機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
持ち前の黒いボディが物語る通り、
彼は『高貴なるイタリア人(ロイヤル・イタリアン)』部隊所属。
れっきとしたエリート集団の一員な訳で。
後に映像で確認したときにも、
ビームシールドで頭を守る程度の対応はしていた。
しかも、その手はイノシシ野郎の陽電子リフレクターの隙間を、
的確に狙っており、
あと1秒あればリフレクター発生機の一部を切り下ろし、
2秒あれば本体をも傷つけられたハズだ。
ただし、その1秒すら、イノシシ野郎は与えちゃくれなかった。
野郎の前足がゆっくり持ち上がったかと思えば、
何かがその《ジ・ゾウム》のボディに刺さった……らしい。
この時点では、股の下から垣間見えたイノシシの前足と、
急に上へ押し出され、首を下に折り曲げた《ジ・ゾウム》の後ろ姿しか、
確認出来なかったのだから。
とにかく、この衝撃で動きが止まってしまった《ジ・ゾウム》。
次の瞬間、敵機に一矢報いえたハズの時間に、
残酷にも行われたのは、《ワイルドダガー》の砲撃。
奇しくも下を向いて肩を落としたように見える《ジ・ゾウム》のボディを、
まずは胸、次は首、そして頭と撃ち抜いて、仕留めた。
イノシシ自体が何をしたのかは、この時は分からず終(じま)い。
《ジズ》の断末魔ともいうべき爆炎爆風の後に、
1歩ばかし引き下がった位置にいてイノシシは、
もう前足を下ろしていた。
パイロットの名前だったのだろう。
『レニー!』
と叫ぶ誰かの声が、空しく響いていた。
ヴィスコンティという男、生来の育ちのよさからか、
激しく檄を飛ばすというのが得意ではないらしい。
それでも語調は強めで、
『……何を攻めあぐねているのです!ホーク小隊長!』
なんて叫んじゃいるが、やはりどうにも迫力に欠ける。
その名前に苦笑いを禁じ得なかったが、戦術的には誤りではない。
機動力に優れる《ジ・ゾウム》が5機進んで格闘戦に持ち込み、
15機の《ジズ》が「く」の字を描くように並び、
真ん中と左右を斜めから撃ちすくめる陣形自体は悪くない。
ただ、相手が悪い。
高い機動力を誇る《ワイルドダガー》の2機が足下より迫る。
レーダーの性質上、高さが文字以上の情報で説明されない為、
モビルスーツの下を通るように移動する《ワイルドダガー》は、
実際には表示されているのだが、
パッと見では動いているのが分かりにくい。
しかも、黒いボディで視認しにくいときている。
そんな訳で、下を潜るように進んでいた《ワイルドダガー》の2機は、
《ジズ》らの砲撃を受けずに接近し、足の方から噛みついていく。
片方が左の足首に、もう片方は更に飛び上がって胸元に噛みついた。
前者はその力で引っ張り、左側に引き倒せば、
咄嗟に気付き、ビーム砲構えた左隣の《ジズ》の方に倒れて、
運悪く、火のついた砲口が倒れた《ジズ》の脇腹を撃ち抜いてしまった。
もう1匹も、もう1匹で、抱きつくように密着してしまった以上、
周囲の《ジズ》も攻撃するに出来ないといった状態。
それでも、抱きつかれた《ジズ》が両手にビームサーベルを形成、
左右からクロスするように脇腹を貫かんとしたが、
また少し遅かったようで。
突き立てた牙はそのままに、もう一度上に飛び上がり、
胸、首、顎と上がっていき、1本線の切り傷を描く。
爆発を始める《ジズ》。首が後ろ向きに折れて、
《ワイルドダガー》が肩を足場に踏み出して、牙を抜き、飛び去る。
ただ、飛び立つ瞬間に、右に2つ隣の《ジズ》が最早助からないと見て、
味方の《ジズ》ごと砲撃を試みた。
これが少しは功を奏したと見えて、
この《ワイルドダガー》の右の後ろ足の太股と、
左の前足の足首を同時に撃ち抜いてみせたのである。
衝撃で体が45度程回転。隙が出来る。
そこを見逃さず、砲撃して仕留めたのは、
このときショットブラスターシルエットを擁(よう)していた、
うちのダイの《Im/A-P》のビーム砲ガルムであった。
誉めてもよかったのだが、
『ズルッ!』
なんて声を上げたアレハンドロを見て、何も言わないことにした。
そんな中、
『……おい、テメェ』
なんて音声が流れた。ヴィトー・ルカーニアによる。
『オマエだよ、オマエ……
さっきの、《フリーダム》もどきのパイロットォ!』
「……何か?」
『何かじゃねぇよ……ハハッ』
鼻の奥に引っ掛かるような、最早咳のようでもある笑い方。
『見ての通りだ。
うちの臆病者(フィフォーネ)どもは固まっちまいやがった。
ヘビに睨まれたカエル……
いや、メドゥーサに睨まれて石にされちまったってか?』
ルカーニアは笑っている。
「……メドゥーサ?」
なんて俺が聞き返しても、答えてくれない。ただ、
『……テメェが狩れ。あのデカブツを』
と命じるだけで。
拒否できるハズもなく、唇を噛み締めながら、やや小声で、
「了解……しました」
と、報告した。