機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
彼を乗せた白き《Im/A-P》が、
ダスティンの《セイバー》の背後へと付ける。
「ダイ・フーディーニ、遅れて申し訳……」
などと語るダイ。
ただ当のダスティンは、
『あぁ……大丈夫だけど……』
なんて上の空という様子であった。
「……何かあったのか?」
『下だよ、下……見れば分かると思うが……』
言われるままに、モニター画面の下部を確認すると……
「……あれは」
『ボクはあのとき戦ってないんだが、君は戦ったんだっけ?
……アイツ。あの化け物に』
『おい!ユウちゃんが!』
そう聞こえた仲間の声に、
彼──フィリップ・フロイは、
唇を噛み締めたのみで、声までは出さなかった。
『いいから!ずらかるぞ!!』
敵は前へ。
姿は見えないが、《ケトゥ》らしき足跡が遠方より列を為す。
足音は次第に近付いている。
そして今しがた、足跡が途切れ、地面を蹴る音がした。
伸びる首の先、小さな牙がようやく現れる。
その首はフロイの《ドミンゴ》の頭へ迫っていた。
「……読めた」
上体反らし、いやもっとも小さな動きだったか。
《ドミンゴ》は首をゆっくり後ろに引いた。
いや、それでも《ケトゥ》の牙を完全には回避し切れなかった。
牙が頬に2つの切り傷を残す。
ただし、《ケトゥ》側も多少の誤算があったとみえて……
腰の部分で構えていたビームサーベルが刺さっていた。
《ケトゥ》の腹に深く。
ミラージュコロイドが解除され、首長き獣は力無く倒れ込む。
倒れる身体から避けるように、2、3歩後ずさる《ドミンゴ》。
「……アポフィス隊長、指示を」
フロイは静かに、マイクへ口を寄せた。
「……隊長?」
返事はない。
代わりに返ってきたのは、海上にて巻き起こる爆発音。
画面のレーダーを確認すると、
後方に控えていた1隻の戦艦の情報が消失した。
続いて味方の、
『うわああああ!』
とか、
『くっ、来るなぁ!!』
という悲鳴まで聞こえてくる。
フロイは動揺しつつも、冷静にレーダーを確認していた。
後方で味方の《インフェルノダガー》を次々切り捨てている、
《GAT-X142》なる型式番号のモビルスーツ。
フロイはその数字だけで相手の立場を察していた。
「……裏切っていたという話は本当だったのか」
後方より迫る敵の刃に、振り返る《ドミンゴ》。
ビームシールドで身を守るが、守り切れない。
素早く下から上へ振るわれた刃が動きを止めた瞬間、
細い首に一本の線が出来たかと思うと、
ボロンと《ドミンゴ》の首から上が後ろへ落ちた。
フロイは、またも3歩ばかし後ずさった。
「たしか……『優しくなければ生きている資格はない』、
てのが貴方の口癖だったんじゃないんですか?
……レェ・アモン特任大佐」
《GAT-X142 マッド》。今日も風にマントが揺らいで。
『その前がある……』
フゥッと吐き出す吐息が聞こえた。
瞬時にフロイは理解した。
(タバコか……)
『……「タフでなければ生きていけない」ってな。
フィリップ。オマエと同じ名前をした、探偵の台詞だ』
「つまり、生きていけないから裏切ったと?」
『俺は傭兵。裏切りも何も……』
後ずさりつつ、サブマシンガンに手をかけるフロイ。
『……最初から誰の味方も敵もねぇ』
《ドミンゴ》が3歩、ついで4歩目まで足をかけたとき、
《マッド》は1歩で間合いを詰めてしまった。
そしていつの間にやら振り下ろされた刃が、
2丁のサブマシンガンから銃口を切り落としていた。
更に気付けば《ドミンゴ》の左足には、
深々と日本刀型のビームサーベルが刺さっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
フロイの息は乱れていた。
『……一撃で殺られなかったか。
流石にセベク・アガレス直属の部下、大したもんだな』
なんて呑気に、タバコ吹かせるアモンであった。