モブ、頑張る   作:つきね

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メモ帳に書き溜めてたやつを投下。原作キャラは全く出てきません。


モブ、仲間を見つける

 

 

「本当に何なんだよ!!!ふざけんなよ!!!!」

 

 

 若い男の叫び声がして、はたと足を止める。

 声の聞こえた方ーー前方に顔を上げれば、そこにはスーツ姿の男が一人。

 

 

「来る日も来る日も仕事、事件、死体、死体、死体!!!ああもうマジで意味分かんねぇんだよ……いい加減にしろよ!!!」

 

 

 頭をグシャグシャと掻き乱しながら、錯乱したように喚き散らす。目を血走らせたその男の異常な様子に、周りの通行人の何人かが私と同じように立ち止まる。

 平日の19時前後の今、駅前のこの道には学校や仕事から帰宅している人が多い。かく言う私も大学からの帰り道だった。

 

 

「ここは日本だろルステンブルクじゃねぇんだよ!!俺の側でくだらない犯罪なんか起こすんじゃねぇ!!!警察仕事しろ!!!!」

 

 

 叩きつけるように言葉を吐き出す男は、相当なストレスを抱えているらしい。

 …男の望む通り、警察を呼んで仕事をしてもらうべきだろうか。周りの人たちも同じようなことを考えているのか、こそこそと「これ、やばいやつ?」「警察呼ぶ?」という話し声が聞こえる。

 

 トートバッグの中からそっとスマホを取り出し、電話のキーパッド画面を開く。さて、どうするべきかなぁ。そう考えつつ、そっと1、1、9、の番号を押す。

 後はそこにコールするだけーーだったのだが。

 

 

「見た目は子どもで頭脳は大人とか、そんなのどうでもいいんだよ…俺は前も今もモブなんだ…傍観者なんだよ!!仕事で手一杯なんだよ余裕なんてこれっぽっちもねぇんだよ!!俺を巻き込むんじゃねぇよ!!!!」

 

 

 どこか聞き覚えのあるそのフレーズに、私はピタリとその指の動きを止める。それに、今彼が言った「前も今も

」という言葉。

 それはつまり、もしかすると、彼も私と同じーー

 

 

「……ああ、つまり、あれか?俺が死ねばいいのか?そうすれば、こんなクソみたいな所から逃げられるのか?なあ」

 

 

 そう言って彼がスーツのポケットから取り出したのは、手のひらに収まるほどの何かだった。彼がその何かを握り手を振れば、そこから現れる鈍色のソレ。見まごうことなくソレは、短くも鋭利なナイフだった。

 

 

「もう疲れた、疲れたんだ。何もかも、全部、全部、全部!!!!」

 

 

 ざわり、と通行人の間の空気が揺れる。彼の奇行を見た誰かの「きゃーーっ!!」という甲高い悲鳴が上がった。

 私は茫然とその様子を眺めていたが、はっと我に返る。このままではマズイ。警察に連絡するか?いや、でも、したところで間に合うのか。

 思考が交錯する。しかし、時間がない。どうにかしなければ、どうすれば、どうすれば。

 

 

「死んてやる。死んで、こんな世界からおさらばしてやる……!」

 

 

 彼がナイフを自らの喉に突きつける。その先端が喉に食い込みそうになるのを見た時、なりふり構っていられなくなった私は、思わず人混みを押しのけて飛び出した。

 

 

 

***

 

 

 

 この町は、世界は呪われている。

 

 いつからか年を越さなくなったカレンダーに、毎日のように事件が行われるこの町、米花町。外を出歩けば流血沙汰なんて珍しくもなく、挙げ句の果てに一週間に一度は死体を目撃する。

 しかし、この米花町に住む人々がそれを可笑しいとは思っている様子はないのだ。

 

 俺は、この街が恐ろしかった。犯罪に慣れきったかのようなこの街の人々が、ただただ怖かった。だから米花町の外へ出ようとすれば、その度に何かしらの邪魔や妨害があった。

 何度引っ越しをしようとしても、引っ越し業者のトラックにエンジントラブルが起きたり、タイヤがパンクしたりして引っ越しが出来なかった。その引っ越し業者が唐突に倒産したりしたこともある。

