機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
砕かれた両腕が小さく折り畳まれ、魚のヒレのようになる。
いや、モグラの手みたいだったかもしれない。
何せまじまじと見ちゃいなかった。
砂を掘り返し、逃走を図る《アビス》。
追撃を……と前に出たときには、少し遅かった。
背中のモビィ・ディックはすぐに起動したが、
狙いをつけようにも砂煙が視界を遮る。
駄目で元々とばかりに撃ち込んでみたところで、当たりはしない。
頭にあるのは……
【また……守れなかったね?『お兄ちゃん』】
あの女のそんな言葉で。
目の前にあるのは、
《インパルス》、《ガイア》、《アビス》の残骸だった。
「生きてこその物種と、昔から言いますからね」
ホルローギン・バータルは笑う。
砲口を向けられてもなお。
『解(げ)せないな』
敵のパイロットらしき男の声が応じる。
『青に赤のライン……そして、その機体、
ホルローギン・バータル殿とお見受けするが?』
「意外に有名なのですね。私は」
『アーモリー・ワンでの戦闘データで確認した。
貴方ほどの実力を以てすれば……』
ゴクリと唾を飲む音が割に大きい音として聞こえて。
『……我々10機余り、切り伏せるは容易(たやす)い筈だ』
ホルローギンの金色の瞳がそう呼ばれた一瞬だけ、
正に狼のようにギラリと輝いた。
「えぇ……」
などとホルローギンが宣(のたま)えば、
敵パイロット連中の動揺が鼻息から返ってくる。
対するホルローギンの表情は優しげで、
開いた眼がまたも線がごとく細くなる。
「……万全の状態、でしたらね」
《ドミンゴ》の右手が、左肘を摩(さす)る素振りを見せる。
「見ての通り、腕はなく、
武器も先程捨てたビームライフルが最後。
……ついでにエネルギーの方も、あまり残っていない。
お手上げってヤツですよ。文字通りのね」
そう笑いながら、
《ドミンゴ》は背中でゴスッと妙な音を立てたかと思うと、
機体は突如として下降を始める。
まるで必死に立って歩いていたヤツが、
ついに力を失い、倒れていくみたいに。
最前列でサーベル構えていた《ジズ》が、
肩を貸すように前に出て、寄り添った。
「すみませんね……」
右手で《ジズ》の肩に捕まる《ドミンゴ》。
『信用して……いいのですかね?フォーコレ隊長』
彼らがホルローギンを知っていたように、
ホルローギンもまた、敵の名を知っていた。
(ゴーヴァン・メ・フォーコレ……
確か、『雨の髪のフォーコレ』でしたか)
『……手を貸してやれ』
それがフォーコレの回答であった。しかし、
(フォーコレ隊長とやら……どの機体に乗っているのでしょう?)
二つ名をつけて呼ばれる男にしては、
それらしい派手なモビルスーツがそこにいる訳でもなく。
「感謝いたしますよ。フォーコレ隊長殿」
返事はなかった。
肩を貸した1機だけでなく、もう1機もホルローギンに肩を貸す。
だが、そこで一瞬、ホルローギンが右手を離した為に、
動きが止まり、警戒が走る。
「いやぁ……やはり無理はありましたね。こんなものは」
ホルローギンはそう呑気に笑いながら、腰を叩いて見せる。
そこには本来《ドミンゴ》にはない、スカートのような部位があり。
「これ……なんとかスカートと言うそうですが、
本来長時間飛行できないこの手のモビルスーツを、
継続的に飛行するよう調整したとかいう代物らしいのですがね……
実に残念だ。燃費がどうも悪くて。
まあ、ドダイよりはよっぽど使いやすいのは、事実ですがね」
『そっ……そうですか。アハハハハ』
笑い声に感情が籠っていない。
下手な愛想笑いを続けつつ、
もう1機も恐る恐るホルローギンに肩を貸した。
「いやぁ……有り難い、有り難い。何と……礼を述べていいやら」
『いえ、いえ……』
「……残念だ。本当に」
そう語ると共に、ホルローギンの口角がゆっくり落ちる。
『……はい?』
聞き返したパイロットは、真相を知ることは出来なかった。
《ドミンゴ》の右手が奪ったビームサーベルに、
貫かれてしまったのだから。
「残念だ……殺さなければならないのが」