵食でも
されているのか?」
任三篩君からは笑われ、高宮君からは飽き
れと心外さの混じったような顔を向けられて
いる。
…なんだろう、高宮君の台詞を聞いた瞬間
“考える筋肉”=“むしろ知能的”になったの
だけど…それ以上は踏み込むのはまずい気が
したので全力で記憶から消去した。
「何もそこまで言わなくても……でも、それ
じゃあどうするつもりなのさ!」
「…はい。そこの彼と話し合ったのですが…
ん~、この扉をここに居る四人だけで、交代
で見張ろうかという話になりまして…是非ご
協力の方、お願い致します・・・はい」
僕が高宮君にそう言い返すと代わりに任三
篩君からこの扉の見張りの協力を要請された。
そこで、僕は再び情報管理室のプレートに目
を遣る。
…ここまで、手の込んだことをしてまで隠さ
れていたこの部屋……少なくとも絶対に何か
あることは確実で、そしてもしかすると…こ
の部屋は━━━
「うむ、この部屋はモノクマを操っている何
者かが使用しているか、既に中に居るか、そ
れでなくとも確実に何かしらの関連があるの
は間違いないだろう」
「……ふん、やはり貴様はそこらの雑種とは
違うようだな…無論、我が輩も同意見だ。そ
もそも、この部屋を見張ることに思い至った
のも我が輩だしな」
僕の心を読んだかのようにタイミングの良
い錯刃さんに対して高宮君がこの部屋の見張
り案は自分由来であることを明かす。
そこで、僕に話が回って来た。
「おい、アホ毛…貴様はどうなのだ?見張り
に協力する気はあるのか?」
「うん、確かに協力するのは、むしろそうし
たいくらいなんだけど……」
「だけど…なんですか?」
そう言い淀むと任三篩君がすかさずその言
葉じりを拾い、その先をまたも錯刃さんに取
られる。
「見張りの順番、および形式のことだろう?
確かにまず確保しておきたい事案ではあるな」
……錯刃さん、本当は“超高校級のさとり妖
怪”とかなんじゃないだろうか。
まぁそんなわけ……ないか━━
そんな風に一人で軽く戦慄していると不意に
高宮君が口を開いた。
「さて、
か…これ以上人目に晒す必要もなかろう。そ
れと…見張り順とその形式についてだが…
それはそこの刑事に考えがあるそうだぞ」
そう言って、高宮君が任三篩君に目を向け
ると、その場の全員の視線が集中した。
その皆の視線に応えるように彼は説明を始め
た。
「ン~…そうですねぇ、まず、四人も同時に
見張る必要はないと思います。目立ちますし、
何より大変です…え~、となると次は負担の
少ないやり方…二人組で、十二時間ごとに交
代するやり方ですが、これでは結局一日の半
分が持っていかれてしまいこれでも負担が大
きい現実的ではありませんし?(何よりこの
船旅を楽しめません)となると、次に考えら
れる方法は四人で一日を四等分する方法です
が、そうなると流石に…お二人には失礼です
が皆高クンや綾目サンの番が回って来た時に、
見張りが手薄になってしまうでしょう……で
すから?二人一組でその二人はいつも同じ組
にはせずに、一日四回の交代制!これで良い
かと思うのですが…如何でしょうか?……あ
!あと……最初に
と組むのでも構いませんが一番手は私が見張
りましょう」
「……だそうだぞ」
任三篩君の説明に高宮君が仲介する形で同
意した。
……これで大体のことは決まっただろうか…
と他に決めておくことは無いかと僕が思案す
るその横でに錯刃さんが確認を取り始める。
「それでは、決定事項を確認しておくぞ?
