機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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「……これがオマエの望んだ未来か?クールカよ」
ロコ・オツォが呟いたとき、
足下では緩やかにその版図を広げつつあった血の水たまりが、
彼の革靴の底を濡らし、赤黒く染め上げていっていた。
その源泉はすぐ目の前に、転がる一人の少女。
いや、厳密には彼女だけではなく。
うつ伏せて倒れる彼女へ、
横たわりながらも手を伸ばす、年老いた背中。
伏せるはイレーナ。クールカの義姉である。
どこからとなく流れ出る血が、その死を無言にて証明している。
勿論二人とも動く気配はない。
ロコの他に、生きた人の姿はない空間、
景色は絵画か写真のごとく変化しない。
ロコが玄関に力なくタイルの床に崩れ落ちるまで、
物音すらなく、時が流れていることを疑うほどだった。
ホルスターに収まっていた拳銃が、
持ち主が揺れた拍子に少しばかし顔を出した。
隠すようにホルスターの奥に押し込む。
「……バカげてる」


PHASE-17 分かたれし道(2/7)

「他の人かどういうかは知りませんが、

ボクから見れば、普通の人でした。

家族想いで、世の在り方に疑問を持っていた……

よくいる、良い人でした」

ドルゴンはそう証言を残している。

あの戦いの後で、

捕虜となったクールカが腹心ドルゴンは、

アルメイダ隊の旗艦『フレイヤ』にある捕虜用の檻の中に。

翌日、二人の部下に両脇から抱かれ、

手には錠をはめられた姿で、俺と面会することになった。

真ん中に丸い小さな穴がいくつも空いたアクリル製の板を挟み、

向き合う俺とドルゴンとやら。

俺は手元にあった紙の資料をペラペラめくりつつ、

話を聞いている。

言っては悪いが、あまり期待できる相手ではなく。

クールカとの関係は浅い。

アーモリー・ワン襲撃からグナイゼナウでの決戦に至る、

騒動の際にはまだクールカの傘下にはいなかったらしい。

戦死したパバァロッティ・ギボンらと共に、

交代で派遣された組らしく、

元々はシーザー・ルチアーノの部下として、

南米で仕事をしていたらしい。

「……勿論、それは、

ボクが隊長と一緒にいなかったからかもしれませんけど」 

自然資料の方にばかり目がいっていた俺を、

どこか皮肉るように投げ掛けられた台詞だった。

顔を上げ、見る。

ドルゴンは気まずそうに笑っていた。

「あぁ……すまないな。

大体質問は終わった。ありがとう」

「いえ、こちらこそ」

「最後に……何か、言いたいことはあるか?」

ドルゴンは口を閉じて微かに音を鳴らしている。

悩んでいるらしい。1分程度待ってみた。

「……何でも、構いませんか?」

「おう」

「いや、大したことではないのですが……」

後ろ髪をかくドルゴン。

「いつだかクールカ隊長が話してらしたことがあって。

シン・アスカという人、

まるで彼は……地獄に向かって歩いて行っているようだと」

「……地獄?」

俺は……名乗っていなかった。

まして名札のようなものがある訳でもなく。

相手はまさか俺が当の本人だとは思うまい。

「えぇ」

……名乗らぬままに、話を聞くことにした。

「自分の選択は、長い目で見れば間違いではないと。

今は苦しいが、それは今の一点だけを見たから、

そう思うのであって……

長い目で見るなら、むしろ国に依存する方が危険だと。

世界の警察を気取りたいラクス・クラインが、

膨張的に地球圏で勢力を拡大しているが、

それは点での拡張でしかない。

線にはならないし、まして面となって機能しない。

やがてはひっくり返される。

自分はその先駆者でしかない。

キリストに洗礼者ヨハネがいたように、

自分が先駆者になれればいいと……」

ギルバート・デュランダルのパウロだと自称したり、

ヨハネだと言ったり、忙しいヤツだ。

「……長くないのだと、聞かされました。

クールカ隊長ご自身は隠し通すおつもりだったようですが。

ホルローギン・バータルなる前任者からギボンさんに伝わり、

ギボンさんからボクたちは聞きました。伝染病だと。

ボクらは予防接種を受けてますし、

万が一感染してもすぐに対処すればどうとでもなる。

けれど、クールカ隊長は末期だった。

視力を失い、体も不自由なところがあって。

わからないんです……どうしてあんな体で戦場に立てたのか」

リプレイが流れるみたいに、

耳にいつぞやのクールカの言葉が聞こえてくる。

「あの強さで病に伏せていたとはな……悪い冗談だ」

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