機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「……ハッ!」
上半身を起こす。
悪夢にでも魘(うな)されていたというのか?
顔は汗に濡れていた。
だが起きたら起きたで、彼を痛みが襲った。
「ウッ」
と歯を噛み合わせて、頭を押さえる。
巻かれた包帯には血の跡らしき暗褐色の染みが。
「まだ起きちゃダメですよ?ダスティン小隊長」
そう駆け寄るナース。彼の右側へ。
「どれぐらい……」
「?」
ナースが首を傾げる。
「……寝ていたのかな?」
「はい……半日ほど」
食い縛った口が緩み、口角が上がる。
「こういうのって……2、3日とかだったりしない?普通」
「……そのまま、寝ていた方がよかったかもな。そんぐらい」
そう応じる声に吊られて顔を上げたダスティン。
正面、向かいのベッドと窓ガラスを背に立っていたのは俺だった。
だが、当のダスティンは俺を見ていたというよりは、
その背後の窓ガラス、
外に広がる街並みが流れていく方に目がいっていたらしかった。
「飛んでいるみたいですが……」
目を合わせてくるダスティン。
「……どこへ、向かっているんですか?」
ここでナースは退室。
「ひとまずは、トブルクって街だ。ここを落とす。
トライン、ラドクリフ、シゲルの三大隊が18日付けで入り、
包囲網を張っている。
今のところ、大きな戦いは起きてない。
俺たちの到着を待って、一気に攻め落とすつもりらしい」
「なるほど」
そう話しながら、ダスティンは頬杖をつこうとして、
シーツから出した腕に、巻かれた包帯を目視する。
「……オマエは休んでおけ」
「言うと思いましたけど、それは従えません」
ダスティンは笑う。
「……大した戦いにはならない。今は少しでも休んどけ。
そのうち、嫌でも戦うことになる」
「部下に示しが着かないっていうヤツですよ」
腕組みしてみせるダスティンだが、
包帯巻かれた方の手が置かれた際に、
「あ、痛ッ」
なんと小声で漏らしてやがった。
笑いたいのを口元押さえて隠した。
「くだらねぇとこでメンツなんか気にすんなよ。
……休んどけ。いいから」
腕をほどき、またシーツの中へ。
「……義兄さんこそ、休んでないんじゃないですか?連戦続きで」
「無休て訳じゃない……
俺だって寝てるし、クールカ戦後1週間は戦いもなかったからな。
実質、連休だ。サラリーマンなら大型連休の部類だぜ?」
「その間だって……警備やら書類作成やら、あったでしょうに」
返す言葉がなく、何となく目を反らした。
「……最近ゆっくりお話してなかったでしょう?
それが何よりの証明ですよ」
「何だそりゃ」
「大事なことですよ?僕だって……」
そこから妙な間があった。
「……心配ですから」
誰が対象かは明言しなかった。
「ルナか?」
俺の手前、はっきりとは言いにくかったのだろう。
静かにコクりと頷いた。
「俺も……たまには会いたくなるさ。アイツとは長い付き合いだ」
今度は俺が腕を組んでいた。
少し笑って目線を合わせたダスティン。
「からのふくえ……」
「ねぇよ。あるなら離婚なんかしてねぇ」
「……残念」
包帯を巻いていない方の手で顔を覆う。
「部外者から言わせると不思議でならないんですよ。
姉さんも義兄さんも、新しいパートナーつくらないの」
「ルナがどうかは知らないが……まあ、色々あるんだよ、色々」
そう漏らしたときだった。
このフネ、《フレイヤ》が大きく揺れたのである。
それはもうその場に立っていられないほどに。
その場にあったベッドの手すりを俺の手が掴んだ直後、
ダスティンが呟いた。
「……外も色々ありそうで」
当の《フレイヤ》ブリッジでは。
『ダイ・フーディーニ……《インパルス》、出る』
声に力は感じなかった。聞いていたパーディの顔がやや歪む。
続くアレハンドロが、
『アレハンドロ・フンボルト、《アビス》で行っちゃうよ!』
そう調子よく笑っていたのが、尚更ダイの悲痛さを引き立てる。
だが、そんなことを気にかける余裕はない。
「敵機!本艦の真下を高速で移動中!」
探索担当のルアクが声を震わせ叫んでいる。
「宇宙でない分、エネルギーの消費が激しくなりますが……
ドラグーン……使いますか?」
電子戦担当のゲルハルダスが問い、
「使いな!沈められちゃ世話ないよ!」
副艦長ハビエルが答える。
「面舵いっぱーい!」
操舵手のザイロ・モンキーベアーが声を張る。
それでも回避し切れず、砲撃を被る。
ダメージはそれほどではないと見えるが、衝撃は凄まじく、
右側に大きく揺れた。
「たった1機のモビルスーツにィ!何苦戦してんのよォォ!!」
艦長ルシア・アルメイダの叫びである。