機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
以下のような会話が聞こえてきていた。
『……敵さん、予想以上にいい反応だな』
『当たり前だ。モーリス・ゴンドーといえば、名将の誉れ高い。
苛烈な訓練で知られる。
奴等は鶏も同然。頭を潰されても、しばらく動く。
深追いは無用……さっさとずらかるぞ!』
『おい!フィリップ!オマエも……』
姿は消せても、音の方は消しきれないとみえて。
ものを引き摺るようなズルズルといった音が漏れ聞こえる。
そんな中、あるひとつの足音が止んだ。
『フィリップ!……聞いてんのか!?』
そう呼び掛けられた男は、コクピットの中で、
垂れた左の前髪を手で耳の側へ流していた。
「……殿(しんがり)を」
『おい!何を言って!!』
頭上に迫る《ジズ》ら。
《ケトゥ》の蹴った地面が揺れ、音も足下に響いている。
「……足止めは、このフィリップ・フロイにお任せを」
ゆっくりと色づく1機のモビルスーツ。
そのモビルスーツは……
さて、場所は変わってトリポリの『フレイヤ』。
「……発進、どうぞ!」
と指示を出すは、ゲルハルダス・ズワルト。
本来ならこの仕事はパーディ、
昼夜の班分けでもヴァイデフェルトが担当の筈だが、
2人ともにブリッジにはいない。
『ダスティン・ホーク、《セイバー》、行きます!』
画面の端に映るは、
飛行機の形態で飛び去ろうとする《セイバー》。
灰色のボディが赤く染まるのが先か、飛び出すの先か。
とにかくすぐに飛び出した赤き《セイバー》に、
赤い肩をした《ジズ》が2機伴う。
そのうち、雲の切れ間に紛れ、彼らの姿は見えなくなった。
「……しばらくゆっくり出来るって聞いてたのに」
ハビエルが苦笑する。
「仕方ないじゃないですか……てか、不謹慎ですよ?」
ルアクも苦笑気味に返す。
「……ルカーニアの私塾にいた頃、すこぉーーし一緒だっただけよ。
ほぼ他人だし。仮面とか付けてる変なヤツだったし。
元・同僚の死に感慨?……ないわよ。んなもん」
ハビエルは艦長席に腰を据え、顎を触りながら話している。
「そんな薄情な……」
ルアクのひきつった笑み。
ただ、ハビエルは手元の資料を見ており、
ルアクには目もくれていない。
「……ま、ここに来て敵さん、攻勢に出てくるとはね」
見ていたものは、数枚組みの紙束。
モビルスーツ、モビルアーマーの情報が記載されている。
パラパラとページをめくる中、
《ウィンダム》、《インフェルノダガー》、《ハイザック》、
《ドヌ・ゾド》と機体の写真が右上に並ぶ。
「今更こんなもん見ても、どうにもなんないか」
めくったページを元に戻すと、
白紙の裏表紙を上にして、肘置きに落とす。
「大体……これ、あれでしょ?
大西洋連邦とか東ユーラシア連邦の機体じゃない?
エジプトの神様ってのは、
独自にモビルスーツを開発してるって噂だし……
これからの戦いに、どこまで役に立つか……」
言葉を返す者はない。ルアクはゆっくり顔を反らした。
一呼吸あって、
『……自分も行きます。発射シークエンスを!』
そんなダイの声が聞かれた。
「……全システム、オールグリーン。ダイ機、発進どうぞ」
ゲルハルダスは動じない。冷静に指示を出す。
先程、《セイバー》を映していた画面には、
今は白き《Im/A-P》が。
『ダイ・フーディーニ……《インパルス》、出る』
射出する音がやけに大きく聞こえた。
自然、衆目は画面の方に向く。
そんな中、突然背後のドアが開けば、どうなるか。
あえて語るまでもなく。
「……あら、ダイくん。もう行っちゃったんだぁ」
入ってきた女はそう笑っていた。
首筋からうっすら流れる汗、着崩れて露出した肩。
「ビンタン……さん……」
ルアクが呼ぶ名前。
ハビエルは顔を向き直り、背中で隠しつつ顔を歪めた。