機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
モーリス・ゴンドーと思われる人物が凶弾に倒れ、
遺体がタラップから転げ落ちる。
それが一種の合図となった。
ベニナ空港の飛行場へ面した、背の低い森が風に揺らいだ。
木々が独りでにへし折れる。
陽炎のように、空間に生じる微かなズレ。
そのうち、桃色をした流れ星が降り注ぎ、
飛行場が、何度となく巻き上がる煙の群れに覆い隠される。
「敵襲!!!!」
男だか女だか、上げる叫び声を聞いたか否か、
知らぬまま、建物と飛行場との間辺りから、
地上用の《ジズ》やら、まだ灰色の《ケトゥ》やら、
尻に火をつけ動き出す。
比較的後方にいた《ジズ》が10機ほど、
やや後退り気味に腰から徐々に高度を上げて、空へと。
こちらは距離と高さと、
──やや皮肉ながら──敵さんが巻き上げた煙に助けられ、
森に潜む《インフェルノダガー》の砲撃を受けることなく、
特に脱落者を出さなかった。
が、ある《ケトゥ》などは歩み出して2歩3歩、
その身の色が透明へと変わるか変わらないかといううちに、
敵のビームに当てられ消し飛んだ。
敵は森に紛れるものばかりではない。
ビームシールドを展開した《ウィンダム》が、
頭上からライフルを撃ちかけている。
その数、5、6機程度。
これがおおよそ等間隔で2列となり、
雲の切れ間からやたらめたらに攻撃している。
ただ、反撃を恐れてか、ややへっぴり腰で、
空港側の映像にはコバエのような小ささでもって映り、
その攻撃も飛行場自体には辛うじて届くものの、
建物の方までは届かない。
砲撃自体も、セミの撒き散らす小便みたく不規則かつ疎らで、
これを避けながら、《ケトゥ》たちがどんどん前へ。
こちらは8匹か9匹か。
横並びにて進み、背中の砲弾で森へと撃ちかける。
黒い煙が上がり、森が赤々と燃え上がる中、
ドリルが旋回する軽い音が木の焼ける音に紛れて聞こえたり。
土が掘り返され、枝葉を混ぜながら宙に舞ったり。
《ケトゥ》は砲撃に当てられて、脱落者を出しながらも、
焼ける森の中へと。
《ジズ》らは一足先に空を進んで爆撃する。
攻撃の手の早さ故か、
青々とした森が一挙に焼け落ち、
モビルスーツどもが通り抜ける頃にはもう、
黒ずんで横たわる木も土も、
一目には見分けがつかぬようになっていた。
さて、飛行場自体はというと、
例の仮面の男がまだ転がったままで。
かの戦艦『オズボーン』は火のついた紙のように、
ぼうぼう勢いよく燃えている。
男の遺体に駆け寄る隊員。
緑色の服を着、頭には帽子が乗っかる。
右手の指を2本、男の首に押し当て、脈を確認する。
触れた指に返ってくる鼓動はなく。
「……死亡、確認」
そう耳の下に取り付けられたマイクへと。
『……御苦労』
そんな声がマイクに付随するイヤホンより、
返ってきた直後、この青年は爆風に呑まれ、
我も火を背中に浴びて、膝から崩れ、
やがては仮面の男の遺体へと火の手を燃え広がらせつつ、
焼け、黒ずんでいく。
しかし、何故であろう?
青年に動じる様子はなく、苦しむ声も上がらない。
どころか、仕事を終えた満足感からか?
ほんの少し、口許が緩んでさえ見えた。
さて、『フレイヤ』に話を戻そう。通話は続いていて。
「ゴンドー大隊長は本当に死んだのでしょうか?
仮面てのは都合のいいもんで……
普通の人間が自分の影武者を用意するとしたら、
人相なんてのは気付かれるから、
それこそ整形でもさせなきゃ難しいもんがありますが、
仮面を被っていた人物なら、その問題はクリアになる訳で。
確証はありませんが、まあ……それぐらい、準備をしていても、
おかしくないという意味で……」
『それは……そうかもしれないけどねぇ……』
アーサーは苦笑している様子。
「……続報を待ちましょう。まずはそれからです」
『あぁ、そうだね』
ギィィというような、鉄扉が開く鈍い音が、
俺の視線を足下から正面へと移す。
案の定、ドアが開いていく。
連れられてきた女の、手錠をかけられた両手が見えた辺りで、
「では、自分はこれで」
『……あぁ。じゃあ』
ということで、電話は切れた。改めて顔を上げ、確認する。
丁度、ドアが閉まるところだった。
開くときは鈍く、長いことかかったのに対し、
今度閉まるときはほんの一瞬で、心なしか音が高くなった気がした。
ドアの前にはマユ・ヴァイデフェルト。
そして、ドルゴン・ジンが先程腰かけていたイスに、
今、腰を下ろしたのはカトリーナ・スティーヴィンズで。
不快そうに首を傾げ、背もたれもないのに後ろに反っている。
「さあ……話を聞かせてもらおうか?カトリーナ」
女の上半身が前に出る。
「……名前で呼ぶな!クソが!」