機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『……オツォ隊長。聞こえますか?』
「聞こえてらぁ」
ロコ・オツォはこのとき、ニコチンが切れたイライラからか、
首筋の辺りを神経質そうに素早く掻いていた。
『……お借りした《ワイルドダガー》の大部分を喪失しましたが』
オツォの指が止まる。
ほんの1秒、いやもっと短かったかもしれない、
だが、次なるオツォの返答まで妙な間があったことは間違いない。
『指示を』
「まだ『ジェファーソン』だ……せめて『マディソン』まで持たせろ」
『……ハッ』
無線はそんな短い会話を届けて後、すぐに途切れた。
「……軽く、言ってくれるもんだ」
そうぼやくオツォだが、そう呑気してもられないらしい。
電柱にもたげて眠る酔っ払いのように、
ビルに背を預け座る彼の《ハイザック・カスタム》の近くに、
近付くジズの反応がある。
相手は1機。
しかし、向こうも学んだらしく、
ボディカラーを保護色とばかりに変色させて、
上手く周囲に身を隠し、正確な位置を悟らせない。
この街にも空気はあるから、音は聞こえてくるのだが、
例のビルが放つ迎撃用のビーム砲火とシールドの音、
あるいは撹乱用にあちこちで行っている煙を吐く爆竹の音が、
接近する《ジズ》の駆動音を消しているらしい。
それとも、重力のない宇宙要塞の中、
スピードを出す必要がないなら、
最悪エンジンなしで動くことも可能ではあるから、
ゴキブリみたいに滑空しつつ近付いて来ていることも考えられる。
どちらにせよ、こうなれば不利はオツォの方。
何せ相手は位置情報からビルの陰にいることは見当がつくのだから。
さぁ、ここからは読み合いだ。
先に手を出せば負ける。しかし、撃たなければ、いずれ撃たれる。
勿論、1発で仕留めれば済む話だが、
「それが出来たら、苦労しねぇ」
……思わず、オツォの口からそんな言葉が漏れる。
両手に握られたアサルトライフルの銃口が空を仰いだ。
レーダーでは敵の高度が分からない以上、
あとは敵の攻撃を待つしかない。
右か、左か……それとも。
「……チッ」
後方から僅かに聞こえた、鉄の焼ける音。
丁度、コクピットの裏側から聞こえた。
瞬時に、機体を動かし、コクピットの位置をずらした。
正に危機一髪。
あと数秒、遅ければオツォの首と胴体は繋がっていなかった。
まさか、ビルごと撃ち抜いてこようとは……
ただ、このロコ・オツォという男、
避けるのも早ければ、仕返しも早い。
ビームがビルを穿(うが)ち、やがて地面に当たって消える間に、
砂埃か何か、ともかく煙が上がった。
敵のジズは間抜けにも、
敵の様子を見んとクラゲのように漂い、近づいている。
色もノーマルカラーに戻り、ビームシールドで身を守る。
一瞬、オツォは敵の位置を一瞬で把握すると、
アサルトライフルの銃身をビル穴に捩じ込み、乱射した。
ジズ側もシールドは張っていたが、狙ったのか、それとも偶然か、
とにかくシールドの隙間を抜いて、《ジズ》の頭を直撃。
1度で顔に赤っぽく焼けた蜂の巣を築き、そして機体が消し飛ぶ。
額から伝う汗をゆっくり拭うオツォ。
「……クソが」