 仕方なしに自分の車で町の外に出ようとしても結果は同じで、その度にタイヤのパンクが起きた。

 全てを捨てる覚悟で一人身一つで街を出ようとすれば、雷と共に大雨が降り始め、公共の交通機関は運転見合わせになり、川は増水。あまりの降水量に、結局家に戻ることしか出来なかった。

 

 異常だった。異常な筈なのに、それに気づいているのは俺だけ。『前』の世界のことを覚えていて、この世界が何なのかを知っている俺だけが正常で、異常。異分子でしかない俺は、世界の真ん中に独り取り残されていた。

 

 そのことに、もう耐えられなかった。殆どヤケと自暴自棄で、人目も憚らずナイフを喉に、突き立てる。

 その時だった。

 

 

「ネズミ嫌いな猫型ロボット!!!」

 

 

 声が聞こえた。その声は、人混みから飛び出してきたらしい若い女性のものだった。

 

 

「……は?」

 

 

 思わぬ乱入者に、思わずぽかんと口を開ける。いや、だって今、俺が死のうとしてるって時に、態々飛び出てきて言うのがネズミ嫌いな猫型ロボットって…………え、猫型ロボット?

 

 

「月に代わってお仕置きなセーラー服の美少女!!ポケットなモンスターと電気ネズミ!!」

 

 

 多分、大学生くらいの年齢のその子は…彼女は、俺に向けて必死に言葉を並べる。

 それは周りの野次馬には訳のわからないもののようで、困惑したような空気が広がっているのが分かる。

 

 しかし、俺にはそれが何なのか分かった。だって、それは『今』の世界にはなく、『前』の世界で存在していたアニメ作品のことを示していたから。そして、それを知っている彼女は、つまり、俺と同じーー。

 

 それを理解すると同時に、手が震えだす。胸に今までに感じたことがないくらいの思いが、歓喜が溢れて、ジワリと涙が滲む。鼻の奥がツンとした。

 

 

「海賊王を目指す麦わら帽子の男の子!!日曜日の朝のプリティーでキュアキュアな戦う女の子たち!!!それから、えっと、えっと、」

 

 

 力の入らない手から滑り落ちるように離れたナイフが、コンクリートに当たってカランと音を立てる。

 崩れ落ちた膝をついて、目の前の彼女に必死に手を伸ばした。

 

 それを見た彼女は、物怖じせずに俺の側に駆け寄ってくる。周りの奴らが彼女を心配してか「危ないよ!」と声をかけていたが、彼女はそのまま俺の前に膝をついた。

 

 彼女の耳にかかっていたた黒髪がサラリと落ちて、肩にかかる。垂れ目の縁取りの中に佇む焦げ茶色の瞳が俺を見つめた。

 

 

「君、は…まさか……」

「……はは、そりゃ、ビックリしますよね。私もビックリしました。私以外にも居るなんて思っていなかったので」

 

 

 彼女はそう言って、俺の手を両手で包み、少し困ったように笑った後、ほっとした様子で小さく息を吐く。

 

 

「でも、間に合って良かった。やっと出会えたのに、もうお別れだなんて、私は嫌ですよ」

 

 

 そう言って彼女がジワリと涙を滲ませるものだから、それにつられて、目尻に引っかかって溜まっていた涙がボロボロと溢れる。

 

 やっと会えた。会えたんだ。俺は一人なんかじゃなかったんだ。

 

 そんな安堵の気持ちで胸が一杯で、俺は彼女に縋り付いて大人気なくワンワンとその場で泣いた。

 

 それから数分もかからずにやってきたパトカーと警察に、俺は彼女と共に御用となったわけである。

 

 

 

 

 

ーこれは、二人のただのモブが、犯罪が日常茶飯事の町で共に何とか生き延びようとするお話ー

 




連載だけど続かないんだお!
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