機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
少し、嘘を言ったかもしれない。
それはビームガトリング砲クトゥルフについて。
刺し壊されたといったが、厳密なところ、少し状況は違う。
確かに壊れていた。砲口が切り落とされているのである。
口がないというのが、どういうことか?
ビーム弾を撃てるのか?
いや仮に撃てたとして、敵の方へ飛んでいくかどうか……
だが、悩んでいる暇はない。
「一か、八か」
先程の攻撃で左手は更に損傷している。
ひとりでには持ち上がらない。慌てて右手を添えて、放つ。
奇しくもフランベルジュの刃先が、左の拳に接した瞬間だった。
ボロボロになったガトリングがゆっくり回転を始める。
『……ノーマン!』
女が叫んだときには、もう遅い。
傷付いたガトリングは見境なしに火の粉を降らした。
俺の左足も右手も傷つけられて、
支えを失った左手は、砂地に風穴をいくつも残しながら、
ガトリング自体も砂の中へと埋もれていくのだった。
さて、ノーマンの方はというと、
『……いでぇ』
そう声が出るくらいだ。死んではない。
だが、ダメージは致命的とみえて。
両腕は穴だらけになって削れ落ち、コクピットを含め、
全身に大小の穴が無数に空いている。
背中から受け身のひとつも取れぬままに倒れてしまい、
悶(もだ)えるように身を捩(よじ)る。
『殺す!殺して……やるぅ!!』
砂漠の熱に溶かされて、ヤツの口からカーテナが落ちる。
息巻くヤツの言葉はあながち誤りではなく。
ヤツにはまだ牙が残っている。光の牙が。
砂を蹴り、跳ねればまだ……俺に止めを刺せる。
対して俺が出来るのは……
「……2度も賭けに出るなんてよ」
右手左足は焼け焦げて、ほぼ使い物にならない。
ならば、後は右足に頼るしかない。
「死ぬのは、オマエだ!」
ボールを蹴るように、カーテナを柄から思いっきり蹴り上げた。
……息巻いたものの、
そんなやり方で正確な敵の位置を狙えないのは、
俺が一番よく分かっていた。
出来たのは、首を突き貫き、頭を落とさせることだけ。
だが、それで十分ではあった。
「俺の……勝ち、だな」
『クソッタレェェェェェ!』
ノーマンがそう声を挙げたときには、思わず笑みも溢れたが。
『やれェ!パァー!今ならッ!殺れるゥ!』
……忘れていた訳ではない。
だが、もう一人の女をも制するほどには、流石に余裕がなく。
『アンタは、いつも私任せじゃないか。まったく』
そう答えたと同時に、足音が聞こえ出す。重い足音だが、速い。
当然、死を覚悟した。
「……ここまでか」
だが……
どうやら神様ってヤツはルカーニアの言う通り気まぐれらしい。
『私は霧になって……オマエを、呪う……』
砂を伝う震動。
モビルスーツが膝から崩れ落ちる様が目に浮かぶようであったが。
事実、目視することとなった。
カニがごとき鎧に守られた1機のモビルスーツが、
正に甲羅のような装甲の隙間を抜く形にて、
ビームサーベルを突き立てられ、倒れ込む姿が。
『パー!テメェ……テメェ、なんでだァァ!なんでェ!』
パー・ウァーリィを乗せていたと思われる機体は、爆発炎上。
その煙の中をこちらに向けて歩き、近付くのは、
もう1機の《アビス》だった。
『何で生きてェんだよォォッ!!』
アレハンドロの《アビス》である。
腹は大きく抉れ、フェイズシフトはダウン、灰色の体で、
しかし確かにそこに立っていた。
「アレハンドロ……オマエよく……」
思わず、相好が崩れたが。
『……Cabrán(カブロン)!』
そう笑うアレハンドロの声は掠れていた。
死にかけた犬のような声だった。
瞬間、緩んだ頬が一気に引き締まった。
「アレハンドロ、オマエ……」
次の瞬間にはもう、アレハンドロの《アビス》は立っていなかった。
顔から砂に埋もれるように倒れていた。
「戦いの本質とは……生き残ることですよ。どんな手を使ってもね」
ホルローギン・バータルは笑う。
『お手並み拝見だな』
ルチアーノの問いかけに、ホルローギンは応じず、
ただ即座にビームライフルを投げ捨てた。
続けて左手をゆっくり上げる。
透明化した偵察型の《ジズ》を、
後(おく)れ馳(ば)せながら守るように、
2機の《ジズ》がこの機の前に立ちはだかった。
片方は腕にビーム砲を抱いて、砲口をホルローギンに向ける。
もう片方はビームサーベルを構えて1歩前へ。
だが……
「……投降します。命は助けてください」