機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
──7月1日。行進は始まった。
トブルクを出たランスキー指揮下の艦隊は、
カッターラ低地と呼ばれる湿地帯を抜け、
敵が拠点を置くエル・アラメインを目指し、舵を切る。
空を何隻もの戦艦が飛び、地には大きな影が居並ぶ。
カッターラも砂の大地ではあるが、湿地帯であり、
水気を帯びている。
生乾きの泥と流砂とが、
走り進む《ケトゥ》の足並みをいくらか乱した。
こういう時まで見えないのは不便だろうて、
《ケトゥ》らは一様に、
その姿を砂に映える黒一色へと染め上げていたりして。
燦々と降り注ぐ太陽の下、
光を反射して輝いて見える戦艦どもに対して、
《ケトゥ》らは戦艦の影とその暗い体色とが相俟って、
頭上より見下ろす分には視認しにくいものがあった……
トブルクからエル・アラメインまで、
距離にして約450キロメートルにもなる。
戦艦とモビルスーツの足でも、数時間以上の経過は予想された。
何より敵機襲撃のリスクである。
下には《ケトゥ》、上は《ジズ》が飛び交い、備えている。
陣形は……魚鱗というらしい。
サーベラス戦術にも似ているが、少々違う。
先陣をポンゴ・ラドクリフ、
左翼にアーサー・トライン、右翼にイナバ・シゲルを配し、
およそ中央にルシア・アルメイダとゴーヴァン・メ・フォーコレ、
そして後方にアントン・ランスキーが控えている。
背後を突かれるリスクは低い。
理由は簡単。背後、つまりリビア方面は既に制圧済みであり、
トブルクだけでも、
ディジー・ファンクとバルドル・リュメルらがおり、
かつ地中海は親プラント国家たる西ユーラシア連邦の勢力下。
背後に回るという方法はそうそう取れまい。
となれば中央より後方が安心という判断になる。
結果、ランスキーは最後尾についた。
中央は消耗激しい《フレイヤ》と、
元々の母体数からして少ないフォーコレの小隊が待機し、
前および左右より敵が出現せば、援護に回る腹積もり。
3大隊はここ数週間の戦いで大きな消耗はなく、
かつランスキーの手勢たる戦艦3隻、モビルスーツ数27機。
総勢70機あまりからなる大進撃であった……
俺も俺で《ヴェスティージ》に搭乗。出撃を待っていれば、
『何だか……ホントに総力戦て感じだよな?』
ワイリーが苦笑がちにそう言ってきた。
『オバマで戦ったときより多くはねぇか?』
「……オバマは、一応奇襲って建前があったからな。
それなりに兵数は抑えてたんだろう。
だが今回はその必要もなければ、別動隊なんかがある訳でもない。
これだけの大艦隊になるって訳だ」
そう話しながら、あちこち動かしてみる。
というのが、ここ最近は戦い続きであったこともなり、
応急措置が多く、ちゃんとしたメンテナンスがされていなかった。
トブルクに向かっていた戦いから1週間、
かなり細部までチェックと手入れがされたらしい。
『おいおい。まさかモビルスーツと拳で語り合う気じゃねぇよな?』
ワイリーの指摘に思わず苦笑い。
確かにシャドーボクシングまがいの動きはしていたが。
「……ただの動作チェックだろ?うるせぇな」
肩を回してみた。
クールカやギボンの機体を見た後だから、
どうにもぎこちなく見えるが、それでも動く動く。
『いいね……おじさん、モビルスーツより肩上がらないかも』
なんてワイリーは嘯くが。
『アンタ、まだそこまではいってないでしょうが……
というか、今回はアンタらには働いてもらわんと困る』
「おいおい、アンタらって……
俺は仮にも上司だぞ?ハビエル」
『……しょうがないでしょうが』
ハビエルの意図するところは痛い程分かった。
モビルスーツデッキにいた俺には見えていた。
未だ修繕作業の終わらない《アビス》と、
灰色の姿のままで動く気配のない《ガイア》。
アレハンドロは重体、
ラグネルもまた、
意識のない状態で冷房器具の停止したコクピットの中にいた為に、
日射病の症状を起こしている。
とても戦場に立てる状態じゃない。
『……俺がやればいい。そうでしょう?』
そう応じたのは、ダイだった……