機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『……副長』
ヴァイデフェルトの声が聞こえた。震えていた。
『「今度」は、迷うんですか?』
苦笑せずにはいられなかった。
口にはしなかったが、言わんとする言葉の意図は伺い知れる。
あの『オバマ』でのこと、
そして、その前のグナイゼナウで……
いや、あのときは、聞いていなかったかもしれないが。
「悪いな……心配かけるようなことで」
勿論、敵は待ってはくれないから。
再度透明化した《スタキス》が迫ってきているのは確認していた。
「……あれは、俺がなりたくて、なれなかった未来なんだ」
一気に機体を上昇させる。
徐々に降下していく《ゲルググ改》のボディと空中ですれ違いつつ。
トップギアで前に出る。出る。
『ふくちょ……』
なんて呼びかけたアレハンドロの《アビス》を雑に弾き飛ばし、更に前へ。
当然、
『……ひでぇ』
そう漏らすアレハンドロの声を背中には聞いていたが、
悪いな。今は返答する余裕がないんだと、念じつつまだ前へ。
折れたカーテナを突き出し、《パーヴェル》を一突き。
勿論回避されたが。
『「今」と……言ったな?アスカ』
あえて言うまでもないが、クールカの声である。
「言葉尻つかんで、ケチつける気かよ……カッコ悪いぜ?」
吐いた自分がおかしくなって笑っちまう。
まるでアレハンドロじゃねぇかっての。
『……私が今更、メンツなどに拘るとでも?』
「アンタが振りかざしてる『正義』ってのは、メンツじゃねぇのか?」
『まさか……ただの「夢」よ』
「じゃあ、言うことは変わらねぇ。夢は眠って見ろよ。一人で!!」
剣を再度振る。
折れた剣は、実際のカーテナよろしく切っ先が欠けている。
ほとんど棒切れ同然。リーチも足りない。当たるハズもなく……
避けられ、避けられ、《パーヴェル》はより遠くへ。
「最初だけ……最初だけだ。
最初の攻撃だけ、アンタは持ち前の狙撃で対処した。
ただ、全盛期のアンタなら、もっと遠距離から撃っていたハズだ。
何だ?アンタ……意外と自信がねぇのかよ?
慣れねぇ接近戦なんかしやがって……
プライドを傷つけられるのが怖かったか?
だが、残念だけどよぉ、
アンタは接近戦じゃロクに俺を仕留められなかった。
コクピットの寸前までいったのによ。俺はピンピンしてる。
アンタじゃ俺は殺れない。
ワイリーが……俺の部下を倒したのだって、アンタの実力じゃない。
アーモリー・ワンやグナイゼナウで俺を苦しめたのもアンタじゃない。
ハサンを殺ったのも、マイクを殺ったのも、ジョーンを殺ったのも、
シージーも……全部アンタじゃない。
アンタの力じゃない!!
病気のせいだか、何だかは知らねぇが……
手段を選ばないじゃないだろ?選ぶ余裕がないだけだろ!
……弱いな!アンタ」
切れるだけの啖呵を切った。
話し終わって、喋るだけで息切れしている自分に驚いた。
だのに、
『……そうだな。その通りだ。その通りだ』
クールカは動じない。
『選べというのだろう?私に。手段を……
良いだろう。その通りだ。乗ってやる……
ただ』
ピクリと動いた耳。
『……オマエも、俺を倒せてはいないよ?』
……気付いていない、と言いたかったのだろうが、
はっきり言う気付いていた。
気付いていて、わざと見逃した。
頭上にいた《ウィンダム》は、1機じゃない。
高速で降りてくる更なる1機が俺の側まで来ていたのは、
知っていた。
……接触、そして爆発。
爆音の奥で、確かにクールカの声を聞いた。
『……ドルゴン君、ライフルをくれ』
『はい、どうぞ……隊長、尊敬していますから』
『あぁ……ありがとう』
……煙が視界を遮る。
背後ではギボンの《スタキス》が様子を見ている。
果たして俺は仕留めたのか否かと。
答えは否。
コクピットの中まで煙は入ってきたが、確かに俺は生きている。
「……殺れよ。俺はまだ生きてる」
『あぁ……勿論だ』
煙が少しばかり晴れ、《パーヴェル》の姿がしかと見えた。
その手には《ウィンダム・ハイマニューバ》用のビームライフル。
最近の量産機はスゴいもんだ。随分とゴツい銃を下げてやがる。
引き金を引く。
ライフルより放たれた蒼い光の直線が胸へと迫る。
皮肉なもんだ。俺はヤツを……信じていたのだから。
「……信じてたよ。アンタを」
大したことじゃない。ただ避けたってそれだけ。
ただ、正確無比に放たれたビームの一撃はけして逃さなかった。
直線上に控えていた、ギボンの《スタキス》を。
可哀想に、俺みたいに見えていなかったのだろう、
まともに食らってしまった。
背後で聞こえてくる爆発音。
「……アンタは強かった。いつもね」
装填されていた背中のモビィ・ディックに火がついて、
赤い咆哮が空に向けて轟いた。
正直、よくは見えなかった。
下半身からクールカ機を消し飛ばしたようにしか……