機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
フレイヤ・クルーのオペレーター、パーディタ・サトクリフの姿は、
モビルスーツデッキに向かい、走っていた。
若い男性クルー数名が目撃している。
彼らはパーディに間違いないと証言している。
……揺れる胸に見とれていたから、間違いとかなんとか。
彼女が動いたのは、ほんの数分前。
丁度、カオスを乗っ取ったジェイナス・ビフロンスが、
俺たちの前に立ちはだかった頃だった。
彼女がサマンサ・“サム”・スクリーチの捜索、
ひいてはモビルスーツデッキの様子見に席を立つと述べたとき、
隊長のアルメイダはいい顔をしなかった。
それを、監視カメラが壊され、
モビルスーツデッキ側からの連絡もない以上、
誰かが行くしかないと擁護したのはハビエル。
アルメイダも渋々折れたが、
結局黙殺するのみで、見てきていいとは言わなかった。
普段なら、モビルスーツという20メートル前後の巨人が立ち並ぶ、
モビルスーツデッキもこのときばかりは、
たった1機《ガイア》を除くならば、皆失せた後であった。
パーディの荒い息が妙に大きな音を以て室内に響く。
両膝にその両手をついて、下を向いた彼女が、
次に顔を上げたとき、
そこに広がっていた光景は、惨絶の一言に尽きる。
あるものは顔が上を向いた姿勢で漂っており、
何が起こったのか分からないといった表情のまま、
眉間より赤い血の滴を漏らしているばかり。
また、あるものはヘルメットのガラス部分が血で覆われ、
中の様子が分からない。
手に拳銃を握る、喉に風穴の開けた男。
腹部を押さえて俯いたまま動かない女性。
そして、今、ひとつの身体が壁にぶつかって、
その手に握っていたらしい拳銃が離れ、空中に放られた。
何れも死体。生きている者は見当たらない。
皆死んでいる。
およそ人間が、台所の縁に現れた虫けらのように、
小さく見える世界にあって、
30人はいようかという人間の体が何れも浮いたまま、動かない。
無重力空間、血もまた衣類のシミみたく、
空気中を浮いている。
これでは誰が裏切ったのか、誰が抵抗したかすらも分からない。
パーディの喉の奥より何かが上ってきて、
彼女は慌てて口を抑えて、下を向いた。そんな瞬間だった。
背中に銃口とおぼしき鉄の塊が触れたのは。
体は前を向いたまま、顔だけをゆっくりと動かして、
横顔で背後を確認すれば、
「……サム?」
とはいえ、彼女はそれ以上、何かを口にすることは出来なかった。
次の瞬間にはもう、凶弾が残酷にも、彼女の身を貫いていたのだから。