機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
──少し、アレハンドロの弁明をしておこう。
無様に自ら砂に飛び込み、勝手に埋もれたかに見えた彼であるが、
実際は少し違う。
それを《フレイヤ》クルーは映像で確認していた。
敵機……仮に《A》としよう。
まず、この《A》は着地してきた《ガイア》の脇腹を抉った。
実に鮮やかな手口だった。
正に抉るの弁に相応しく、コクピットから大きく削れた。
そこから《A》は玩具咥えた犬みたいに、頭上の敵を見据えた。
暇していた訳じゃない。
すぐに『玩具』はその辺に投げ捨ててしまって、
お次は飛び魚みたいに派手に跳ねた。
……中のパイロットがどうなるかもお構いなしに。
さて、飛び上がった《A》は先に《Im/A-P》を狙った。
ダイも馬鹿じゃないから、
敵が自分に迫っていると察して先に攻撃を仕掛けたが、
なるほど、この《A》という機体は堅いも堅い。
高出力のビームを半ば弾きながら飛び上がり、
《Im/A-P》に噛みつくのである。
ギリギリで回避できたのは、
ダイの腕か、
あるいは地面から艦に飛び付くまでの時間があったからか、
ともかくコクピットを直撃せずに済んだ。
だが、それまで。
腕を切り落とされ、返す刀で首根っこ噛まれて、重い砂の中へ。
潜る間際、荒っぽく首から胸、腹、そして左腿に至るまで、
《Im/A-P》を一直線に切り裂いたのである。
そうしているうちに、《A》の歯牙が《Im/A-P》より離れた。
ダイは最後の力を振り絞り、機体から上半身と下半身を分離、
中の航空機の姿になりながら、辛うじて脱出。
しかし、その頃には《A》の興味はもう《アビス》の方に移っていた。
覚悟を決めて飛び降りた《アビス》は、
確かに砂を進むには多少なりとも無理のある体ではあった。
けれども、アレハンドロは気付いていなかった。
ある時点でもって、敵《A》の座標が自分の上に来ていたこと、
自身が地に撃ち込んで巻き起こした砂煙と、
ダイが打ち込んだときの砂煙と、《A》が振り落とした砂と。
一気に背中に押し掛かり、砂に深く足を取られて……
そして《フレイヤ》クルーは見ていた。
《フレイヤ》のハイパードラグーンを紙一重にて回避しつつ、
沈みかけた《アビス》の頭を踏みつける《A》の姿を……『なあ……副艦長ゥ…………いや、パーディでもいいんだ。
聞いて…………もらえますか?』
沈みいく機体の中にあって、アレハンドロは呟いた。
『……俺の部屋、クローゼットの下の段の奥に酒が隠してある。
お好きに……どうぞ』
言葉の意図を先に察したのは、ハビエルで。
「……無理そうなのか?アレハンドロ」
ついついハビエルも前屈みになる。
『巣潜りみたいに深く飛び込んじまっちましたから……ね』
確かに、アレハンドロの喋り声の背後から、
砂の落ちる音が延々聞こえていた。
『……すまねぇ』
右手で顔を覆うハビエル。
パーディの肩も背もたれへと倒れていった。
「アンタの死に方にしゃ、らしいのかもね。アレハンドロ」
パーディの漏らす声。
『あぁ……俺はいつも…………結論を急いで……』
「無駄話は、それまでだよ」
ハビエルが言う。
その冷酷さを彼女自身もよく理解していたろう。
しかし、敵が攻めてきているのだから。
「副艦長、流石にそれは……」
ルアクが提言するも、
「各員警戒を怠るな!上空にて更なる敵機を確認したでしょう?
援軍の可能性もある。パーディはひとまず3大隊への連絡を!」
ハビエルは立ち上がり、毅然として指示を出す。
「副……艦長……」
「はい!」
このパーディの返答に、ルアクは驚いた。
パーディはすぐに仕事に取りかかる。
……溢れ出そうな涙を堪えながら。
『いいんだよ。ルアク……正しい。それが……正しい』
アレハンドロの声は健気であったが、声の節々に震えが。
「でっ……でも……」
「ルアク!アナタも策敵を怠らないで!」
ハビエルの指示に、
ルアクは顔を反らしながらも、静かに頷(うなづ)いて。
『ハハッ……ざまあねぇや。文字通り、墓穴を掘ったって訳で……』
アレハンドロは笑う。
『あぁ……砂の音が…………まるで、子守り歌みてぇに……』
そんな声を聞きながら、
シートに腰を下ろすハビエルの所作は重たかった。
(ごめんなさい……アレハンドロ……)
祈るように組んだ指。下がる顔。
……背後で開くドア。