機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……何か騒がしいけど、いいのかよ?アンタはここにいて」
カトリーナの冷笑。
無理もない。外じゃバタバタ忙しなく、行き交う人の足音が。
「交代時間だからな。いつものことだ。気にしなくていい」
外の方を向いていたヴァイデフェルトが素早く振り返った。
焦りが顔に出ている。
咄嗟の嘘であり、俺も俺で額に嫌な汗が。
そんな顔を少しでも隠すように、手元の資料を立てる。
「まず、カトリーナ・スティーヴィンズ。
大西洋連邦出身のコーディネイター夫妻の下に生まれた、
ディセンベル市にて出生の第二世代コーディネイター。
25歳、独身。結婚歴なし……ここまで、誤りはないな?」
耳クソを小指で掻き出しながら、
「別に間違っちゃいないよ。
……んなこと聞いて何の意味があんのか知らねぇが」
そうカトリーナは、
ハエがするみたいに、汚れた小指と親指とを擦り合わせ、
カスをその場に落としている。
「……C.E.74年、ユニウス戦役終結直前にザフトに入隊。
ラクス・クライン相手に弱腰な態度を見せ始めた最高評議会に反発し、
1年足らずで除隊し、士官学校の教官だったカーン・カーァに率いられ、
同期のウィルマ・ブッシュ、その姉のリタと共に、
例の事件を引き起こした。
ルイーズ・ライトナーら当時の主要閣僚を皆殺しにした大事件。
その後はシーザー・ルチアーノに拾われる形でザフト脱走兵に合流、
各地を転戦し…………」
資料をゆっくり机に置いた。
そう読み上げた箇所のすぐ下には、
リタ、ウィルマにカーン・カーァ、
そしてヤン・クールカの死が触れられていたが、
あえて読み上げることはしなかった。
「…………今に至る、と」
視線を上げ、目を合わせるとカトリーナは小さく、
「そうだ」
と口を動かした。
「どうなんだ?……仲間の仇を目の前にした感想は?」
ヴァイデフェルトは、カトリーナの背中と俺の顔、
交互に見てはひとつに恐れを抱き、ひとつに救いを求めていた。
「……イライラしてたんだ。テメェの声を聞いたとき」
カトリーナの顔は下を向いていた。
分厚いポンバドールが隠して、表情が見えない。
「カーンもな。リタもウィルマも、
そして……気に入らねぇ野郎だったが、クールカもか。
テメェと、テメェの部下のせいで……俺は全部を失った。
憎らしいに決まってる。
この薄い壁の1枚叩き割って、テメェの首を締め上げて、
ぶっ殺してやりたい。
そう…………思ってたんだ……けど……」
重い首をゆっくりと上げたとき、カトリーナの表情は……
「……アンタがもっと酷ェヤツならな。せめて1発は殴れたのに」
言葉には出来ない。涙ほど安直ではないが、どこか胸に迫る。
悟りの表情とでもいうのか。
「……すまなかった」
両手を机上に置き、額が机つくほど頭を下げた。
「何でアンタが謝る?……認めたくねぇが、俺の責任だろ?」
そう言われても、頭を上げられなかった。
「いいから、聞けよ?テメェの聞きたいことを全て……」
「…………」
顔を下げたまま、深呼吸をした。伸びをするように腕を張って。
「……配慮は必要ねぇのか?」
「あぁ。言ってみろよ」
フウッと長く息を吐きながら、ゆっくり顔を上げ、目を合わせた。
「さるザフトの指揮官が言ったことだ。
ナイルの神はいまだ手の内を曝してはいないと。
対抗勢力の明けの砂漠は態度を明確にしていない……らしい。
まあ、俺たち中間層まで話が通じていないからかもしれないが。
ともかく、ナイルの神直参の部下たちについて知りたい。
これからの為に……知ってる限りでいい。情報を……」
ヴァイデフェルトと顔を合わせると、少しだけ表情に自信が見えて。
──カトリーナ・スティーヴィンズ。
最高評議会議長ら閣僚の殺害事件により、死刑が確定。
数日後、トリポリからジブラルタルを経由した後、
本国にて刑の執行が行われる予定とのこと。
捕虜という立場を下に、刑の執行について抗議する旨を報告したが、
本国はテロリストと交渉しないと一蹴。
取り調べの後に本国へ護送されたしとの通達が、
参謀総長ヨーゼフ・スコルツェニーの名義にて送られていた……