まず、私か佐藤君のどちらかが高宮君、任三
篩君のどちらか一方とペアを組み、この扉を
見張る。 そして、それは一日四回の交代制
とする…これで良いか?」
「ああ、構わんぞ」
「ええ、良いでしょう…それでは組み分け…
…と言っても二通りしか無いわけですが…ど
うされます?」
「我が輩は、そうだな…ならば、始めは医者
と組ませろ。そこで突っ立っているアホ毛よ
りは使えるだろう…まぁ、どうせ、そいつと
も組むことになるわけだが………ハァ……」
「…………」
「綾目サンは…それでよろしいですか?」
「ふむ、問題ない」
「それなら、私は皆高クンですね…よろしい
ですか?皆高クン……」
「ああ、うん…大丈夫だよ、あっでも……一
つ確認するけど………」
「どうした?佐藤君」
「当然だと思うけど、見張りは食事時や就
寝時間は除外する……よね?」
「まぁ、食事は皆さんと全員で摂るという取
り決めですし、この部屋の主も全く眠らない
わけは無いでしょうから、そうするつもりで
したが?」
「だよね。うん、ありがとう。そこまで削っ
てとなるとかなりキツイからさ………」
「まあそうでしょうねぇ……私個人に関して
だけ言えば、睡眠も食事も最小限にして張り
込むなんてことはしょっちゅうでしたが……
それ同列に語るのは酷というものでしょう…
…何より、そもそも私たちはここに羽を伸ば
しに来たのですから……」
錯刃さんの確認に腕を組んだまま素っ気な
く返事をする高宮君。
任三篩君も了承して、組み分けに入ると高宮
君が錯刃さんを━僕にしっかり毒を吐きなが
ら━選んだ。
なので自動的に僕は見張りの一回目は任三篩
君と組むことになる。
━━が、その前に時間についての確認を入れ
、任三篩君がそれに答えた。
そこまで決まったところで、ふと電子生徒手
帳を見ると丁度十二時を回ったところだった。
液晶画面がデジタル表示で12:00を示
していた。
その表示を見てしまったからかは分からない
けれど朝から何も食べてないことも思い出し
た僕は急に、お腹が減っていたことも思い出
したかのように腹の虫を鳴らした。
━━ぐぅ~っ……
「……あはは…色々決まったら、なんか安心
して…お腹減っちゃったよ…」
恥じらいに顔を赤らめ、お腹を押さえなが
らつぶやく僕。
それを聞いて皆も今が昼時であることを自覚
し始めた。
「ふん、随分と正直且つ正確な腹時計だな。
食い意地が張っているというかなんというか…」
「おやおや~…あはは…もうそんな時間です
か…それなら、皆さん食堂にお集まりでしょ
うし?そろそろ向かいましょうか」
「ふむ、栄養補給は人体が活動する上で重要
だな。まぁ、人は別に食を絶っても生きては
行けるが…むしろ健康法として昨今注目され
ているほどだし、断食も療法としては古来か
ら民間に伝わっており、7日間の断食によっ
て体重の低下、内臓脂肪の減少、脱水に伴う
ヘモグロビン・尿酸値の上昇…「あ、もうそ
こまでで」」
……おかげで高宮君からは呆れられ、任三
篩君には軽く笑われた後で若干気を遣われ、
錯刃さんからは断食関連の高度な知識を延々
聞かされかけた…まぁ、言えば案外素直に止
まってくれるけど…で、僕の腹の虫がなった
(恥ずかしい)ことを契機に、四人でこの船
の食堂に向かうことになった。
「おっ…
思い出したように高宮君がそう響くと同時
に反対側に開かれていた防火扉を起こして再
び閉ざした。
…そうすることによって今まで僕らの話題の
中心だった情報管理室の扉は完全に
━━そして、今しがたその
ずの僕の目からもその存在が若干霞んだこと
に軽く戦慄した。
私は厨房で一人、これからご用意させて頂
くお食事の用意、その作業の傍ら、今の集団
生活のことについて考えていました……━━━
━━━ちなみに今回ご用意させて頂くのはカ
レーライスで、厨房に用意されていたスパイ
スの内八種を適度な分量で人数分となるよう
に、先に火の通りにくい野菜を煮込んでおい
た鍋の中へ加えて行きます。
香辛料はターメリック、ハラペーニョ、シナ
モン、カルダモン、パプリカ、コリアンダー
、サフラン、ガラムマサラを入れ━━とろみ
をつける為に小麦粉等を入れていますがここ
では省略致します━━大きめの寸胴鍋を火に
掛けながらゆっくりお玉でかき混ぜながら私
はこの奇妙な集団生活の事を考えていました。
━━━この生活は一体何の為にあるものなの
でしょう……?誰が何の目的で行っているの
でしょうか……勿論、あのモノクマ様の仰ら
れることをそのまま受け取るのならば私たち
に骨休めの場を設けたという事なのでしょう
…それに、これが学園側のイベントのような
ものである、とは、
スで仰られてもいましたし……しかし、なら
ば何故、あのような恐ろしい
のかという疑問を抱かずにはいられません。
あのようなルールの所為で私たちは団結や決
断を余儀なくされ、純粋にこの旅を楽しめず
にいるのですから……団結する事や決断をす
