機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
──見渡せば、真っ白な雲が数多漂う、どこまでも青い空。
雲の切れ目から現れる人型ロボット。
雲に比べればいくらか濁った白、ないしはホワイトグレーのボディ。
関節部には紫色もいくらか見える。
そんな《Im/A-P》のコクピットにて、ダイ・フーディーニはぼやく。
「……詐欺だ。本物はこうじゃない」
の一言を。
ダイの視線は足下に広がる濃い青をした海へ。
丁度見下ろしたそのときに、何か跳ねたのが分かった。
それが飛び魚やイルカか、残念ながらそこまでは分からない。
何分、見ている場所が、高い高い空の上であったのだから。
見つめていること数秒、
耳障りに甲高い警告音がコクピット内をこだまする。
「来る」
目線を上げれば、そこには《スタキス》が。
例のモザイク壁画がごとき独特の色味は、否応なしに目立った。
手には黒いビームライフル。
「……食らえ!」
そう叫ぶが先か、動くが先か。
《Im/A-P》の背中から砲筒が、脇を通って前へ突き出される。
ガルムである。
赤く太い円柱状のビームが《スタキス》の方へ飛んでいく。
避けるかシールドで耐えるか。
観察しつつ、左腿からビームショーティライフルを抜き出す。
さて正解は前者。
もっとも、大きくは避けない。少し体を右側に反る程度。
間髪入れずライフルで追撃。だが、これまた避けられた。
それも今度は肘を曲げて腹部に寄せるような小さな動きで。
「……めんどくせぇ!」
そう叫んだ頃には、ガルムの光も消え失せて。
第2射が放たれた。
避けつつ《スタキス》が前に出てくる。
手数の多さをあてにして、ショーティライフルを連射。
空中に斜線を描くビームの弾丸だが、悲しいか、
一撃たりとも《スタキス》には命中せず。
いつの間にやら握られていた、あの死神の鎌が迫るばかり。
杖のように背中に背負って、武者震うように首を左右に振った。
「バカにしやがって……バカにしやがって、バカにしやがってェェ!!」
第2射が撃ち尽きた刹那、
手の空いた右腕が瞬時に武器を投げた。
それは《インパルス》以来の投げ槍ビームジャベリンである。
投げ槍……とは言うものの、
実を言えば、投げるというよりは、伸びるという表現が近い。
ともかく、それがようやく《スタキス》に命中。
シールドに左側よりぶち当たったジャベリンは、
その勢いから《スタキス》の身体が半回転させる。
更にダイは容赦なくショーティライフルで相手の背中に撃ちかける。
全弾……とは言わないまでも、数発は確実に命中。
《スタキス》の背に煙が立ち込める。
だが、
「ロスト…………していない?」
即座、煙の隙間を抜いて鎌が飛んできた。
これを回避するも間もなく、
煙の切れ間から姿を現す《スタキス》。
その手には、片側だけ刃のついた長い鎌が。
機動力で勝る《スタキス》に、回避も反撃も間に合わず……
画面は真っ暗になり、ダイの背がシートに落ちる。
『──シミュレーション終了、お疲れさまでした』
との音声が流れたのは、直後のことだった。
いつもの食堂へ歩く、ダイの息は乱れていた。
眉間から頬へと汗も滴る。
髪は水気を帯びて、窓から入る明かりを反射、輝いて見えて。
すれ違うラグネル・サンマルティンがその背中を見つめて立ち止まる。
もっとも、当のダイは見向きもしないで。
カードを翳(かざ)し、中へと入る。
足が敷居を跨いだ瞬間、聞こえてきたのはパーディの、
「やるじゃん。アレハンドロ」
などというの声だった。
彼女の声は、起きたばかりであるからか、少し眠たげで力がない。
それでも、ダイの耳には一切澱みなく聞こえてきて。
視線はパーディらのいるテーブルへと向いていく。
「たまたまだよ。たまたま……」
なんて言いながら、視線に気付いて向き直ったのは、
パーディの向かいに腰かけた、
アレハンドロ・フンボルトに他ならない。
アレハンドロは笑ってテーブルに肘を立て、ダイへと手を向けた。
ダイも笑って手で返事をした。が、小声で、
「……いつも、オマエか」
とも漏らしていたが。