機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-01 悪夢の胎動(1/9)

プラントは首都アププリウスの町外れ。

そこは昼には太陽を拝めず、夜も月明かりが届かない。

そんなある家の2階の、

ほの暗い部屋の中にイスに腰かけた二つの人影が浮かぶ。

「今日は相談があって来たんだけどねぇ……ゴトウダさん?」

声の主は声からして女性らしい。

砂のような色味の巻き髪が右も左も肩まで垂れているのは分かる。

しかし、その背後に光る赤茶けた電灯の影になって、

彼女の顔はまるでポッカリと開いた穴のように見える。

「何でもいいが……

何かの悪巧みに私を巻き込むつもりなら、悪いが乗る気はない。

私も暇ではないのでね」

向かい側の彼は、

その眼鏡により、カメレオンのように大きく見えるその眼を、

すぼめて嘲(あざけ)るが如く相手を見つめている。

「ラクス様に嫌われては困ると?」

次に、この男──クラウス・ゴトウダが、

細長く白いタバコを口に運んだとき、

その目前にあった古びたテーブルに、1枚の小切手が落とされた。

それも、女の手から。

「……何のマネだ?」

「それは前金です……好きな額を書いてもらって構いません。

一応、失敗したときのリスクも考えてね」

「話が見えないな。何をするつもりだ?

仮にも、この国の外務委員長ともあろう者が……」

暗く大きな穴に見えた彼女の顔から、

ミミズでも這ったような動きが見えたかと思えば、

直後に少し顔を下げたことと相俟(あいま)って、

その大きく口角の上がった口元が浮かび上がる。

随分と、狡猾(こうかつ)そうな微笑である。

「……この国は滅びる。そう、遠くない未来にね」

女は、その腰をゆっくりと上げた。

木製だったらしい、そのイスが小さくカタッと鳴った。

その足が2歩、3歩と前に出て、

呆れた顔を浮かべるゴトウダの左腕から黒いオイルライターを奪うと、

キーンという音を立てながら開き、引き起こされた火を、

ゆっくりとゴトウダのタバコへと寄せた。

「お気づきでしょう?」

ライターが閉じられ、タバコの火も煙へと転じる、ほんの数秒、

女の顔が完全に見えた。

それが何に似ていたかといえば、ヒラメであろう。

離れた両目が同じように意地悪そうに笑っていた。

「……フン」

ゴトウダが首を右に振った。

煙がそのモーションに合わせて空中に線を描き、

そして右側にて暗く濃い息としてゴトウダの口より排出される。

「まあ、今日はひとまず、これで……

スコルツェニー参謀長の『オバマ』出征の影響を見つつ、

お互い、よく考えましょう。身の振り方は」

女の気配が足音と共に遠退いていき、やがてはドアを開け、外へ。

その間のどこかで一度だけ、足音が止むと共に、

「暗殺は、最もメジャーな免職方法です。プラントではね。

……ご存じでしょう?よく」

そんな言葉が聞こえてきた。

足音が聞こえなくなった頃になって、ゴトウダもまた呟くのだった。

「道端に落ちた犬の糞のような女め。誰が踏んでやるものか」

などと、その手に握られたタバコ──ゴロワーズの箱を握りながら。




同じように握るにしても、数本ばかしタバコの入った箱と、
単なるメモ用紙とでは、訳が変わってくるもので。
太陽が燦々(さんさん)と降り注ぐ病室にて、
ベッドに横たわる、
全身包帯まみれの木乃伊(みいら)男──ワイリー・スパーズは、
メモ用紙をクシャッと左手で握り潰して、こう漏らした。
「……あのなぁ。アレハンドロ」
彼の視線は、右手側に向けられている。
ベッドの右側にうつ伏せるブドウ色の頭の持ち主は、
何を隠そうアレハンドロ・フンボルト、その人に相違ない。
枕代わりに曲げた両腕を下に敷くこのアレハンドロに、
名前を呼ばれて答える声はない。
「あのなぁ……」
バツが悪そうにワイリーは右手で後頭部をかきながら、
視線を外し、左手側に広がる外の景色に目をやった。
「いや、分かるぞ?俺だってなぁ……ショックなことはよ。
こう何度もこんなことが続きゃ、誰だって嫌になるさ。そりゃあ」
チラチラと目線を下げてアレハンドロを確認しては、
すぐ外にまた目を向けるの繰り返し。
そのうちに手が後頭部より剥(は)がれて、
「俺は病人なの。慰められる立場の人間なんだよ。
どっちかっつーとな!」
語調は強いが、目を合わさないワイリー。
外向きながら、話を続ける。
「……だのに、よぉ?何だよ、連日通いつめて、愚痴りがって。
俺はカウンセラーじゃねぇの!むしろ患者なの!……アンダスタン?」
ムッスリと顔を上げるアレハンドロ。
だが、それでも肩は落ち、顔も下を向いている。
「……悔しいんすよ。俺」
キョロキョロ動いていたワイリーの頭が動きを止めた。
まあ、それでも向いているのは外の方だが。
心なしか、表情も硬くなる。
「何でこうも……上手くいかねぇんだか」
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