機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
両断された《セイバー》の残骸を見上げたダイの脳裏に、
浮かんでいたのは、今は亡き旧友の言葉。
【なあ、ダイ……少し、過敏なんじゃないか?
いくら、サムのことがあるとはいえ……さぁ。
ホーク小隊長の時といい……今といい……】
味方を疑うダイを、そう嗜めていたのはシージーだった。
「……信じた結果が、これか」
頬の肉を口の中に押し込むように、口を尖らせたダイ。
それから《セイバー》の下半身が先に地面に落ちた。
『小隊長…………?』
スルーズとかいう、ダスティンの部下が震える声で漏らした。
ほぼ直後、上半身の方が顔から落ちてきて、
折れた木々と焦げた土の合間に埋もれていった。
『おい!』
それから突然、広域の電波より聞こえてきたのが、こんな言葉で。
『こちら……明けの砂漠が代表ムーサー・カリーアッラーフの代理人。
突っ掛かってきたから、対処させてもらったが、
ムーサーにザフトと争う意志はない……
俺の仕事も、あくまでベニナで騒いでいたナイルの神が兵どもを、
鎮圧してこいと、それだけのこと。
そちらが仕掛けてこなければ、俺はこれで帰るが……』
上空で《マッド》がマントを広げた。
露出する胸、腹、そして両腕。
ジャックナイフが開かれ、その刃の先を逆の手が掴んでいる。
『……別に、「争うな」とは言われていない』
『えっ!それって……』
スルーズが声を上げた。直後、
『ス…………ルーズ!……少し…………黙ってて……れ』
なんて声がノイズ混じりに聞こえてきた。
……ダスティン・ホークの声で。
『レェ……アモンだな?』
ダスティンの声は、勿論ノイズのせいもあるが、
どこか妙に力が入っている様子であり、
後ろで微かに水か何か液体が滴る音も聞こえていた。
『俺が誰かなど、どうでもいい……オマエが指揮官か?坊主』
『…………一応ね』
『答えろ。俺ともう一戦交えるか、見逃すか』
ダスティンは即答しなかった。
ダイはこの間に判断した。
ダスティンの『スルーズ』に限定した言い方から、
自分なら、口を挟んでもいいと……
「……争うつもりは、ない」
ダスティンは……何の異論・反論、述べることはしなかった。
レェ・アモンは1分あまり沈黙した。
それから、
『賢明だな』
との一言を残し、マントを翻(ひるがえ)した。
……ダイに『背を向けた』のである。
(今なら、あるいは)
そんな発想が脳裏に過るのも必然。
ビームライフルの銃口を少し持ち上げた。
しかし、指が震えた。
(もし……もし、外したら……
いや、さっき当たったときだって、ダメージは与えられなかった。
あのマントの僅かな穴を抜いて、撃ち殺せる確率は?
いや……やる価値はあるハズで……)
脳内で二転三転する考え。震える腕を逆の手で押さえる。
(俺だって……アレハンドロに負けない……手柄を!)
そう思う中、プライベート回線にて、その声は入った。
『やめ………んだ。ダ……ぬぞ?』
途切れ途切れであったが、おおよその意は分かった。
分かっていた。それでも……
(殺れる!俺なら!)
そう、引き金に指をかけた瞬間、
まだ見透かしたように、レェ・アモンは、《マッド》は振り返った。
『You've got to ask yourself one question……(賭けてみるか?)』
そう呟くと共に、アモンはジャックナイフを折り畳む。
『"Do I feel lucky?"(「今日はツイてるか?」)』
鼻で笑うアモンの声。
『…………Well, do ya, punk?(どうなんだ?クソ野郎)』
急に変わる語調。威圧するような怒声。
「クッ」
ビームライフルを落とす《Im/A-P》。
『いずれ、またどこかでな。ガキども』
それが最後の言葉となり、アモンは飛び去った。
ダスティンのものらしき荒い息が漏れる中で、
無傷の《Im/A-P》が膝から崩れ落ちる。
「……クソッ!」
キーボードに拳を叩きつけたダイ。
そんな彼に気付く余裕はなかったのだろう。
ボロボロになった白き《ドミンゴ》が這うようにして進み、
シドラ湾へと沈んでいったことなど……