機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「何だよ……つまんねぇの」
そう男は笑っていた。
ブルース・G・ノーマン、仮称《A》のパイロットである。
「……ホルローギンのおっさん、張り切っちゃってさ。
あの《フリーダム》もどきは自分で仕留めるとか、そんなノリかよ。
困るんだよねぇ…………暇しちゃうじゃん」
止まる足、見渡す周囲。
先程まで彼に迫っていた、《フレイヤ》のハイパードラグーン4基は、
既に彼の足跡と共に、ガラクタとなって転がっていた。
「……コイツら、大したことなかったな。
戦艦も、モビルスーツも。何だよ……期待ハズレじゃん。
どうすっかなぁ……そろそろ、アレも落として……」
呟きながら見上げた空より、1機の《ゲルググ》が舞い降りて……
ブルースは、
「おおっ!?」
なんて声上げ、嬉しそうだった。
手には薙刀状に長く延びたビームサーベル。
そして分離した飛行機みたいなバックパック─フォルトゥーナ─が、
足場となって《ゲルググ》を移動させつつ、
搭載されたビームガンが《A》へと襲いかかかる。
「知ってんぜ……テメェ、あれだろ?
《ゲルググ改》、確かパイロットはワイリー・スパーズ……
いいぜ。ブッ殺してやる」
そう挑発しつつも、何故だか《A》は一気に引き下がった。
その場にて横方向に旋回し、砂を撒き散らすと、
また視界から消えたのである。
彼は気付いていた。敵が単機ではないと。
レーダー上に記された敵の数は3。
1機は《ゲルググ改》として、
残り2機はというと、実になんでもない。《ジズ》である。
「……そっちはハズレか。まあ、いいや」
さて、土台ごと接近してくる《ゲルググ改》であるが、
ビームサーベルを船棹よろしく地面に突き刺し、そのまま前進する。
砂煙が起きるのは必定。
それは承知で、湖で底の深さを探るみたいに、
進む度に深く深く、サーベルを砂の下へ下へと。
進行方向へ、次第に巻き立つ砂の塔は高さを増して。
逆に《A》は後退を続け、退路に砂を残していく。
前へ押し出される砂と、後ろへ弾き出される砂。
ぶつかり合って波のように、《ゲルググ改》の顔に振りかかる。
どのくらい進んだろう?
沸き立つ砂の最上段が《ゲルググ改》の角の上を飛んで行った後で、
砂に紛れて《A》は噛み付いてきた。
歯牙……というのは、無論比喩である。
実際は3本からなるビームの牙。
齧歯目がごとき前歯1本と、ゾウ顔負けの下から上へ延びる牙が2本。
サメのような顔が上下大きく開く様は生きているみたいだった。
《ゲルググ改》も回避動作は取ったが、間に合わない。
フォルトゥーナを蹴って跳ねた瞬間には、
ビームサーベルを握る右手が犠牲になっていた。
だが、《ゲルググ改》も黙ってはない。
《A》が口の僅かな隙間に左手を押し込み、ギリギリで食らいついた。
モビルスーツ1機の体躯と体重が加わるのである。
思うようには動けない。
砂の中へ潜ろうとした《A》を、
フォルトゥーナに足を引っかけながら妨害してみせた。
「……ちッ!」
舌打ちしつつも、ノーマンの反応は早く。
口が大きく開き……今度は上下左右と4つへ分裂した。
いや、その口は、そのサメがごとき半身は、半身などではなかった。
《アビス》と同じ、4枚の実体シールドである。
下部分は更に下がって胸当てに、上部分はほぼ動かず後頭部を守り、
左右は両肩をカバーしていた。
ただ丸みを帯びた形状自体は独特であるが。
「離しやがれ!」
そう叫びながら、身を捻る。
両手にはいつの間に握られた1対のソード。
いや、フランベルジュと呼ぶべきか。
「そんなに離したくねぇなら…………刻んでやる」
フランベルジュとは、刀身が波打つ形状が特徴の剣。
その特異な刃の形態に合わせて展開されるビームの刃は、
右の刃が《ゲルググ改》の右腿を刻み、
左の刃が左腿に差し込まれる。
一撃で切り落とすような鋭さはない。ただ……
「この刃はジワジワと中に入っていく。
こんなもんでコクピットを貫いた日には、どうなると思う?
……均等には刺さらねぇだろうなぁ。
パイロットは俺が刃の角度を変える度に、
痛みに悶えながら、ジワジワ死んでくって訳だ。
実に……」
『……悪趣味な武器だな』
そう返答した声は、
《ゲルググ改》のパイロットによるものだったが……
「何か……若く……」