機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
ナイルの神が勢力の旗艦《ネイト》は同地に滞在中。
中の休憩室に腰を下ろしていたのは、
黒いクーフィーヤ(頭巾)に身を包む、金髪碧眼の白人紳士である。
「……オートゥール少佐」
そう紳士の前に、頭を下げる一人の若者がいた。
ひと纏まりだけ、垂れて鼻の頭を覆った前髪。その髪は銀鼠色。
この髪に隠れつつも、茶色い眼がかの紳士の側から垣間見えていた。
「おおよそ話は分かった。
アモン氏の離反と反攻という緊急事態の中、
よくぞ生きてかえってきたと、称賛すべきだろう。
ご苦労だった……フロイ」
青年──フィリップ・フロイはなおも頭を下げたまま。
「ひとまず、顔を上げてくれ。フロイ」
そう言われてようやく、重い頭を緩やかに持ち上げたフロイ。
「少し前に連絡があってな。
トブルクにザフトの新造艦が近付いていると……」
「……トブルクには、どなたが?」
「ノーマンが先程ここを絶ち、向かった」
フロイは無言のまま、やや怪訝な表情を浮かべていた。
「不服か?」
「いえ、ただ……血の雨が、降るだろうな、と」
『ラグネル・サンマルティン、《ガイア》、出ます』
その声を背中に聞きながら、
アレハンドロの《アビス》、ダイの《Im/A-P》が、
《フレイヤ》上に接地する。
「……ここからじゃ、何も見えねぇな」
アレハンドロの漏らす声。
『この砂漠だ……
直接足を踏み入れれば、歩くより先に体が沈む』
モニター画面に映るダイが、そんなことをアレハンドロへ。
「じゃあ、ラクダでも連れて来るか?」
『……モビルスーツがラクダに乗れるか』
文句は言いつつも、顔は真面目なアレハンドロ。
レーダーとカメラとを交互に見比べ、敵の位置を確認している。
前者はともかく、後者は砂煙に邪魔されて、
座標上確認できる位置に、敵機の姿は見つけられない。
「一体、どこに……」
間もなく、
ラグネルの《ガイア》がモビルスーツデッキより飛び降りた。
4本足を操り、砂漠を走る《ガイア》。
「俺もあっちにしとくんだったよ」
『安心しろ。
他隊と合流できれば《ケトゥ》にでも乗せてもらえ……』
ダイが言いかけた瞬間に、《ガイア》が視界から消え、
ついでレーダーからも反応が消えた。
「おい……これェェ!?」
『くッ』
先に動いたのは、意外にもダイの方だった。
砂煙の方へ赤く太いビーム砲を撃ち込んだ。
高出力のビーム砲が砂を更に更に巻き上げて、
その一部は《フレイヤ》のみならず、
《アビス》にも《Im/A-P》にも砂がかかった。
「……嫌なシャワーだな」
漏らしたアレハンドロが一瞬だけ見た。
鮫(さめ)か鯱(しゃち)か、そんな類の顔をした黒い敵が、
獲物を咥えるように力なき灰色の《ガイア》を噛んでいた、
そんな姿を。
「おい!ダイ!!あれェェ!!!」
『あぁ、分かって……』
最後まで言わせてもらえなかった。
跳ねるように飛び上がった、この鮫。
今度はダイの《Im/A-P》へと噛みついた。
右腕、右肩を食い千切る。
構えていたビーム砲ガルムが切断されて、
《フレイヤ》の甲板に残される中、
ダイを乗せた本体は咥えられて、砂へと引き摺り込まれていく……
「おい!見たかよ?《フレイヤ》ァァ!!
今!今!ダイが砂の中へ…………」
『見えてるって!アレハンドロ!』
声を上げたのはパーディ。
「……なぁ、パーディ!砂って、海みたいだよな」
『なに……言ってんの?』
パーディは気付いていなかったが、ハビエルは違った。
『早まるんじゃないよ!アレハンドロ!
もうすぐ副長がそっち行くから、それまで待……』
アレハンドロは言い終わるまでさえ待てなかった。
空中で変身を遂げたモビルアーマー形態の《アビス》は、
砂の中へと飛び込んでいく。
「さあ……鬼が出るか?蛇が出るか?
ヘヘッ、やっぱり待ってるなんざ性に合わねぇ」
背中より突き出た2門のビーム砲を地に向け乱射する《アビス》。
手応えはない。
「……出てこいよ。鮫野郎ォォ!」
行ってる間に辿り着いた地面は固かった。
いや、砂であるから、固くはないのだが、
思ったほど柔らかくはないのである。
沈みはするが、水ほどスムーズではない。
水ほど好きに動けず、沈む度にただただ砂が重くのし掛かるだけ。
「おい、おい……冗談じゃねぇ……」
両肩のシールドを開こうとするが、持ち上がらない。
砂が重くのし掛かって。
「こんな……ところで……」
エンジンをかける。それでも沈んでいくのを止めきれない。
「……死ねるかよ!」