機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
嫌なときというのは、
ついつい思考の方もマイナス方向へ傾き始める。
【……何故、我々は脱走兵と戦っている?】
そう言ったのは、『今は亡き』モーリス・ゴンドー大隊長とやら。
そしてまたしても、敵は《ダガー》。
ザフト脱走兵ではないまでも、連合製の《ダガー》である。
目撃情報、ダスティンの推察……
いずれにしても、《ダガー》が主力とはとても。
となると……
『奴らは捨て石、と考えるのが定石でしょうか?』
ダスティンの反応がこれである。
『なるほどねぇ。
時間稼ぎし、敵の戦力を査定し、
ついでに頭数減らせれば万々歳ってか』
ワイリーもそう皮肉る。
『ひとまずは、俺たちの出る幕じゃねぇってんで……
残念だったな。ダイ』
ワイリーのそんな呼び掛けに、ダイは応じない。
『……ダイ?』
『そうでも、ないみたいですよ?』
ダイは先に見ていた。
霧立ち込める湖の側で、
《ケトゥ》の反応が2つ、3つと消えていったのを。
『いる……あの霧の中には何かが』
そんなダイの言葉に、ワイリーは、
『おいおい、そんなホラー映画みてぇによ……』
などと笑ったものの、即座にダスティンが同調した。
『いや先輩……どうやらホントみたいですよ?』
『……マジでか』
ワイリーも言われれば気付く。
また1機、味方の反応が消えたのである。
「霧……か」
前回の戦いで、妙なことを言った女がいた。
呪詛の言葉を残し、死んだ女のこと。
霧になって呪うとか、何とか……
「ワイリー、ダスティン……ダイ。砲撃用意だ」
『目標はあの湖……ですか?』
ダイの返答である。
「……あぁ。よく狙え」
こういうとき、ハビエル副艦長の判断は早く。
『みんな聞いたね?……アスカ副長の指示通りよ。
各砲準備。目標は目下の湖!』
そうこう話しているうちに、また1つ、《ケトゥ》の反応が消えた。
『おいおい、ほんの数週間前まで……
あの《ケトゥ》ってのは、うちの新兵器だった訳だぜ?
本来は隠密機動が得意だとは言っても、基本性能は高いハズで』
なんてワイリーがぼやいているうちに、
あの湖は随分近くに見え始めていた。
我らの先頭を切るラドクリフの隊は、
もう足下に湖があったとしてもおかしくない程に。
なおポンゴ・ラドクリフの大隊に動きはない。
敵に構うより先に進むことを優先しているらしく。
……いい判断ではあるが。
『指示を仰いでいる暇はなさそうね。
両翼の大隊、フォーコレ小隊に援護を依頼して!
ランスキー司令代理にも連絡を忘れないよう!』
ハビエルの発言もこうなる訳で。
そうこうしているうちに……
『射程圏内に入りました』
ゲルハルダスの声である。
『主砲用意!』
ダスティンの小隊、ワイリーにダイも、
それぞれ武器を携え、足下にまで迫る湖を狙っていた。
『てぇぇぇぇ!』
掛け声がかかり、まずは《フレイヤ》の砲に火がついた。
陽電子破砕砲リエンツィ。
隙がデカい弱点こそあるが、戦艦《フレイヤ》最高出力の兵器。
まともに当たればモビルスーツはおろか、
戦艦すら優に消し飛ぶ破壊力。
そう『まともに当たれば』。
『副艦長!あれ!』
ルアクの震えた声がすべてを物語る。
敵は受けきっていた。《フレイヤ》の砲撃を。
陽電子リフレクターとかいったか?
あのバカにデカいシールドを展開して立つ、
1機のモビルアーマーによって。
いや、あれはモビルアーマーか、それとも?
「……あのときのヤツか」
──先の戦いにて捕虜になった、
ユウ・アカエが証言していたという。
ナイルの神直参の兵士の中で、
俗に『5柱』と呼ばれる5名の猛者がいること。
そのメンバーについては、あのカトリーナの証言にもあったが、
フィリップ・フロイ、ブルース・G・ノーマン、
パー・ウァーリィ……
そして彼女ではなく、フー・ソクティスなる人物であること。
これにもう一人、ジンファなる男がいたらしいが、
コイツは内通者で、ここ数日連絡が取れず、
どうにも殺されたって噂が流れている。
うちウァーリィを除く4名は個々人が兵士として有能であり、
ウァーリィってのも勿論優秀ではあったが、
この彼女のみ、別の顔を持っていたという。
霧に例えられる、特殊部隊の指揮官としての顔を。