機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
なんて講釈垂れる時間はなかった。
奇襲……ではない。情報は得ていた。
砂漠の真ん中で展開している部隊がいると。
数にして9機。
データ上に表示された型番は《GAT-399R2/Q》。
恐らくだが《ワイルドダガー改》と見られる。
座標はシワというオアシス都市周辺の砂漠地帯。
2キロ四方程度の湖が傍らに見える。
偵察用に飛び立った改造型の《ジズ》は、
砂に紛れており、視認は困難と報告したそうだが……
『敵機捕捉!』
ルアク・パームシットの声がブリッジから。
……既に敵機の位置は分かっていたのだから、
そこは接近とかじゃないのかと内心では思いつつ、
ひとまず出撃準備へと移る。
例によって、あのロボットアームみたいなでっかいのが迫り、
両肩を掴んで、《ヴェスティージ》を運ぶ。
「……あまり出張んなよ。俺たちは援護だからな」
ダイにはそう言い残し、俺は外へ……
両翼広げ、飛べば足下は一面砂ばかり。
砂は盛り上がり、小さな山と小さな谷が連なる。
砂はいくらか巻き上がり、風に流れている。
ただ遠方に横たわる湖の青緑だけ、えらく輝いて……
それもこれも上空数百、数千メートルから見下ろせば、
すべてがミニチュアみたく小さく映った。
奇妙な喩えかもしれない。
だが、俺にはそれが病院の天井に見えた。
あの真っ白なキャンバスに、
縦へ横へ均等な線が引かれ、黒い点が不均等に並んでいる。
丁度《ケトゥ》どもが点の代わり、
それが部隊と指揮系統の違いから、
5とか10とか毎に密集しつつ、
グループ同士は縦に横にで距離を取っている。
それがこの砂の大地に、間隔をほぼ維持しつつ進軍している。
本来見上げる筈の天井を見下ろすことの奇異さ。
「……疲れてるな、まったく」
そんな感慨に耽(ふけ)る暇はなく。
緑色の光が砂の上を走り、遅れ馳せながら銃声も鳴り響いた。
最前列を歩いていた《ケトゥ》が撃ち殺されて、
横倒しになって後方へと。
《ケトゥ》の群れはこの1機を避ける形で進軍を続ける。
上から見るとこの『点』たちが、翼を広げた鶴のごとく……
レーダーで確認すれば、
《ダガー》連中がいるという位置は目の前に。
ただ、報告通り敵の位置は視認できない。
「こんなに高いところからじゃなぁ……」
前線の《ケトゥ》たちは見えているらしい。
進行方向がおおよそ決まっている上、
今しがたなぞ、ある1機の《ケトゥ》が首を伸ばし、
そこにいたらしき《ダガー》を仕留めたらしい。
砂地に一瞬、オブジェみたいな灰色の《ダガー》が姿を現すと、
爆発炎上。煙も上がる。
そんなのが2つ3つも続き、視界がなお悪くなる。
レーダーで確認すると簡単なものだ。
《ダガー》と《ケトゥ》、
型式番号が表示された点たちは1つ、また1つと消えていく。
『……敵さん、不利を悟ったか』
ワイリーがそう言った通り、
《ダガー》たちの中でも後方に控えていた2、3機が、
2、3個の点が徐々に後退を始めた。
『こりゃ意外と簡単かも』
そう笑いながら、ダスティンが《セイバー》に乗り、登場。
『いくらなんでも、兵力差がなぁ……』
ワイリーは何故か敵に同情的。
「もう大丈夫なのか?ダスティン」
『えぇ。掠り傷ですし』
「……ならいいが」
ダスティンの部下たる《ジズ》2機も、
《セイバー》へと付き添うように飛んでいる。
「どいつもこいつも、無理しやがって……」
俺の位置からだと、
ダスティンの《セイバー》、ワイリーの《ゲルググ》、
そして……ダイの《インパルス》。
それらが横並びになって見えていた。
『大丈夫ですよ、この兵力差だ。
ボクらの出番はないと思いますよぉ~?』
ダスティンはそう笑うが。
「……だといいが」
俺が気になっていたのは別のもので。
『気になるか?あれ』
ワイリーも指摘した。
「……あぁ」
砂煙や爆煙に紛れて、しかし確かに現れる湖上の霧。
『オアシスだけに幻影って訳でもなさそうだが』