機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『これは、これは……お楽しみ中に邪魔をしてしまったようで』
燻(くすぶる)る煙の奥で、画面に映ったホルローギンの顔が綻び、
そして、それを隠さんとばかりに軽く頭が下げられる。
「……用件は?」
パイロットの男──ホルローギンが呼ぶところのロコ・オツォが、
こう応じる声は低く速く、そしてやや聞き取りにくい。
『「ハワイ」で「モンロー大統領」の「覚え書き」を見つけた……』
くわえたタバコの先、灰が垂れ下がり始める頃、
ロコはそれをウィスキーのボトルみたいな携帯用灰皿に落とした。
『……頼めますか?』
「あぁ……」
『……では』
画面からホルローギンの顔が消える。線のように細くなって。
するとすぐにロコはピアノの鍵盤みたいな機器に手を伸ばし、
そのひとつを、
本当にピアノを弾くようにして押し、それから、
「……ロビー、聞こえるか?」
と口を鍵盤の側に立つマイクへ寄せた。
『ハッ』
返答した相手は、声からして女性のようだ。
「……『蓋』をしろ」
それに相手は少し間を明けてから、
『……ハッ』
とまた返事をした。回線は間もなく切れる。
そこから2、3秒と経たず、またタバコの箱に手を伸ばすロコ。
レーダー上では、例の密集体系を展開するジズの群れが迫っていた。
「……チッ」
なんて舌打ちをしたのとほぼ同じタイミング、
立ち込める煙の中を抜け出して、《ジズ》の群れの先頭、
アントンの《ジ・ゾウム》が顔を出し、
次の瞬間には更に5、6機の《ジズ》の体の一部が見え始めた。
当然のことだが、そこは相手の方も同じ。
皆、一様にプラズマ集束ビーム砲なんて長ったらしい名前の、
あの長い筒をロコの《ハイザック・カスタム》に向けている。
光出す先端。
しかし、ロコの方はシールドも張らなければ、避ける素振りもしない。
違和感からか、《ジ・ゾウム》が筒を持つ手がやや落ちる。
もっとも、すぐに持ち直して、銃口を向け直すのだが。
コクピットの中では、
空のタバコの箱を怨めしそうに見つめるロコの姿。
上空の敵に目さえも向けていない。
『死ね!』
なんて息巻いたヤツがいた。上空の《ジズ》の中に。しかし……
『……え?』
突如、ビルの天辺から地上にかけてビームのカーテンが舞い降りる。
さながら、ビニール傘のように。
これが正に雨を弾く傘みたいなもので、ビームの雨を弾き、
丁度傘の下に腰かける《ハイザック・カスタム》を守り抜いた。
『なんだありゃ』
『……どうなってる?』
『どうすんだよ、これェ~』
なんて口々に叫ぶ《ジズ》のパイロットの声が聞こえてきて、
それ以外にも聞き取れない小声のヤジが飛び交う。
そんな中、ビルの屋上にあった避雷針のような鋭い突起物から、
逆に緑色のビームの槍が放たれ、ジズらを襲う。
彼らもビームシールドは張っていた。
しかし、そのシールドは位置的に、《ジズ》の顔を守りきれていなかった。
運悪く顔の真ん中に風穴明けられ、撃墜されてしまった。
『……おい、どうなってんだ』
相変わらず、《ジズ》どもは騒いでやがる。
そんな中で、《ハイザック・カスタム》はバックステップで傘の隙間を出、
ボディを緑から再び灰色系の迷彩カラーに染め上げつつ、
頭上に向けて両腕が抱くところのアサルトライフルをぶちまけた。
多くはビームシールドに弾かれたが、
いくらか数機のジズの筒を破壊したり、腕や手足を落としたりした。
『おい!早く撃ち返せ!』
と、アントンは味方の《ジズ》らに檄(げき)を飛ばすが、
何せ、ロコが傘を抜けて、次のビルの陰に隠れるまで、ほんの3秒程度。
まるで反撃が間に合わない。
そして《ハイザック・カスタム》の姿がビルに隠れた頃に、
ビルの避雷針が二度目の咆哮(ほうこう)。
今度は更に、ビームが空中をウミヘビのようにゆらゆらと動いて、
ジズらに噛みつく。
丁度、さっきの《ハイザック・カスタム》の攻撃で傷つき、
腕ごとシールドを失った1機の《ジズ》が首を飛ばされて、
また別のジズなどは股から頭の天辺まで真っ二つに斬られてしまった。
特に後者は《ジ・ゾウム》の傍らであり、
その爆風に押されてその機体が軽く揺れ、
『……クソッ』
なんて小言を、アントンの口よりひねり出させた。