機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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──6月27日。トブルクより。
俺たちが集められたホテルの窓からは、
ホタルの光のように小さく、かつ点在する街灯が照らすばかりの、
ほの暗い世界が広がっていた。
時折下を通る車の音がやけに大きく聞こえた記憶がある。
そんなことに気を散らされて、時折窓の外を一瞥しては、
嗚呼イケナイと室内へと目を映す。
今は会議中なのだ。
隣で資料に熱心に目を通すハビエルは勿論のこと、
あのアルメイダでさえ、一応話は真面目に聞いているらしかった。
テーピングされた左手を隠すように右手を添え、
両肘をつきながら話を聞いているつもりの俺には、
その実何を話しているのか理解できなかった。
口パクでもしてるみたいだった。
聞き慣れている筈のアーサー・トライン大隊長の声が、
いくら耳を傾けても聞こえない。
そんな中……
「具合でも悪いのですか?アスカ副長」
金髪の優男──ゴーヴァン・メ・フォーコレが囁いた。
周囲の視線が俺に向く。
アルメイダが小さく舌打ちしたり、ハビエルが小声で、
「キツいなら帰りな」
なんて助言したりしている。
「あぁ……すみません」
「困るぞ?君ほどの重役が……」
なんてポンゴ・ラドクリフ──パーディの兄──が笑いかけたり。
「無理もないさ。シンは怪我もしているし」
アーサーはそう俺を擁護してくれたり。
ただ、最終的な結論を出す人物は決まっていた。
「下がって……よし」 
偉そうに腕を組んで、そう言う彼は俺より4、5歳は若かった。
俺は立ち上がり、そんな相手に深々頭を下げると、
「失礼します。ランスキー司令」
とだけ言い残し、出口へと急いだ。
その背中に彼──アントン・ランスキーは吐き捨てる。
「……エル・アラメインではよろしく頼むぞ?アスカ副長」


PHASE-22 白き星と黒き刺客(2/7)

「なるほど。こき使ってやるから、働けってか?」

意地悪げに言うワイリーはビールを飲みながら話していた。

器用な男である。

車イスの肘掛けのところにビール缶を乗せていたのだから。

「……そこまでは行ってねぇよ。ランスキーもな」

俺はそう漏らしつつ、車イスを押していた。

「もっとゆっくり頼むぜ。ビールが溢れちまう」

ワイリーはそんなことを漏らしていた。

「軍人のくせに酒ばっか飲みやがって」

など咎めても無駄。

「決行は1日だろ?前日に飲まなきゃいいんだよ」

呑気にそうビールを流し込み、空になったところで、

手の甲で弾くみたいに肘掛けから缶を落とした。

「……襲撃でもされたらどうする気なんだ」

そう言いながら俺は落とした缶を拾い、ゴミ袋へ。

この袋、中にはもう3、4本は入っていて。

「そんときゃ、

ランスキー司令官代理殿に助けていただこうじゃないか。

ヴィトー・ルカーニア司令のお墨付きだろ?」

「……どうだか」

俺たちが歩いていた廊下も、さっきと景色はそんなに変わらない。

ただビルの高層階と、戦艦《フレイヤ》とでは高さが違う。

より身近で、より陳腐で。

「俺で良かったな。アスカ……」

「はあ?」

「彼女なら失望されてるぜ?こんなデートコース」

「……夜営中に何言ってやがる」

割に遅い時間だったと記憶している。

さっきから左手側に並ぶ部屋はなお暗く。

そうしている裡に差し掛かった医務室もまた、真っ暗だった。

医務室のドアは開いている。

「これでも……後悔してんだぜ?」

ダスティンのベッドが見えていた。ぐっすり寝てやがる。

気持ちよさげな寝顔だ。

頭に巻かれた包帯にさえ目を瞑れば。

「……ずっと悔いていた。ガキどもに世話かける度に」

「俺もだよ。ワイリー」

「何言ってやがる。このエースパイロットが……

俺に言わせりゃ、オマエはよくやっているよ。いつも」

医務室を少し過ぎたところで、車イスを停めた。

「俺はオマエや……アレハンドロみたいな英雄じゃない。

なりたいとも思っちゃいないがよ。

ダスティンとも違うしな。

多分一番近いのはダイで……

だからたまにアイツの気が痛いほど分かる」

普段適当なワイリー・スパーズというこの男が、

嫌に真面目に語りやがるから、無下には出来なかった。

間違えてもオマエとダイじゃ全然違う、なんてはとても。

「……アイツは努力家で、でも実力が伴わなくてな。

だからもっと……誉めてやれっての」

「気持ちは……分かるが」

……多分、ワイリーも気付いていたのだろう。見えたのだろう。

医務室のドアが開いていた本当の意味。

ドアの影に何故か隠れるように立つダイの姿が。

「確かにそうだな。アレハンドロは違う。アイツは止めてもやる。

だがダイは……俺が望みさえければ、死すら選ぶかもしれない。

そういうヤツだから……

だからアイツに望んじゃいけない。

俺が望めば、アイツは死に急ぐかもしれないから」

……非難の意図はなかった。俺なりに気遣ったつもりだった。

いや、だとしても、ヤツの前でそう語るべきでなかった。

アレハンドロは助けられない、でもダイなら……

なんて俺の想いがダイにどんな感情を抱かせるか。

このときの俺はまだ、気付いていない。

「何よりアイツは英雄になりたがってる。それが危うい」

そう語ったのは、ワイリーだったが。

思えば確かにワイリーの方が正解だったのかもしれない。

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