機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
──これは後に知ったことだが、
イノシシ野郎の本当の名前は『アルゴル』。
その言葉は古いアラビア語で「人食い鬼の頭」を意味していて、
星座のペルセウス座では、
ペルセウスが掴むメドゥーサの首の場所に位置する星のことを指す。
メドゥーサといえば、あえて語るまでもないことかもしれないが、
ギリシャ神話の怪物。
ゴルゴーン三姉妹の末妹にあたる「女王」であり、
髪はその1本1本がヘビとなっていて、
宝石のように輝く瞳で見るものを石に変えてしまうとかいう。
勿論「モビルアーマー」《アルゴル》は頭から蛇が生えていなければ、
見たからといって石になることもない。
ただ、その異様なる風体、あるいは未だ謎の攻撃方法からか、
警戒した《ジズ》、《ジ・ゾウム》の群れは正にヘビに睨まれたカエル……
なんてのは、ルカーニアも言ったことだが。
「さてと……」
ダイは後方から高エネルギーのビームを撃ち込んた。
運よく命中したが、結構距離が離れている。
ガルムの射程ギリギリ、
《アルゴル》の姿がまだ小さく見える。
それでも、周囲にいる《ワイルドダガー》の姿がいい指標となって、
そのデカい図体を証明してはいるが。
「……どこから」
なんて考えながら、呟きながら、1歩前へ。
するとアレハンドロが、
『副長!俺たちは?』
と声を上げるものだから、
周囲の視線がこちらに向いているような感覚に陥る。
「命令されたのは俺だけだ……待機としけ」
直後に、ルカーニアのあの笑い声が聞こえたような気がしたが、
確証はない。
ともかく、2、3歩と前に出る。
宇宙空間なんつー前や後ろも定かではない、
いやそもそも道なんてものさえないのに、何歩と言うのも妙だが。
ともかく、そのまま前に進んでいけば、
真っ先に振り返ったのは、あの赤い《ジ・ゾウム》。
俺は何も言わなかった。相手も何か言った訳ではない。
ただ気付いたらしく、道を空けた。
それに呼応する形で1秒程度、
俺が《アルゴル》と向き合う構図となる中央に降り立つまでに、
《ジズ》、《ジ・ゾウム》が中央に1本の道を開いていた。
時を同じくして、ゆっくりと持ち上がっていく右手のカバー。
ジズらの整列が静かに終わる1秒後にはもう、
中身を完全に露出していた。
当然、この間に敵も攻撃を加えてくるから、
左手にはビームシールドを形成。
もうすっかり猫も杓子(しゃくし)もやっているが、
例の半身に構える体勢を取り、身を守ると同時に右手を隠す。
そんな俺の右脇から、《ワイルドダガー》が噛みつかんと飛び付く。
先ほど、下から《ジズ》の群れに飛び込んできた片割れだ。
コイツが飛び付く姿勢を見せ、
やがて飛んできて、そして1歩引き下がった俺に避けられた直後、
味方を殺してはかなわんとばかりに、攻撃の手が止んだ。
それが……丁度いいタイミングとなった。
左手を台座代わりにして、上に右手を置く。
目前では、先程回避した《ワイルドダガー》が方向転換を試みていた。
こうして顔がこちらを向いた瞬間、
俺はビームガトリングを乱射した……
前回のことを踏まえ、今回は随分威力を抑えた。
そのまま撃てば、
味方も多く巻き込んでしまうのは目に見えていたから。
それでも射角を調整し、射程範囲を限定することで、
大きく散らばっていたビームの弾が、
比較的密集された状態でもって放たれた訳であって。
案外、食らった範囲内の相手にとっちゃ、
本来よりも大きなダメージがあったかも知れない。
目の前の《ワイルドダガー》は憐れにも、
悶え苦しむように身を捩(よじ)らせて、間もなく爆発四散した。
この間に、恐らくは1秒とてかかってはいまい。
さて、後方の敵もただではすまない。
アルゴルの後ろについていた連中はやはり穴だらけになり、
すぐに死んだ。
回避行動を取ろうとしたある《ワイルドダガー》など更に悲惨で、
もう少しで射程範囲を抜けるというところまで逃げるも、
足を引っ張られるように右の足首を破壊され、
体勢を崩したところに追撃を受けてしまい、そのまま蜂の巣に。
また、少し前に上から《ジ・ゾウム》に飛びかかったヤツなんて、
俺の砲撃の瞬間に蹴飛ばされてビームが進む道へと放り出され、
丁度《アルゴル》の前に被さるような構図で弾を受け、消し飛んだ。
こうして残ったのは、
『はぁぁ……あああああああッ!』
なんて意味不明な叫び声を上げる、
《ワイルドダガー》1機およびそのパイロットの1人と、
そいつと共に《アルゴル》の陰に上手く隠れてやがったもう1機、
そして、《アルゴル》自体であった。