機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
と同時に、左手にビームシールドを展開、コクピットを守る。
警戒はしていた。準備も。だが……
『ムダだぜ、そんなこと』
ノーマンの笑う意図を理解するまで、何秒とはかからなかった。
空間を歪ませるような風の流れが、
こちらに迫る弾丸の存在を知らせる。
実弾らしい。
守る必要すらない……と思ったとき、既に着弾していた。
散弾らしい。
シールドか腕かに弾丸がめり込むような衝撃。腕が曲がった。
実弾兵器を無効化するフェイズシフト装甲が、である。
無効化せぬまま、《ヴェスティージ》を吹き飛ばし、
砂に埋もれながら後退りに追い込まれる足、そのうち膝から崩れた。
『やっぱ……すげぇ威力だな。こいつは』
ノーマンの声が聞こえている。
『……早く退くぞ。こんなものは子ども騙しだ』
パー・ウァーリィ……と思われる女性の声がこれに応じて。
俺は追撃に出たかったが、そうもいかなかった。
コクピットでは、機械系統が一気にスパークを起こしていた。
外の画面は見えず、どこを弄っても機体が動く気配がない。
聞こえてきた2人の声にしてもノイズ混じり。
『2度は……通用しない』
よく壊れたテレビは叩けば直るなんて俗信があるが、
そんな風に、キーボードを殴るように叩いた。
……案外、やってみるもんだな。
『……ヤツの目は、死んでいない』
パーってのは気付いていたらしかった。
左手をダラリと垂らしながらも、起き上がる、
この《ヴェスティージ》に。
『へっ、トドメ刺してやるッ』
復活した画面に最初に映ったのは、ノーマンの《アビス》の姿である。
手にはまだ折れたフランベルジュが握られている。
折れてリーチは短くなったとはいえ、元から折れ曲がっていることで、
未だ刃としての機能を失ってはいない。
刃は、ものの1、2秒で俺のところまで届くだろう。
画面が復旧するまでの時間で、相手に近付かれ過ぎた。
反撃の手は……
「……一か八か」
「賭けに出るには……リスクも高く、かつリターンもない」
『……それが撤退の理由か?ホルローギン・バータル』
「アナタでも……同じ判断をしたでしょう?ルチアーノ長官」
そう話すホルローギンは、《ドミンゴ》のコクピットにおり、
彼の機体は今、敵はおろか味方もいない砂漠の上を飛んでいた。
『いいのか?かの神に恩を売れたかも知れぬものを』
「シン・アスカ1人の首では……恩にも何にもなりますまい。
ザフトは何も彼の1人で、
ここのところの戦いに勝ってきた訳じゃありませんし。
生憎、私はクールカ隊長ほど殊勝でもない。
遠くない未来に滅びる偽りの神を信心したりなど……ね」
『……やはり、そう思うか?』
ホルローギンの糸みたいに細い目が見開かれる。
団栗(どんぐり)ぐらいにゃ、見えただろうか?
「いいのですか?こんな会話……
私はともかく、ルチアーノ長官。アナタの方は」
『特殊なプライベート回線だ。傍受はされない。
私もね、それぐらいの準備はしているさ』
「……なら、いいのですがね」
目をゆっくり閉じつつ、口を結んだホルローギン。
『君の目にはどう見えた?ナイルの神の私兵とやらは』
「彼らは優秀な戦士ではありました。
だが、戦いの本質を理解しているのは、私に言わせれば1人だけ。
1人しかいない」
『是非……聞いてみたいものだな。
その昔、まともなザフトの補給拠点もないアラスカやシベリアで、
敵基地を叩いては物資を奪い、
やがては終戦すら知らずに、かれこれ2年も荒らし回った……
ついたアダ名が「氷原の狼」』
ホルローギンは話は聞きながらも、
手元のレーダーへ映る、
およそ数キロ先より迫る10機あまりの《ジズ》の方へ、
目線は向いていた。
「もう10年近くも昔の話ですよ。
それに、そんな話をし出したら、アナタとて……」
『フフッ……そんな君が思う戦いの本質とは?』
「少し仰々しく言い過ぎたかもしれませんね。本質などと……
しかし、あながち間違いとは思いませんよ」
語りながらも、手にはビームライフルを握っている。
モビルスーツの足にとって数キロなど、
短距離走にもなりゃしない。
まして《ジズ》という飛行能力を有した機体にとっては。
恐らく索敵・偵察に特化したと思われる、
背中に大きなレドーム背負った改修型の《ジズ》が、
1番にゴールテープを切らんとしていた。
ミラージュコロイドに守られたステルス機らしい。
見えてもいないし、レーダーにも映ってはいないが、
陽炎のような微かな空間の歪み、
見逃すにはホルローギンの目が少々良すぎた。
何より、この奥に控えていた2番目のランナー、
ノーマルの《ジズ》の姿が重なって、
妙な凹凸を持ってホルローギンの目に見えていたのが、
決め手となった。
これに少し離れる形で3、4番目がおり、
更に後方は目視では見えぬながら、
レーダーにて、数機が連なっているのが分かる。
「……これは、証明した方が早いようだ」