機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「どういう……意味ですかな?」
アミルカレ翁が問い返す。
「……今のやり方では、
アフリカ征伐など無意味だと言っているのです」
そう言われちゃ、
さっきまで、フィロパトルの顔を窺っていたアントンも、
黙っておらず、
「アァ!?」
なあんてヤクザものみたいにメンチを切る。
それ風に言うならば、
頭(かしら)のメンツを潰すような発言に、
若頭として黙っていたられるかってとこだ。
だが意外にも、
「まあ、聞いてやろうじゃねぇか」
ってんで、アントンを宥めたのは当の頭、
ヴィトー・ルカーニア本人だった。
となるとアントンも立場がなく、小さく舌を打ち、視線を外す。
「……ヤン・クールカがアフリカ入りしたとの情報が入った」
……後に俺たちフレイヤ大隊と戦うことになる訳だから、
随分耳が早いことで。
ただ、衆目驚いた様子はなく。
「他にもオートクレールの腹心が、大西洋連邦軍の代理人と、
接触するところを見たという話もある」
「……何が言いてぇんだ、コラ」
ボソッと漏らすにしては過激なアントンの台詞。
だが、ゴンドーは意にも介さないといった様子。
「おかしいとは、思わないのか?ご一同……」
ゴンドーの意図するところは、正直俺も分からなかった。
いや、誰もピンとは来ていないのだった。
「……何故、我々は脱走兵と戦っている?」
「分かりませんなぁ、何がおっしゃりたいのか……」
アミルカレ翁が苦笑がちに周囲を見渡す。
「そして、沿岸地域を守るのは大西洋連邦のダガーにウィンダム。
確かにな。オマエの言う通りだ」
ルカーニアだけがそう返答し、ゴンドーに首を下げさせる。
そこまで言われ、
「あぁ……そういうことね」
とフィロパトルが笑いがちに応じた。
「つまり、俺たちはまだナイルの神の直接の部下とは会ってない。
戦っていないってことか」
そうギドーが補足したところで、
俺も、そして恐らくは他の連中も要領を得たとみえて。
「……我々は何も知らない。
ナイルの神の娘だというリビア領の大物についても。
顔はおろか年齢さえも」
語るゴンドーを、見る周囲の目はもう違って見えた。
雰囲気というのだろうか?
空気が変わったのが分かった。
直前、ルカーニアが語った言葉の意味が分かった。
【いずれ枠が空けば、ORDERの椅子に座るであろう逸材よ】
ルカーニアと相対したゴンドーの風格・風采は、
確かにORDERのそれと言われても違和感はない。
大したことは言ってないのに。言葉に妙な説得力が。
「……大西洋連邦も、脱走兵も、
ナイルの神にとってはトカゲの尻尾に過ぎない。
失ったところで大した痛手とは思えない」
「オマエなら、どうする?ゴンドー」
ルカーニアの問いに、間髪入れず、ゴンドーは答える。
「……オセアニアからインド洋を突っ切り、
ペルシャ湾より直接エジプトを攻める」
──モーリス・ゴンドーの案が採用された訳ではない。
オセアニア方面軍を信用できないとのルカーニアの判断か、
交渉はしたものの失敗に終わったのか、それは分からない。
しかし、ゴンドーの発言権が拡大したことは間違いなく……
『……ゴンドーが撃たれたんだ!!』
アーサーにそう言われたとき、
えっとでも返そうかと一瞬考えて、口をつぐんだ。
何せ俺は、そんなに驚いちゃいなかったから。
どうしてかヤツは『そうなる』……
いや、『そうする』ような確信があった。
「……落ち着いてくださいよ。ひとまず」
電話は受けたままで、別の画面を開き、
ネットのページを開けば、その報はそこにもう出ていた。
デカデカと、『ゴンドー大隊長、撃たれる』の文字で。
『どっ、どっ、どうするよ?……シン!』
アーサーの声は大きかったから、ルアクにも聞こえたらしい、
少し離れたところから、こちらの表情を確認しているのがわかった。
「ひとまず……落ち着いてくださいよ」
『だっ、だけどねぇ……』
「いいですか?……よく、聞いてくださいよ?」
もう一度確認すると、運転手はこちらから目を逸らしていた。
「おそらくですが……そのゴンドーは偽物かと」