機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-22 白き星と黒き刺客(1/7)

ヴィトー・ルカーニアは、

少し先に置かれた編み目状の黒い籠(かご)から、

一際大きなオレンジを手に取った。

ヴィトーの手から溢れんばかりの大きなオレンジだった。

沈黙が長引いた。

そのうちに、アントンの後ろ髪が汗を帯びて、うっすら輝いてみえる。

平静を装うように両手をポケットに突っ込み、

自身を覗き込むフィロパトルにも笑顔で対応してはみたものの、

目を逸らした瞬間に表情が曇る。

さて、この沈黙を破るのはヴィトーのこんな言葉だった。

「……問題は出来るか出来ないかのそれだけでな」

ヴィトーは少し笑いながら、

ボールのようにオレンジを上へ放り、落ちてくると掴む。

この繰り返し。

以下、ヴィトーの視線はほとんどオレンジにだけ向いていた。

「次の目標地点は、エル・アラメイン。

4つの大隊と、おそらく1つの小隊の指揮を執ることになる。

フォーコレ……確か、スコルツェニーの部下だったな?」

「はい」

と側に控えていたフィロパトルが頷く。

「……という連中を従えて、テメェは勝たなきゃいけねぇ。

相手は分かっている。

ハーシェル・クリーブランドって、ナイルの神の腹心らしい。

大西洋連邦で大佐にまでなった腕利きだと聞いた。

野郎が昔どこぞで孕(はら)ましたガキだって噂もある。

真偽はともかく……厄介なヤツだと言えるだろうな。

やれるか?オマエに」

アントンの手がテーブルに乗り、顔がヴィトーの方に向く。

「……オバマで遅れを取ったオマエに」

鼻で笑うヴィトー。

「アニキ!俺だって!」

宣誓は許されなかった。

野球ボールのようにヴィトーはオレンジを投げたのである。

目標はアントンの顔らしい。

命中は、幸か不幸かしなかったが。

「あっ、危ねぇ……」

そう言いつつも、アントンの手はオレンジを掴んでいた。

「……どのみち、決行に一週間程度はかかるだろう。

今から行っても間に合う。行ってこい」

オレンジをゆっくりテーブルに置き、顔を上げる。

「いいんすか?アニキ」

「あぁ……俺の代理人だと名乗れば、連中も逆らえねぇ。

補佐官もつけてやる……補佐官は……」

アントンの目はフィロパトルへ向いていた。

フィロパトルはうっすら微笑みを浮かべて、これに頭を下げる。

「……フェイをつけてやる」

「えっ?」

アントンがゆっくり視線をヴィトーに向けたとき、

当のヴィトーは洋梨のヘタを掴むと、

ツタを曲げたり伸ばしたりして、指先で弄んでいる。

「フェイは武将として優秀だ。

モビルスーツパイロットにしてもいい。ボディーガードにもなる。

戦いに連れていくなら、アイツが一番いい」

ポキッと折れたヘタ。

それに飽きてか、顔を上げたヴィトー。

「……不満か?」

「いや……そういう訳じゃあ……ないんですがね」

再びフィロパトルをチラリと見るアントンだったが、

フィロパトルの方は彼に見向きもしてはいなかった。




その後、アントン含め諸衆は退散、皿も片付けられ、
部屋にはヴィトーとフィロパトルだけになった。
「奥さんに随分手を焼いてるそうよ?アントンくん」
「……俺の妹だからな」
笑いながら、ソースかワインだかで赤黒く汚れた唇を、
ナプキンで拭(ふ)いている。
「親父は大層な野心家でな。
カネと出世の為なら何でもする男だったよ。
アントンの親父は結構な資産家だった。政略結婚てヤツよ。
まだ小さかったガキ同士に結婚を約束させた。
向こうは親父の政治力をアテにしてな。
アントンは昔からうちによく来ていて、
ホントの兄弟みたいだって話をした。
兄貴も妹も、アイツを気に入っていたしな。
……まあ、アントンの方は、
昔からあんまり妹を気に入っちゃいないって風だったが」
掌を開き、テーブルの上に乗せる。
その手の平に乗っていたのは、あの折れた梨のヘタ。
「いつの間にこんなもん……まあ、いい」
ヘタをクロス引かれたテーブルの上へ。
「15年だ。
アイツは親父さんの為に15年も、
ロクに好きでもない女と添い遂げてきたことになる」
「それで……アントンのお父さんは今?」
「死んだよ。2ヶ月前に」
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