ることは構いませんし、寧ろ良い事なのです
が、それがやむを得ず、必要に迫られて行わ
なければならないところが残念でなりません。
それにやはり引っかかるのが、単なる私たち
の休息の為だけにしては大掛かりというか規
模が大きすぎる気が致します……一体、誰が
何の目的で………
「………ん、…………ソ………ラ………、エ……
……ン!……………ラ……ン………っ!!エ……
ソ……………………、ねぇ!エ~ソ~ラ~ン~
~!エソランってば!」
「……っは! す、すみません! ……如何
致なさいましたか?」
カレーのルウの入った寸胴鍋を火に掛け、
中のルウをお玉でゆっくりかき混ぜながら考
え込んでいた私の意識は持中庵戸様のお呼び
かけによって現実へと戻ることができました。
「ぶぅ~~……如何も何も、もうご飯炊き上
がったよ!サラダとかも人数分用意できたし」
「もう、盛り付けも終わっちゅーぞ」
ふと、横を見ると持中庵戸様と荒海梶鬼様
がそれぞれ炊けた白米の丸く盛られたお皿と
副菜のサラダが盛られたお皿が人数分並べて
ある台を指差していらっしゃいました。
「……っていうか、そのお鍋大丈夫なん?焦
げたりして無い?」
「…?…! ええ、大丈夫です。ありがとう
ございます……うん、丁度いい塩梅ですね」
「おお!食欲を誘うええ匂いしとるなぁ~!」
私もまだまだ未熟です。
作業中に現を抜かしていたばかりか、人様に
迷惑をかけてしまうなどと……その内心をう
っかり私が漏らしてしまい(失敗続きです)
それを聞かれた持中庵戸様は━━━
「そんなん別にかまへんよ~!寧ろ、そうや
って遠慮されるほうが嫌なくらいや! なっ
!かじきち!」
「そうちや!もっとド~ンと頼りにしてくれ
てもええぜよ! こうして出会うたからには
、もうワシらは他人やない! 家族みたいな
もんやないか!!」
持中庵戸様に励まされ、更に荒海梶鬼様か
らも心強いお言葉を戴きました。
━━それが、私にとってどれほどありがたい
お言葉だったか。
……そんな風に一人感慨に耽っていると、持
中庵戸様からご要望が上がりました。
「……っていうかさ~!いい加減、その“フ
ルネーム+様”も呼びにくくない? もっと
こう…あっちゃんとかあんこちゃんとかさぁ
~…」
「あ、あっちゃん…」
「ワシもその…様なんてつけられるとぞわっ
とする思うとったところや……そういうわけ
でワシも、もっと砕けた呼び方で頼むわ」
「……! 承知致しまし「あーー!ダメ!
ダメ!!敬語も無し!同級生なんだからタメ
一択!」」
「わ、わかったわ……ふふっ…これから、よ
ろしくね!庵戸! 梶鬼君!」
「……うんっ!改めて、よろしく!」
「おうっ!よろしゅう!」
最初は…なんというか、とても戸惑いまし
たが、心のとても暖かで爽やかな心地に私の
気持ちは晴れ渡り、例えこの先何が起きよう
と皆さまと……いえ、皆といっしょなら乗り
越えられる……そんなことを切に思いました。
暗闇が支配する空間に浮かぶ幾つものモニ
ターが淡い光を放ち、その空間が全くの闇に
塗りつぶされるのを阻む、薄暗い部屋の中━
━━━とある人物はモニターに映し出されて
いる十六名の男女が各部屋、または施設に散
らばったり、特定の人物同士で集まったり、
または一か所に皆で集まり食事を楽しむなど
、互いに親睦を深め合う光景を見ながら一つ
、溜め息を吐いた。
「……
いけど……
しかし、その言葉とは裏腹にその者の目に
は最早、失望とも絶望ともとれるような、ど
んな絶望や失望よりも
れているのだった。
「……でも、まぁ…どうしても諦めきれない
んだよね……せめて、
……無駄かもだけどさ」
モニター画面の前でそう呟くその者の眼に
はモニターに映った者たちに向かっていく一
体の白黒のクマのような物が瞳に映し出され
ていた。
「やあ!やあ!ボクモノクマぁ~!この21
な世紀に於いて、世にも珍しいしゃべくりま
くるクマだクマ~~!絶滅危惧種なんて目じ
ゃないぜぇっ!! ……あ、なんか今のしゃ
べくりまくるのところ、なんか回文っぽくね
? え?どうでもいい?そんなこと言うなよ
~~!ここではボクは船長なんだぞぉ~~!
ちょっとは付き合えって~ ……ハッ!?ク
マで、喋って、しかも船長!まるで珍しさの
三重苦や~~! あ!なんで三重苦かって言
うと、大抵の場合、珍しい=人気じゃん?人
気者って辛いって言うじゃん? つまり“モ
テるクマはつらいよっ”みたいな~~?あ~
~!つらいわ~~!モテ過ぎてつらいわ~~
! この辛さはもう!ヘレンなんとかも裸足
で逃げ出す勢いだよね!」
…モニターの向こうにいる自身の操る人形
がおよそ己らしく無いことをペラペラと喋っ
ている。
そうだ、そうでなくてはならない…バレてし
まっては元も子もないからな……━━画面越
しに人形を操るその者は深い諦めを瞳に宿し
ながらも、さながらそのように予め行動をプ
ログラムされたロボットのように、または死
してなお動き続ける
を次に進めた。