機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
真に遺憾(いかん)ではございますが、
その非コーディネイター系勢力との関与については、
当方は現在、その全てを把握出来てはおりません。
ご指摘いただいた様な情報は、一部耳に入っておりましたが、
確認は取れておらず、その点に関しては、返す言葉もございません。
しかし、オートクレールは、皆様を裏切る意図はなかったと、
その点だけは、お疑いいただきませぬよう。
以後も調査を続け、状況の把握に努める所存です。
また、ルチアーノ長官より、
今後の方針についてのご質問をいただきましたが、
こちらについても、
この場での明言は、真に勝手ながら控えさせていただきます。
一度持ち帰り、オートクレールの方で再度判断した後、
改めて、皆様に提示するものとします。
……以上、ノエル・ド・ケグより、伝達させていただきました。
ご清聴、ありがとうございました。
ゆっくりと目を覚ました。
黒いカバーで覆われたタブレットPCを、枕代わりに抱き締め、
「……貧乏クジばっかりだな」
なんて呟くノエル・ド・ケグは、
学習机のような木製のテーブルと棚、そして回転椅子。
端に当たっていたせいか、頬に一本線の赤い痕が出来ていた。
真っ白な肌には、それが随分目立っていた。
「ウクッ……ァァッ」
とかなんとか言いながら、机の両角を掴んで、体を後ろに伸ばす。
その拍子に、肩に乗っていたジャケットが落ちた。
顔つきからして、
落ちて始めて、それが肩に乗っていたことを知ったらしい。
斜めに構えて見下ろすと、暫(しばら)くはそのままにしていた。
そのうちに、
「……お疲れのご様子でしたので」
プレイアスがそう側で囁く。
「あぁ……悪い」
プレイアスを一瞥すると、ノエルは落ちたジャケットに手を伸ばす。
もっとも、その手が襟(えり)に触れるより先に、
プレイアスに巻き取られてしまったが。
「……ご苦労はお察ししますが、あまり無理はなさらないでくださいね」
一礼したプレイアス。
彼女に目を向けつつ、背もたれに身を委(ゆだ)ねるノエル。
クッションのついた椅子の頭の部分が、
預けられた首に合わせて少し軋(きし)んだ。
「無理なのは……分かってるんだがな……」
目線は移ろう。テーブルの角に置かれた日めくりのカレンダーへと。
その日は6月7日。
数字の下、ごく小さな文字で、
『ジャーナリストの日(アルゼンチン)』、
『セッテ・ジューニョ(マルタ)』、
『連邦解体記念日(ノルウェー)』などが記されている。
「……プレイアス、ここだけの話にしてくれ」
サッと室内を見渡した後で、
「はい」
とプレイアスが応じて。
「……マーシャル・オートクレールは、
俺に言わせれば、ただの役者だ。確かに芝居は一流だ。
だが、いくら背伸びしたって、
ギルバート・デュランダルにはなれない男だ。
ヤツ自身、なろうともしないだろうが。
オートクレールは、適当に口八丁手八丁、
それなりにやっていければいいと思ってる。
あながち、間違いだとは思ってない。
今更、クライン政権を打倒してどうこうなんて、
並大抵のことじゃ上手くいかない。
なら、それなりに対抗する姿勢だけ見せて、
それなりに煽っていけば、それなりに仲間が出来て、
それなりの立場にはいられる。
あのオッサンはそれで十分だと思ってんだ」
「はい」
「……だから、ヤン・クールカは動いた。
案の定、上手くはいかなかったがな。
俺は巻き添え食らって、方々に頭下げて、
クールカ本人も、北アフリカへの援軍なんていう、
監視つきで、体(てい)のいい左遷になった訳だ。
バカなヤツ……だとは、思ってるんだがな」
ゆっくり上体を起こすノエル。
完全には閉まっていなかったスライド式の窓より、
うっすら熱を帯びた風が、ノエルの背中を押した。
「……今頃、クールカはチュニスか?」
「はい。新型機を受領し、恐らくはトリポリ攻略に向かわれるのかと」
スッとノエルの体がプレイアスの方を向く。
「国を変えようと立ち上がった男が、
北アフリカじゃ、既存の政権を守りに戦う訳か。
……皮肉なもんだな」
「わかりませんよ?」
プレイアスは微笑んだ。