機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
ホルローギンは笑っていた。
俺の、この《ヴェスティージ》の銃口を向けられながら、
なおもホルローギンは動じない様子。
『下も……』
足下では《アビス》の一撃に、《A》が膝より崩れている一幕。
《ヴェスティージ》と《ドミンゴ》、
2機の首はどちらも心なしか下を向いてみえた。
『……こちらも』
そう語る《ドミンゴ》の右腕の肘から下はない。
俺はゆっくりライフルを下ろした。
「……投降しろ」
ホルローギンは即答を避けた。
傷口をなぞるように、《ドミンゴ》の左手が右肘を撫でている。
『何と……言うべきでしょうか』
1音1音がゆっくりと発せられる。
時間稼ぎがされていると、即座に気付いた。
「悪いが、ここは戦場だ。愚痴ならムショで聞いてやる」
『……いえ。そう長々話す必要もなかったようだ』
「何を言って……」
説明を求めるより先に、悲鳴が現実を突き付ける。
「……アレハンドロ」
……その覚悟がなかった訳ではない。
ヴィトー・ルカーニアも語っていた。
【唯一正しき神様ってヤツは、とんでもなく気分屋なんだよ。
だから人間を選り好みする。たまにいるんだよ。
神様に、いや、それか、時代に選ばれたようなヤツがよぉ……
そして、そういうヤツは大抵……楽には死ねない】
だが、自分でも驚くほど俺は動揺していた。
不利を悟り撤退するホルローギンを、追えないくらいに。
考えれば単純な話である。
片膝ついた《A》の背中には、深くはないが1本線の傷。
フランベルジュが杖のように体重を支え、
砂へと刃を埋もれさせていく。
これは、右腕が抱くフランベルジュ。
左腕のフランベルジュは肩に乗り、光の刃を形成していない。
ダスティンに油断はなかった。
本体の方は砂に沈んだビームサーベルに手を伸ばし、
フォルトゥーナは追撃を加えるべく銃口を合わせる。
アレハンドロとて、そう。胸のビーム砲が光を放ち始めていた。
どちらにも抜かりはなかった。ただ……
『……相手が俺でなきゃな』
ノーマンが漏らしたときには、体の方はもう動いていた。
肩のフランベルジュがそのまま後ろへと伸ばされ、
いつの間にやら光を帯びて、終いには《アビス》の脇腹を抉った。
幾度も折れ曲がった刃がコクピットに当たり、
1度目か2度目の折れ曲がりで、まず外壁を削り落としたかと思うと、
3度目にはコクピットの内側に到達、
そこから深く深く中へと刃が入っていく。
【こんなもんでコクピットを貫いた日には、どうなると思う?
……均等には刺さらねぇだろうなぁ。
パイロットは俺が刃の角度を変える度に、
痛みに悶えながら、ジワジワ死んでくって訳だ】
そう語っていたのはノーマン本人。
刃が《アビス》に入っていってから、やがてその手が止まるまで、
10秒程度は時間があったと思われる。
その間、《アビス》はまるで動けなかった。
胸の灯りはすぐに消え、足からは力が抜け、足先が砂を被った。
「アッ…………アレハンドロくん!」
ダスティンは叫んでいた。
そうしている内に腹より刃が引かれた。
抜き去られた刃を濡らしていたのは、血かオイルか。
刃の血を舌で撫でるみたいに、自身の顔に押し当てる《A》。
「ふざけ…………やがってェェ!!!」
頭上よりフォルトゥーナのビームが降り注ぐ。
《ゲルググ改》の指はもうサーベルの柄を掴んでいた。
とはいえ、むざむざ食らう《A》ではなく。
『……遅ぇよ!』
血のついたフランベルジュが《ゲルググ改》の指を押し潰し、
杖のように置いていた方のフランベルジュが腹を押し出した。
突き飛ばされた《ゲルググ改》は無様にも、
数メートルを転がりながら、うっすら砂を被った。
コクピットの中では、
上下左右に揺れる中、傷口は開き、顔には血が滴(したた)る。
意識すらも遠退いて……
「待てよ……この…………やろう……」
血に押されて下がった目蓋、徐々に小さくなる声。
『おい!ダスティン!聞こえるか?聞こえていたら返事しろ!』
なんて俺の呼び声などは届かずに……