機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「何の冗談だね?ノエルくん」
シーザー・ルチアーノも伊達に多くの修羅場を抜けてきた訳ではなく、
むけられた銃口に、なおも余裕の笑みを浮かべてみせる。
「オートクレール殿下より……連絡を預かっています。
殿下はアナタに兵士に戻れと」
一瞬、ごく一瞬、
歪んだシーザーの顔を、ノエルは見逃さなかった。
「……今更、私にか?」
「はい」
「殿下も相変わらず、ご冗談が過ぎるなぁ……」
シーザーは顔を反らすと、
右手の中指で二重になったアゴの一段目辺りを撫でている。
「私は、アナタを尊敬しています。
モビルスーツパイロットとしての、アナタを」
「……その頃、君は生まれていたのかい?アハハ」
なんて笑いながら、シーザーは少しアゴを引いた。
「リアルタイムで全てを見てきた訳じゃない……訳じゃないですが、
アナタの過去は今でも語り種(ぐさ)だ。
後年アスラン・ザラ、イザーク・ジュールら最高評議会議員の子息が、
軍に入り、活躍した訳だが、
当初の議員らは乗り気ではなかったという。
それを『シーザーがいるから』と交渉材料になった……
それがアナタの最初の活躍。
名家に生まれたアナタが、危険を犯して戦場に立つ必要はなかった」
「……親父の政治活動に利用されただけだ。誇れる経歴じゃあない」
「ホルローギン・バータルも語っている……
アナタが現役なら、カーン・カーァも自分も目ではなかったと」
「バータルは謙虚で口下手なのだ。昔から。
カーン・カーァは……」
不気味な程に延び上がった口角が少しだけ下り、横に延びた。
「……そこまでよく知らん。
同世代だが、ヤツはどうにも陰気でな。ロクに話した覚えもない。
久しぶりに会ったら、あれだろ?
手薄な状況をうまぁ~く突いて、
ルイーズ・ライトナー御一行を暗殺したってんで名を挙げたが、
悪いが、クールゼらの代わりにはどうしてもなれない男だったよ。
女の子連れ回して、楽しそうではあったがな」
シーザーの引き笑い。
「……だが、アナタは違う」
「あぁ、そうだな……私は、なろうとも思わん」
シーザーの顔がまたノエルの方に向いて。
小バカにするみたくニカッと笑みを見せた。
「……第一、私に言わせれば三流だ。
何より、思想を以て行動している。そこがくだらない」
信念なき者に……などとホルローギンには力説したノエルだったが、
ここでは口をつぐんだ。
「理想を語るヤツは、大抵現実を見ていないものよ。
状況は常に変化している。
ある場面では効果的な方法が、別の状況でもそうとは限らない。
思想なんか無意味だ。信念なぞはお荷物なだけ。
重要なのは場数と慣れと度胸だ。あとは運だよ。それだけ。
……ある歴史家が言ったそうだ。
思想とは酒のようだと。人を酩酊(めいてい)させると。
君は、酔い潰れたようなヤツが戦場で生き残れるとでも?」
「では……若き日のアナタはどうだったと言うのです?
今のような……へルマン・ゲーリングのようになったアナタを、
若き英雄だった頃のアナタが見たら、どう思うのでしょうね」
挑発的な文言。
しかし、物言いだけは、
何か論文でも発表するかのごとき冷静さでもって。
「……ゲーリング。フッ、ナチ党の幹部か。
そんなものを持ち出すとは、君も存外古いねぇ。
そこいく君はゲッペルスか?ヘスか?ボルマンか?
誰であったにしろ、
ナチ党に比肩されるようでは、我々脱走兵の行く末も危うい」
こう笑って答えたシーザー・ルチアーノ。
「少なくとも……このままではアナタはゲーリングの二の舞だ。
お選びください。
クールカのような犬死にがしたいか、否かを」
「……愚問を、地でいくようなこと聞きやがって」