機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「ワイリー先輩……熱くなりすぎだっての!」
かくいうアレハンドロも声を張り上げていた。
しかし、機動力で優る《パーヴェル》、《ゲルググ改》のいさかいに、
《アビス》の鈍足では入り込む余地がない。
せめて海中ならば、と足下に目をやるアレハンドロの顔は、
酒気を帯びたごとくにうっすら赤らんでいた。頬も膨れてタコみたい。
「……クソッ」
と割れた風船よろしく口から空気を漏らして、
アレハンドロの頬が凹んでいくと同時頃、
警告音が鳴り響く。
俯きがちなアレハンドロの顔が上を向いた。
迫っていたのは《ウィンダム》1機。
それは降りるというよりは、落ちるというようで。
「速ッ……」
モビルスーツの出しうるトップスピードと、
操作できるトップスピードとは違う。
動かしているのが人間である以上は、
人間の反射神経、そしてかかる負荷を考慮せずにはおれないからだ。
だから、理論上出る最高時速ならば、
《ウィンダム》でもこれだけのスピードでおかしくはない。
とはいえ、いくらなんでも速……
「……過ぎる」
と、言ったが先か、至ったが先か。
《ゲルググ改》の首と肩へと、両足が乗っかる。
乗っかると瞬時に、《ウィンダム》が爆裂する。
モビルスーツという機械の塊が、
スライムかと言いたくなるぐらいに潰れていくよう見えた。
爆発から、空中に現れた小さな太陽。
《ウィンダム》が搭載していたとみられるビーム兵器が誘爆し、
疎らに飛び散る。
ワイリーは……気付けなかった。
アイツ程のベテランが焦りから対応出来なかったのである。
「あのとき」はちゃんと捌き切れていたのに。
無様に膝から崩れ落ち、頭や肩、いやそも胸辺りまで、
綺麗に消し飛んで。
腕は切除され、力を失った指からサーベルが離れる。
アレハンドロ、ラグネルも突然のことに対応が間に合わない。
俺やヴァイデフェルトじゃ遠すぎる。
ただ、ヤン・クールカだけが平然と、
ワンテンポ早く後ろに退いていた。
「ワイ……リー…………先輩」
顎と首がくっついて、目は猛禽類がごとく鋭くなる。
熱くなりすぎと宣(のたま)った、
アレハンドロ自身がもう冷静ではないという様子で。
状況を真っ先に理解したのは、奇しくもあの日あの場にいなかった、
ラグネルであった。
『……《イージス》と、同じ!』
まだそう何ヶ月と経った訳じゃない。
サーベラス艦隊に連れられ、参謀本部へ向かう中途で、
俺たちは戦っている。
接触すると自爆する、《イージス》を。
機種は違うが、先程の《ウィンダム》も同じ機能を持つらしい。
もっとも、アレハンドロにそんなことは関係ない。
「セコいマネしやがって!!コイツゥ!」
義憤がこの鈍足なる亀を前進させる。
幸か不幸か傷付いた《ゲルググ改》が力を失い、落ちていき、
《パーヴェル》と《アビス》とで、道は一直線に開かれた。
「俺が仕留めてやる!」
勇んで前に出る。穴という穴より噴き出すビームの光。
一斉に《パーヴェル》へと降り注ぐ。
ただ、そうも直線的な攻撃が通じるハズもない。
それは、アレハンドロ自身も分かっていた。
だから、
「……文字通り先輩の分だ!食らえ!」
てんで、爆発を受け、ワイリー機の手から離れたビームの剣を、
ブーメランみたく投げつける。
クールカは右へ避けた。だから右側へと飛ばした。
狙いは悪くない。
ただ、相手がギボン機、《スタキス》の後継機という点を除けば。
「……白刃取り」
と漏らしたアレハンドロの指摘は正確には誤り。
何せ、クールカが掴んでいたのは持ち手の方だったから。
もっとも、回転する刃を巧みに避け、
タイミングを合わせて持ち手からキャッチするなぞ、
並みの芸当ではない。
人間の、というより人間ですらそうそう出来ることではない。
『……チェックだ』
ダーツを飛ばすように、
中指と人差し指の間から、サーベルを投げ返す《パーヴェル》。
《アビス》はビームの撃ち終わり、
動きが遅れ、顔へまともに命中してしまう。
『こちらも後がないのでな……手段など、選びはしない。
たとえ、非人道的な方法でもな』