機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
父親の死により土地を相続するとき、兄は弟にその半分を譲った。
残り半分を兄はさっさと売り払い都会に出る。
しばらくして、商売で成功した兄を追って弟も都会へ。
弟は道楽で金を使い果たして、土地も何かも手放した後だった。
奉公人として働かせて欲しいという弟に、
兄は元手を貸すから自分で商売をしろと提案したのだった。
貸してくれたことを良いことに、中身も改めずに外へ出た弟。
後から確かめてみると、ごくわずか。酒の一杯も呑めない。
悔しい気持ちを必死に圧し殺して、弟は必死に働いた。
十年後、弟には蔵が三つも並ぶ大きな屋敷と、妻と娘が出来ていた。
ある風の強い日、あのときの金を返しに兄の下を十年振りに訪ねる弟。
そんな弟に対して兄は語る。
少ししか金を渡さなかったのは、
オマエが漬け込むのが分かっていたからだと。
風が強いから火事が心配だという弟を、
いざとなったら俺の土地をくれてやるからと引き留めた兄。
酒を飲み、語らい、やがて眠る。
目を覚ますと、火事だと兄が弟に教えた。
家に引き返す弟。屋敷は燃え、蔵の一つも残らなかった。
奉公人はどんどん辞めていき、妻も病がちになる。
その後、弟はあの晩の約束を信じて兄を訪ね、
金を貸してくれと頼むが、兄は態度を変え、貸し渋る。
どうにか娘がこさえてくれた金も道ですられ、
絶望から首をくくろうとする弟。
そんなところで目が覚めて、そこは兄の家。
そう、家が焼けてからの話はすべて夢だったというのである。
……結局、兄は弟を想っていたのか?本当のところは分からない。
『……副長!』
ヴァイデフェルトの声が、俺の意識を引き戻す。
ハサミのように交差する二振りの刃が、機体の脇腹に迫っていた。
慌てて後退を試みようと完全には間に合わず。両肘が抉(えぐ)れた。
『何のォ!!』
ハサミがゆっくりと閉じる。カーテナが犠牲になった。
刀身がおよそ真ん中から折れ、上半分が右側に倒れ落ちていく。
まだ頭はぼんやりとしていた。
《パーヴェル》の二本の剣が直進する。
仰け反るぐらいはしたさ。しかし、刃は届き胸に傷を残した。
『ぬゥッ!』
との掛け声を上げながら、クールカは前進。
刃が機内に深く食い込んでいく。
どちらかの剣が終にコクピットの天井を破り、
ビームの刃を俺の頭上に光らせる。
『どうした?……むざむざ、殺されるつもりか?アスカァ!!』
「……クソッ」
ビームガトリングをその場で乱射した。何のことはない。
《パーヴェル》の片足が消し飛び、刃に穴が空いただけ。
ただ、煙は出る。
片足を剣の下に忍ばせ、壁を蹴るように足を押し出した。
刃は機体から抜け、《パーヴェル》との間に隙間が出来る。
そのまま腕を振り上げれば、回転を続けていたガトリング砲が、
《パーヴェル》を傷付けるかと高を括るも空しく、
腕は切り落とされ、相手は煙の中から飛び出した。
続いて剣がブーメランのように投げつけられる。
この辺りの動きはやけに早い。
煙を抜け出すときにはもう体を捻っていたのだろう。
間髪入れずに投げられた剣がお次は肩先へと。
先程受けた二つの傷口と、肩に出来た傷口とが結び付き、
ストンと刃が落ちてきた。
『あァッ!』
ヴァイデフェルトの叫びがすべてを物語っていた。
刃はきっと腰辺りまで下がっていたのだろう。
コクピット左側が損傷、銀色の刀身が脇に現れた。
もう少し左腕が壁の側にあったら、切り落とされていたかもしれない。
それぐらい側に。
『いい加減認めたらどうだ?説得だのコクピットを狙わないだの、
さっきから誰の真似をしているのだ?
私はオマエを殺そうとしている。
……ほんの少しのズレで今は叶わなかったがな。
過去に囚われているのはどっちだ?アスカァァァ!!』
ゆっくりと上体を起こす。レバーに両手をゆっくり添えて。
『亡くした者にすがり付き、沈みかかった船でもがくオマエは何だ?
ラクス・クラインは平和を騙り、現に今も侵攻作戦を実行させている。
現実を見ろ!シン・アスカ。
一時は私の弟のようだった貴様が、今守ろうとしているものは何だ?
この兄が捨てた過去か?救われぬ未来か?』
折れたカーテナの先が地面に落ちる音が貸すかに聞こえてきた。
割れたガラスが落ちる音に似ていた。
同時に何かが、俺の中で崩れていくのを感じていた……
「……今だ」