機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『お切り捨てください』
フィリップ・フロイがそう言ったときには、
《マッド》の剣が《ドミンゴ》の腹部に迫っていた。
ただし、ビームの刃は張られていない。
尖った先端部が、コクピットを小突く。
『心から、思いますよ。
貴方が味方のままだったなら、どれほど心強かったかと……
アガレス様も、どれほどお慶びになるか……』
コクピットの中、足下に落ち、燻る葉巻。
レェ・アモンの顔から、表情が消える。
「……俺たち強化人間に選択の自由などなかった。
アガレスは別だかな。ヤツはあのときからずっと……
いや、そんなことはどうでもいい」
前に後ろに、振り子みたいに微かに揺れる《マッド》の刃。
そして後ろに引いたあるとき、ビームの刃は形成された。
「……Go ahead, make my day.」
そう呟いた瞬間に、ビームライフルの一射が《マッド》を襲った。
不意を突くように放たれた一撃であったが、
レェ・アモンに、いやフロイすら、動揺することはなかった。
足を狙ったらしい、その攻撃を、
やや両足を開いて立っていた《マッド》の右足を、左足に寄せる。
たったそれだけの動作でもって、回避してみせた。
「どいつもこいつも……不意討ちなら、俺を殺れると思ってやがる……
気に食わねぇ……気に食わねぇ」
《マッド》が空を見上げると、
そこにはダスティンの《セイバー》がビームライフルで彼を狙っていた。
「……気に、食わねぇ」
『アモンさん!』
フロイの呼ぶ声に反応するアモンではなかった。
地面を蹴ると、体操選手みたいに背中を下にしてじわりと飛び上がる。
腕はパラシュートがごとく開いたマントの下に。
第2射、第3射も続けて《セイバー》より放たれた。
が、今度も1発として、《マッド》には当たらない。
「……気に、食わねぇ」
マントの下から現れる、あのジャックナイフ。
刃が今、《セイバー》に迫って……
瞬間、《ジズ》のビーム砲が《マッド》を襲った。
「……しゃらくせぇ」
当然回避する。が……
「チッ」
更なる追撃が、1秒あまり遅れて行われた。
ダイ・フーディーニの白き《Im/A-P》による狙撃である。
流石の《マッド》も、完全には回避し切れなかった。
マントが盾となり、ダメージをも与えられなかったが。
とはいえ、心理的なダメージは十分であったろう。
何せ、アモンは聞いていたのだろうから……
【後から映像で確認したが、レェ・アモン。恐ろしいヤツだ。
同時に攻撃してんのに、あんだけ命中しないってのはね。
ただ、他にも試してない手がない訳じゃない。
名付けて、作戦コード:フレミング】
【ジョン・フレミングが考えついたっていう、左手の法則みたいに、
1機が上から、もう1機が縦、残る1機が横って具合に、
三方別れて、タイミングをずらして砲撃するんだ。
流石のアイツも、避けたところに撃ち込まれたら、
避けきれない…………ハズだ】
これがダスティン・ホークの案。
一見悪くないようである、この案の欠点は、
ダイが既に指摘していた。
【もし、敵が一方に集中したらどうなる?
そんなに離れていたら、フォローに限界がある】
【なに……そうそう殺られるほど、僕も柔じゃないさ】
「……とはいったものの」
ジャックナイフがダスティンに迫っていた。
ビームシールドで耐えようとしたが、そこはレェ・アモン。
下から潜り込ませるようにして、シールドと腕の間に刃を押し込み、
皮を剥くとばかりに、右の指4本から肘に至る部分を切り落とした。
「曲芸かよ」
距離を取ろうにも、機動力の差がモノを言う。
踊るように身を捩(よじ)り、腹に1発蹴りを入れる。
その蹴りがいわば助走となって、再度旋回。
赤い光を撒き散らしながら、追撃に及ぶ。
この間、《ジズ》と《Im/A-P》、交互に砲撃を撃ち込み、
牽制するも回避すらされない。
どころか、2人とも高速で移動する《マッド》の動きに、
まるでついていけていない。
「……やだよ、ねぇちゃん。まだ死にたくねぇ」
唇を噛み、笑ってみせたダスティン。
『だったら最初から来るんじゃなかったな。坊主』
そう言い捨てた末、目を閉じたダスティンの《セイバー》を、
腹部より両断した《マッド》であった。