機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
暗い室内にて、数名の男女が言葉を交わしている。
「……聞きましたか?」
「ヤン・クールカの話だろう?……あぁ、聞かせてもらった。
アーモリー・ワンを襲ったのだろう?」
「困ったものですねぇ……」
「スパイだったのではないですか?彼は」
「そう言われるのが嫌で、功を急いだのではないですか?」
「……だとしても、軽率としか言いようがありませんな」
「全くですなぁ……」
「お話はありましたか?ルチアーノ長官」
そう告げられたシーザー・ルチアーノは、
「いえ」
と応じつつ、禿げ上がった頭頂部を撫でる。
「まあ、ともかく……ご説明いただけますかな?秘書官殿」
彼らの視線の先にあったのは、大型テレビ。
その画面いっぱいに、イスに腰かけた姿で映る、
ノエル・ド・ケグは、神経質そうに垂れた前髪を手ぐしで整えていた。
「……我々は、オートクレール氏の優位を認めたが、
家来にまでなったつもりはない。
今回の件、内容によっては、今後の対応も考えさせてもらいますよ」
そう告げられたノエルが、ゆっくりと腰を上げると、
カメラも付随して動き、ノエルの顔をアップにする。
『アマルフィ議員……ひいては、お集まりの皆さま方、
この度は、ご心配をおかけしたこと、
オートクレールに代わり、私の方から謝罪させていただきます。
……申し訳ございません』
深々と頭を下げたノエル。10秒以上、頭を下げていただろうが。
「……時間稼ぎかァー?」
などと野次を飛ばす者もいて。
「まあ、ひとまず話を聞きましょう?グールド議員」
ルチアーノがそう話しているうちに、ノエルの頭も上がり、
その身はまたパイプ椅子の上へと戻っていく。
『今回の事件は、我々の監督不行き届きが招いた事態であり、
オートクレール以下、主要閣僚の望むところではないと、
誠に勝手ではございますが、ご理解いただきたく……』
座ってからも、頭を下げるノエル。対して、
「……クールカ傘下のホルローギン・バータルが、襲撃の直前に、
オートクレール氏を訪ねていたとの情報が上がっているが。
本当にオートクレール氏は、本件とは関わりがないのですか?」
そう詰問する声が上がる。ノエルは少し顔を下げ、下唇を噛むと、
『はい……お恥ずかしい話になりますが……』
と語りつつ、鼻を軽く摘まんだ。
『……かねてより、クールカ隊の動向には、目に余るものがあり、
その点について、いくつか状況の説明をさせていました』
ゆっくり顔を上げるノエル。
『御承知の方も……中にはいらっしゃることと思っておりますが、
ホルローギン・バータルは、元々クールカ隊の所属ではありません。
人員不足に伴い、ルチアーノ長官から派遣していただいた、
ザラ派系の軍人です。
急進的とはいえ、広義にはデュランダル派に属する、
クールカの政治思想にも反しております』
「……では、余所者の件は、どう説明する?」
ノエルは一瞬、押し黙った。
「はて……何のことですかな?マクスウェル議員」
「御存知ありませんか?ルチアーノ長官。
……クールカ隊には、強化人間の可能性が疑われる人物の他、
オーブからの亡命者などが所属しているとのこと」
「なんと!」
口に手をあてるルチアーノ。
『……本件とは、関わりのない内容と思われますが』
「関係がない?……どこかが関係がないというのだ!
これは信用の問題ですぞ?秘書官殿。
我々はコーディネイターの国を守らんとしているのです。
それを、異国の者の手を借りるなど……
これで情報が他国に漏れて、後に国を奪われでもしたら、
如何に責任を取るつもりか!」
これにグールドも同調。
「そもそも、オートクレール氏はどこにいるのだ?
ここずっと演説のみで、我々と話そうともしないではないか!」
『……そのような訳では』
「では、何故!オートクレール氏ではなく、
毎度代理人の貴方が、我々の質問に答えているのですか?
ご説明を!」
あれやこれやと野次が飛ぶ。
その多くはやはりオートクレールを非難するもので。
ノエルはしばらく答えなかった。見かねたルチアーノが、
「ひとまずは……今後の方針、そこから話を聞いてみても……」
と場を収めようとするが、それを制したのは意外にも、
『……いえ、お答えします』
そんなノエルの言葉だった。