機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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「……お時間です」
その場に立ち会っていたルアクが伝える。
「わかりました」
ゆっくりパイプ椅子から腰を上げたドルゴン。
部屋の外に向け歩み出す。
「……カトリーナにはもう話をされたんですか?」
背中を向けたまま、ドルゴンがそう。
「まだだ」
「そうですか……彼女はあんな性格ですから、お気を付けて」
そう一礼し、部屋から出ていくドルゴン。
「…………ご忠告どうも」
俺のそんな返答は、
同時か少し遅れて鈍い音を鳴らしつつ閉まる鉄の扉に阻まれて、
恐らくドルゴンには聞こえなかったようだが。
それから暫く、俺は待たされることになった。
噂の二人目の面会人を。
だが、退屈はしなかった。
突然鳴り響くケータイが暇を与えなかったから。
マナーモードにしていたから、着信音自体は鳴らないのだが、
代わりにポケットの中で起きるバイブレーションが事態を知らせた。
画面にはアーサー・トラインの名前と電話番号が出て、
着信を報(しら)せている。
ケータイを取れば、アーサーは開口一番、
『撃たれたんだよ!ゴンドー大隊長が!』


PHASE-18 見えざる脅威(1/7)

思えば随分前のことのようだが、

先日、ヴィトー・ルカーニアから直々にお呼びがかかった際の話。

実はあれで終わりではなく、

あの後、簡易的な会議の場が用意されていた。

出席者は、

ルカーニアを支える首席、二位、三位の補佐官たる、

フェイ・デ・カイパー、フィロパトル・アルシノエ、コマチ・カショウ。

(通称『ルカーニアの喜び組』)

ヴィトー・ルカーニアの妹婿であり、「若頭」の愛称で知られる、

近衛隊の隊長アントン・ランスキー。

ルカーニア艦隊に属する大隊でも最高の兵力と格式が認められた、

ロイヤル・イタリアン大隊の隊長アミルカレ・ヴィスコンティ。

(もっとも彼はイタリア貴族の末裔とかいう肩書きばかりデカい、

痩せこけたチビのじいさんだ)

崩壊したサーベラス大隊の隊長だったプリュトン・ギドー。

(……除隊したギドーが何故この場にいたのかは知らないし、

聞くのも忍びなかった)

そしてヤツ……モーリス・ゴンドーもいた。

──俺はルカーニアとコマチの後ろにいて、

二人と共にその部屋に入った。

「君は、確か……」

アミルカレ翁が俺を見るなり、そう指摘した。

俺が弁解するより先にルカーニアが言った。

「アルメイダ隊長は来れなかった。コイツは代理。

代理つっても只者じゃねぇ。

フレイヤ大隊の副長、ナンバーツーだからな」

ひとまず俺は頭を垂れた。

反応は疎ら。

ギドーとフェイが顔を見合わせる。

フィロパトルは半笑いで俺を見ており、

アントンは俺よりそんなフィロパトルの方が気になる様子。

アミルカレ翁だけが礼を返す中で、

ゴンドーは無言でただこちらを見つめていた。

あの仮面の奥の金色な眼で。

毎度ヤツを見る度に思うが、あれはクマなのか、仮面の影か。

仮面から覗くヤツの目の回りが黒く見えて、不気味な印象を受ける。

そんな俺の感情なぞお構い無しに、ルカーニアは、

「しかしまあ、苦戦が続いてるみてぇだな」

なんて笑いながら話を始める。

「どうだ?……イギリスはよ」

イギリス……厳密に言えばグレートブリテン島とアイルランド島。

なんて括ったら、アイルランド人にキレられそうだが。

大西洋連邦領であるこの二つの島にて、

配置された連邦軍が南下の動きを見せており、

特に数隊は大西洋を通り、地中海に入るルートと、

北極海から大きく迂回してインド洋からエジプトに入るルートとを用い、

ナイルの神の軍勢に物資の支援を行っていた。

やむなくルカーニアはイギリス領に奇襲攻撃をかけさせていた。

……自身が最も信頼するロイヤル・イタリアン大隊に。

「お恥ずかしながら、物量の差に悩まされています。

ダスティン・ホーク小隊など、各方面から縁のある兵を借り受け、

事態に当たってはいるのですが……」

アミルカレ翁が恐縮そうに口を震わせながら述べる。

「おいおい。ダスティン・ホークのとこはあれだろ?

フレイヤ大隊にくれてやったとこじゃねぇか。

アフリカも大変なんだぜ?早いとこ返してやれ。

優先すべきは北アフリカ征討。

イギリスでは負けてもいい。足止めさえできればな」

甘い判断……と思ったが、口は挟まなかった。

黙って聞いている俺。

「で、アフリカの方だがなぁ……」

言いかけたルカーニアを制した言葉がある。

「今の戦いに意味はありません」

と……ゴンドーの台詞である。


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