機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「さっきよォ~、何か言わなかったか?」
アレハンドロの問いに、ダイはそ知らぬ顔をした。
「俺の気のせいならいいんだけどさ」
口角を捻りながら、半ば無理矢理に笑みを浮かべるアレハンドロ。
「……疲れてんじゃないのか?」
そう応じたダイの方こそ、かえって爽やかな笑みであった。
「……かもなぁ」
笑い返すアレハンドロであるが、違和感を拭えない。
「そんなことより定例会だが、何か話があったのか?」
「あぁ……」
アレハンドロの顔がパーディに向く。
「……あたしが説明するの?」
「よろしく」
笑うアレハンドロ。
「……アンタ、寝てたもんねぇ?」
首を斜め上に伸ばし、見下ろすよう笑い返すはパーディで。
「ダイの言う通り……疲れてたんだよ?なぁ?」
ダイは無言で笑いがちに頭を振る。
「ほぉ~ら」
「……ダイってば、甘い!」
そうダイを指差したパーディの顔が、
アレハンドロの方へと向き替わるという、ほんの一瞬、
ダイの顔より表情が消える。
そんな彼を他所に進行するアレハンドロとパーディの会話。
「しばらくしたら、また遠征だろ?」
「うん……要するにそういうことだけど」
「はい。補足説明どうぞ」
「……覚えてないって素直に言えし」
こうしてパーディの顔がダイに向いたときには、
もうダイの顔は優しげな微笑に包まれていた。
「ええとね、ダイ……」
──そこからの話を、要約するなら以下の通り。
昼番と夜番とで、立場の違うダイとアレハンドロ。
昼担当のアレハンドロおよびパーディには、先に情報がいっており。
ザフト側はナイルの神の本領たるエジプトへ、
遂に踏み込むことを決定したのである。
配属ORDERは第一にヴィトー・ルカーニア、
第二にオルランドゥ・マッツィーニ、第三がヤコブス・ツァンカル。
マッツィーニが本国を発つ時期は軍内でも不明。ツァンカルも同様。
ルカーニア司令は自軍が本作戦での主力になるものと判断。
モーリス・ゴンドー大隊長が先陣となり、
ハルガ、ついでアシュート、ルクソールを攻略する。
フレイヤ大隊はラノ・ララク大隊の残存戦力と共に第二陣となり、
ハルガ攻略の前後にゴンドーと合流するものとする。
つまり……
「……しばらくはゆっくり出来る訳だな」
「そういうこと」
紅茶を飲みつつ、ダイは静かに頷いて。
「……上手くいくのか?」
「何が?」
「プラント本国を守るマッツィーニはともかく、
ツァンカルは北米だろ?大丈夫なのか?」
ダイの問いに、アレハンドロとパーディとで顔を見合わせて。
「大体、正確なのか?…………その情報は」
「あえて証文のひとつも持ってこいとは言わないでおこう。
いい機会だ。
丁度……南アメリカの日和見連中の相手に疲れていたのでね。
行き先は、アフリカかね?……そうか。
引き継ぐ相手も決まっていよう。違うかね?
それにだな……元々私はオートクレール氏の部下ではない。
何かあれば容赦なく君の責任にさせてもらうよ……」
ルチアーノはその右手をノエルが左肩の上へと置く。
「……ノエルくん」
ニヤリと笑うルチアーノ。
並び立つルチアーノの背は、ノエルより一回りばかり大きいと見え。
「もうひとつだけ……教えていただけますか?」
そうノエルが漏らしたのは、
ルチアーノの後ろ姿がドアの手前まで来ていたときで。
丁度ノエルの正面を写していた姿見の鏡が、
ドアを半ば覆うような位置についたルチアーノの背を、
ノエルと同じぐらいの高さに捉えていたタイミングであった。
「言ってご覧」
「はい……どうしてアナタは脱走兵側についたのです?
弟さんのことを思えばアナタとて……
政権でもそれなりの地位には入られたでしょうに」
フフッというルチアーノの笑い声が聞こえた。
「愚問続きだねぇ……ノエルくん。
君は私という人間をまるで分かっていないとみえる。
そんなものは簡単だ」
ひょっこりと振り向いたルチアーノ。
「……生き残る為だ。どちらが勝ってもな」