機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
──ソファーイスに腰かけ、
目前の木製テーブルからコーヒーカップを手に取るクールカを、
一丁の拳銃(スタームルガー・ブラックホーク)が、
背中から狙っている。
足音を殺しつつ、徐々に近付いていく銃口。
やがて、それはクールカの後頭部へと押し当てられた。
「何の冗談だ?……ロコ」
クールカが振り返りもせず、そう尋ねた。
「ジョークでやってんじゃない……
昔馴染みだ、一杯ぐらいはコーヒーも出してやる。
だからよ……ソイツを飲んだらサッサと帰んな。テロリスト」
「手厳しいな」
ゆっくりとテーブルへと戻されたカップ。
ロコが一応カップを覗くが、まだほとんど減っていない。
「コーヒーの一杯か……」
そう呟くクールカに、ロコの視線が移ろう。
「それなら……コーヒーブレイクの片手間にでも終わる程度に、
話をしようじゃないか?ロコ。君の家だ、座れよ」
「……短い話だってんなら、座る必要なんかねぇじゃねぇか」
「それもそうだな……じゃあ、そのままでもいい」
ロコはゆっくりと銃を下ろした。
「……近々、この国は滅びるよ」
それがクールカの話の始まり。
「何だ?藪(やぶ)から棒に」
「まあ、聞いてくれ。これは予言だよ……近々、プラントは滅びる。
地球の8割を敵に回し、戦えるだけの実力は、もうザフトにはない。
戦争になれば、負けるだろうな。
現に今も……俺たち脱走兵ごときに手こずっている訳だ」
フッと笑い、カップに口をつける。
「それとテメェらの活動と、何の関係がある?」
「……分からないか?」
首を後ろに回すクールカ。
その青みを帯びた灰色の瞳を少し細め、ロコを見つめる。
「オマエらが政権を得たら、未来が変わるって言いたいのか?」
「さぁ……どうだろうな?」
「……はぁ?」
向き直り、カップに再び口をつける。
「仮定に意味はない……上の連中が権力争いに終始すれば、
同じこと、いやもっと酷いことになるかもしれん」
「説得する気あんのか?テメェ」
クールカが三口目を啜る中、ロコは再び銃を持ち上げ、
またその銃口をクールカへと押し当てる。今度は撃鉄をも倒して。
「それでも……マシだとは思わないか?
滅亡が確定的な状況よりかは、まだ」
そう話す間にも、ロコの指先はトリガーへと近付いていく。
「天涯孤独のオマエには……分からないかもしれないが」
もう数ミリ、指を伸ばせば触れられるかもしれない。
そんなところまで伸びていたロコの指が止まった。
「……死んだ嫁さんのことか?怨み言でも呟く気か?」
「いや……娘の話だ。生きている、な」
持ち手からクールカの手が離れた。
今は、カップの胴の部分を茶碗のように、両手で抱いている。
「……時々、考えるんだ。どうして、アイツは死んだのかってな。
どうして、俺じゃなかったのか?どうして娘を助けてくれた?
神や仏なんてものがいるとしたら、俺は恨むよ。
ソイツを。ソイツが起こした残酷な現実ってヤツを。
だが……不思議なもので、俺は恨んじゃいないんだ。誰も。
妻を殺したヤツも、命令したヤツも、その上の奴等も、全部」
「じゃあ……何の為だ?」
「そうだな……娘の為だと言えば、
オマエは俺をとんでもないモンスターペアレントだと思うか?」
カップをテーブルに戻し、クールカは銃口が当たるのも気にせず、
立ち上がった。
かえって、ロコの方が一歩引き下がった始末。
「……あの娘(こ)が、この先、どんな人生を歩むのか。
俺には分からないし、そもそもいつまで一緒にいれるかも……
そう考えると、いいのかって思えてくるんだ。このままで」
「娘の為に……それ以外は誰が死んでもいいってのか?」
「そうは言えないな。流石に、ただ……」
一瞬フフッと笑ったが、すぐにやめて、
次に振り返ったとき、その表情は真剣そのものだった。
「親として、我が子を地獄へ導くような真似が出来ようか。
オマエは強い……俺以上かもしれん。
その上、オマエはヴィトー・ルカーニア直属の部下。
主戦場となるL4領域の情報には詳しかろう。だから言う。
俺は……ロコ・オツォ、オマエの命が欲しい。
娘の、そしてこの国の未来の為に」