機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
『手間取らせ……やがって……』
ノーマンの息は乱れていた。
『無茶するからだ。「一人でやる」なんて大見得切って』
近くにいる味方か?それとも母艦のクルーか?
とにかく誰かと話している。女らしい。
『現に……やれた……だろうが…………くそったれ』
荒い息で吐く強がりには、到底力は籠っていなかった。
『ホルローギンさんは、もう引いたぞ?』
『関係あるか!あんなジジィ。大体……』
そんな話をしている最中だったが、
ピーピー鳴るレーダーが会話を止めた。
『……使えねぇジジィだよ。まったく』
そこに映っていたのは、他でもない俺の《ヴェスティージ》で。
『よせ!流石にノーマンでもヤツには……』
『るせぇ!』
両手を下ろした、対象《A》。ボクサーのノーガード戦法みたいに。
『《ドミンゴ》と一緒にすんな!
この《アビス》はな!《アビス》はな……』
《A》、いや敵《アビス》の右足が少し後ろに下がったのが見えた。
『……最強なんだよ!』
2本のフランベルジュが一気に俺へと襲いかかってくる。
いや、一気に、ではないか。
右が少し早く、左が少し遅れて突き出された。
大したヤツだ。
先に出た右は刃を立てて面でぶつけて来ようとしている。
これで俺の視界の一部を遮り、左の刃の正確な位置を悟らせない。
かつ盾の役割も兼ねてるって訳だ。
無造作に見えて、意識的か無意識か、細かいマネをしてくる。
ビームライフルでは有効打にはならないし、
背中のモビィ・ディックでは近付き過ぎて狙いをつける暇がない。
動きも早い。アレハンドロの《アビス》以上。
恐らくカタログスペックがそもそも上なのだろうが。
この状況を一気に打開してくれそうなクトゥルフは……
残念ながら先程のホルローギンとの戦いで刺され、壊された。
とすれば狙うは……
「……俺はサムライじゃねぇのによ」
サムライ……そのフレーズにヤツが想像したのは……
『ざけんじゃねぇ』
白刃取りでもされると思ったのだろう。
その場で手首を返し、右の刃を回し始めた。
『やってみろよ?やれもんなら!!』
……完全に勘違いしてやがった。哀れと言いたくなるまである。
いや、あんな一言で推理し、当てろという方が無理か?
「あぁ……やらせてもらう」
余裕そうに笑っていたのは、今考えれば妙なことで。
不思議と怒りは湧いて来ていなかった。
ダスティンとアレハンドロなら無事だと思っていたのか?
ジョーンのときと違い、直接見てないからか?
ともかく冷静な自分が少しだけ怖かった。
これから人を殺すかもしれないのに、どうして俺はこんなに冷静で……
無論、そのときはかくも悠長に考える暇はなかったが。
「だが……」
空手の構えみたいだった。何も持たない両手が胸の前にあって。
ついで許しを乞うよう腕を上へ上げる。
少しでも動揺を誘いたかったが、意味はなかった。
とはいえ、それでもいい。
もう既に敵は勝手に罠にかかってる。
「……うおおおお!」
叫びに意味などないが、自然と声が出ていた。
両手をそのまま背中に回して振りかぶり、勢いよく振り下ろした。
ものは言わずと知れた慈悲の剣、カーテナである。
まさか攻勢に出るとは思わなかったのか、
ノーマンの動きは少し遅かった。
体の方はまだしも、フランベルジュの方はどうにもならず、
上から叩かれた2本が一気にへし折れる。
「……あんまりサムライチックでもなかったな」
なんて笑ってられるのは一瞬。すぐに反撃が飛んでくる。
その場で剣を捨てて可変したかと思うと、
例のサメ頭がこちらを向き、口を光らせる。
そんな手は食うかとばかりに、口に刃をねじ込むが……
『ビームじゃ、ねぇよ』
そこから起こったことは、正直驚きを隠せなかった。
この暑い暑い砂漠で、刃が……凍った。
「何で、こんなこと……マンガでも、ねぇのに」
『今だ!殺れ!パー!』
ノーマンが叫んだ瞬間……
『だから、よせと言ったんだ』