機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-22 白き星と黒き刺客(4/7)

──7月1日。行進は始まった。

トブルクを出たランスキー指揮下の艦隊は、

カッターラ低地と呼ばれる湿地帯を抜け、

敵が拠点を置くエル・アラメインを目指し、舵を切る。

空を何隻もの戦艦が飛び、地には大きな影が居並ぶ。

カッターラも砂の大地ではあるが、湿地帯であり、

水気を帯びている。

生乾きの泥と流砂とが、

走り進む《ケトゥ》の足並みをいくらか乱した。

こういう時まで見えないのは不便だろうて、

《ケトゥ》らは一様に、

その姿を砂に映える黒一色へと染め上げていたりして。

燦々と降り注ぐ太陽の下、

光を反射して輝いて見える戦艦どもに対して、

《ケトゥ》らは戦艦の影とその暗い体色とが相俟って、

頭上より見下ろす分には視認しにくいものがあった……

トブルクからエル・アラメインまで、

距離にして約450キロメートルにもなる。

戦艦とモビルスーツの足でも、数時間以上の経過は予想された。

何より敵機襲撃のリスクである。

下には《ケトゥ》、上は《ジズ》が飛び交い、備えている。

陣形は……魚鱗というらしい。

サーベラス戦術にも似ているが、少々違う。

先陣をポンゴ・ラドクリフ、

左翼にアーサー・トライン、右翼にイナバ・シゲルを配し、

およそ中央にルシア・アルメイダとゴーヴァン・メ・フォーコレ、

そして後方にアントン・ランスキーが控えている。

背後を突かれるリスクは低い。

理由は簡単。背後、つまりリビア方面は既に制圧済みであり、

トブルクだけでも、

ディジー・ファンクとバルドル・リュメルらがおり、

かつ地中海は親プラント国家たる西ユーラシア連邦の勢力下。

背後に回るという方法はそうそう取れまい。

となれば中央より後方が安心という判断になる。

結果、ランスキーは最後尾についた。

中央は消耗激しい《フレイヤ》と、

元々の母体数からして少ないフォーコレの小隊が待機し、

前および左右より敵が出現せば、援護に回る腹積もり。

3大隊はここ数週間の戦いで大きな消耗はなく、

かつランスキーの手勢たる戦艦3隻、モビルスーツ数27機。

総勢70機あまりからなる大進撃であった……

俺も俺で《ヴェスティージ》に搭乗。出撃を待っていれば、

『何だか……ホントに総力戦て感じだよな?』

ワイリーが苦笑がちにそう言ってきた。

『オバマで戦ったときより多くはねぇか?』

「……オバマは、一応奇襲って建前があったからな。

それなりに兵数は抑えてたんだろう。

だが今回はその必要もなければ、別動隊なんかがある訳でもない。

これだけの大艦隊になるって訳だ」

そう話しながら、あちこち動かしてみる。

というのが、ここ最近は戦い続きであったこともなり、

応急措置が多く、ちゃんとしたメンテナンスがされていなかった。

トブルクに向かっていた戦いから1週間、

かなり細部までチェックと手入れがされたらしい。

『おいおい。まさかモビルスーツと拳で語り合う気じゃねぇよな?』

ワイリーの指摘に思わず苦笑い。

確かにシャドーボクシングまがいの動きはしていたが。

「……ただの動作チェックだろ?うるせぇな」

肩を回してみた。

クールカやギボンの機体を見た後だから、

どうにもぎこちなく見えるが、それでも動く動く。

『いいね……おじさん、モビルスーツより肩上がらないかも』

なんてワイリーは嘯くが。

『アンタ、まだそこまではいってないでしょうが……

というか、今回はアンタらには働いてもらわんと困る』

「おいおい、アンタらって……

俺は仮にも上司だぞ?ハビエル」

『……しょうがないでしょうが』

ハビエルの意図するところは痛い程分かった。

モビルスーツデッキにいた俺には見えていた。

未だ修繕作業の終わらない《アビス》と、

灰色の姿のままで動く気配のない《ガイア》。

アレハンドロは重体、

ラグネルもまた、

意識のない状態で冷房器具の停止したコクピットの中にいた為に、

日射病の症状を起こしている。

とても戦場に立てる状態じゃない。

『……俺がやればいい。そうでしょう?』

そう応じたのは、ダイだった……


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