機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『殺してやる。殺してェェ……』
物騒な声を上げるのは、カトリーナ・スティーヴィンズ。
首もなきゃ、両手に針もないヤツの機体が接近してくる。
ビーム砲を雑に乱射してくるが、回避するまでもない。
酷い腕前である。カーン・カーァの部下とは思えない。
小便みたいに飛び散って、かえって避けた方が当たるようにさえある。
「……ヴァイデフェルト、借りるぞ?」
返事がない。
言葉の意図するところが分からないのか、突然のことに動揺したか、
それとも……
残念ながら、返答を待つ余裕はなく。
彼女の《ジズ》のビーム砲を掴んで、小脇に抱えて撃ちかける。
奇しくも、
カトリーナ機の腰部から銛(もり)がワイヤーつきで飛んできており、
ビームとワイヤーとが平行線を辿った。
こちらのビームはカトリーナ機に命中せず、
逆に敵のワイヤーは直撃、
こちらはビームシールドで身を守るも、その勢いまでは殺しきれず、
ヴァイデフェルトの《ジズ》ごと吹き飛ばされた。
とはいえ、それぐらいの算段が付かない俺じゃない。
仰け反った勢いで正面を向いたモビィ・ディックの砲口。
エネルギー充填は完了している。
元から初速度の素早さで知れた砲門である。
見てから回避なぞ間に合いっこない。
(だからこそ、間に合うレェ・アモンが化け物なのであるが)
モビィ・ディックの砲火がヤツの片足を消し飛ばす。
無論、ワイヤーごと。
中途にて切断されたワイヤーが空中でウミヘビのように身を捩りつつ、
ゆっくりと地面へ向けて落ちていく。
『クソッ!クソォォッ!!クソォォォッ!!!!』
声ばかりは大きなカトリーナである。
ノイズ混じりに鼓膜を破られそうな程の大音量が聞こえてくる。
「……人間、感情だけじゃどうにもなんねぇねな」
怒鳴り返したい気分だったが、そんな余裕はなく。
慌ててヴァイデフェルトの機体を袖引き、シールド向けつつ振り返る。
即座に、ピンク色のエネルギー波がのし掛かった。
『気付かれない、というのも無理か』
陽炎のように空間が捻れて見えたかと思うと、
そこへパヴァロッティ・ギボンの愛機が姿を現す。
……そう言えば話していなかったな。
ギボンのそれは、
《スタキス》という《パーヴェル》のプロトタイプにあたる機体らしい。
「ヴァイデフェルト……身を守ることに専念しろ」
『……あっ、はい』
相変わらず、返答のタイミングが少し遅い。
睡眠不足……だけでないだろう。
が、悩める部下のケアまでできるほど、状況に余裕はない。
念のため、頭上をも確認したが余裕はないと見えて。
しかも増援が近付いているのが、レーダー上から確認できる。
プラス、ドルゴンとか言ったか?
クールカの部下が一人、今はその援護に回っている。
さあ、当のドルゴンであるが、
「……良いのですか?クールカ隊長」
そう震える口で問いかけていた。
これはプライベート回線、
敵方──つまり俺たち──にまでは聞こえていない。
ドルゴンには《パーヴェル》を襲う敵の攻撃が、
耳元で蝿(はえ)の羽音を聞いてるようだったという。
少なくとも彼には、
上官たるクールカが苦しめられているようには聞こえなかった。
そう、敵からは……
『そんなに、私が頼りないかね?ドルゴンくん』
「……そういう訳では」
ドルゴンの《ウィンダム》は、雲にその身を紛れさせると、
スコープのないライフルでクールカに寄り付く蝿どもを狙っていた。
『ドン・キホーテなのだそうだ……私は』
「……聞いていました」
『……君は私を尊敬するか?』
唾を飲んだドルゴン。
「分かりません……さっきからどうして、そんな心情吐露を……
ここは戦場なのに……」
目では目前の《アビス》を捉えていた、ハズだった。
しかし、腹にある例の隙間が見えた瞬間にさえ、引き金を引かない。
『……だからこそ、ではないのかね?答えてくれたまえ。
流石の私もそろそろ片手間に話す余裕がなくなりそうだ』
言葉の末尾で、咳き込むクールカの声が聞こえた。
「僕は……」