機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
「分かりかねます……何故、我らが神はアナタを信任するのか」
フー・ソクティスの詰問に、シーザー・ルチアーノは笑みで応じた。
「ホルローギンも、
オートゥール氏にピストルを突き付けられたと聞く。
そりゃあ、信用するだろう。
君らと違って私は、無闇に矛先を向けて恫喝するなどいう、
マフィアまがいの手は使わない」
「……よくもまあ、いけしゃあしゃあとそんなことを」
「使わないよ……『私は』」
銃声が鳴り響く。それは突如として。
ソクティスは振り返るが、
残念ながら後ろを確認する余裕はなかった。
右の足首から流れる血と痛みが、彼の顔を下げさせた。
痛みを堪え、ソクティスが顔を上げると、
ドアが開いていて、
自身にピストルを向け立つ少年の姿がある。
彼は雪のように白い肌をしていた。
銃のモデルはH&K P2000。
手の小さい婦人警官向けに開発された、この自動拳銃であるが、
流石に子どもの手には大きかったと見える。
銃口からは未だ煙が燻(くすぶ)っている。
「……おっと失礼。どうやら礼儀がなっていなかったらしい。
ダメじゃないか。ユーダリル」
シーザーは笑いながら少年の方に寄り、頭を撫でる。
「子どもを……ボディーガードにしているのか?」
そう問うソクティスを、半笑いで見下ろすシーザー。
「違うよ……この子はただのペットショップのバイトさ」
拳銃をホルスターに戻す少年だが、
そのホルスターの幅すら彼の足の太さとそう変わらない。
「……ペットショップ?」
不可解とばかりに聞き返すソクティスの回答は背中にあった。
シーザーの部屋には1羽の白いオウムがいた。
鳥籠の中でオウムは吠える。
「ヒドイヒトォ!ヒドイヒトォ!」
翼をバタバタさせて、羽根を幾枚も落としている。
うちの何枚かは柵すら越えて、絨毯(じゅうたん)へ。
「オウムもああ言っている。君のやり口は、ちと無礼だ。
クリーブランド氏もクロコディロポリスに帰るそうじゃないか。
帰りたまえ。大尉。
君の役割は既にフィリップ・フロイ氏に引き継がれた後だ。
私の副官は君では務まらん。
君には、
金持ちの老い耄(ぼ)れの世話でも焼いているのがお似合いだ」
「……神を怒らせることになるぞ?」
睨み付けるソクティスだが……
「かような脅しに意味があると思うかね?この沈みかかった舟の中で」
シーザーの足はドアの縁をゆっくり跨いだ。
手はなおも子どもの頭の上へ。
「最後の仕事だ。ソクティス大尉。
カーペットを取り替えておいてくれ。汚れてしまったからな。
鳥の羽根と、君の血でな」
ソクティスの対応は早く、首に巻いていた斑模様のスカーフを外し、
手早く足首に巻いていた。
それでも血の数滴は確かに、マットを濡らしていた。
「……いいカーペットを頼む。
そうさなぁ。まるで……クレオパトラでも入っていそうな……」
6月28日未明。トブルクにて。
「………本当なのか?それは」
アントン・ランスキーは解けた革靴の紐を結び直しながら、
その片手間に報告するフェイ・デ・カイパーの表情を確認した。
「えぇ。間違いなく……」
「いつから知っていた?」
問い返した頃には、靴紐を直すのは済んだらしく、
手が靴から離れていた。
「……私はオウムと例の少年を明けの砂漠の拠点まで送るよう、
ヴィトー司令から命令されました。
恐らくあの方は……当初は明けの砂漠側に就くお考えだったようです」
「ただ、結果的には…………そうはならなかった、と」
震える指が向くのは目前の机。
木製で、そこには黒いバスケットがあり、
オレンジが3つ乗っていた。
「……戦わねばならないのか?」
「はい」
「………どうしても?」
フェイは即答しなかった。どこを見るとなく見上げて、
「ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスは、
大叔父の恋人だった女と、大叔父の部下だった男と戦い、
2人を死へと追いやった」
と呟くだけで。