機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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『カニ……シオマネキみたいな野郎だな』
シオマネキとは、カニの一種。
片方のハサミだけが大きくなることで有名。
満潮に合わせて穴から現れるところにちなみ、
シオマネキ(潮招)と呼ぶようになったとかいう。
ワイリーの評も分からなくはない。
かの往年のモビルアーマー《ザムザザー》を彷彿とさせる、
カニのようなデカい図体。
そして片方にだけついた大きなハサミ状の武器。
カニという形容も分からないではないが……
敵機は黒に爪後のように後ろから青いラインが疎らに伸びている。
砲撃を受けきると共に、例の湖へと身を隠した。
立ち込める霧の中から微かに背の高い木が見えていた。
ヤシの類だと思われる。
後に調べて原産地がアメリカであったから、まず違うだろうが、
真っ先に俺の脳裏を過ったのはカナリーヤシ。
俗にフェニックスなんて呼ばれる品種のヤシの木だった。
(死んでも蘇るなんて……冗談じゃねぇ)
さっきから頭に浮かぶのは余計な連中の余計なところばかり。
ここで過ったのは……
『おい!!よせッ!』
ワイリーの制止する声に向き直ると、
ダスティンの《セイバー》まで手を伸ばしていた。
その先は、
『敵は砲撃など受け切れてしまう。
大型モビルアーマーは近付き、仕留めるが定石……』
そう言い放ち、陣形より飛び出さんとしていたダイ。
制さんとした《セイバー》の腕を振りほどき、
その手にビームサーベルを構える。
『……遊撃部隊の仕事だ』
一瞬だが、ダイの《Im/A-P》の顔が俺の方へ向いた……気がした。
許可を求めるように。
あるいは動かぬ俺を見下げたヤツと侮蔑するように。
「行って……よし」
『義兄さん?』
「陣形は崩さず……敵を叩く。オマエが正しい。オマエが……」
指揮官の俺が動ける筈もなく。
『……ご理解、感謝します』
それだけ言い残すと、ダイは降下していった。
思えば最初からこうなることを予期していたような。
『そういや何でアイツ……ソードシルエットなんだ?』
ワイリーの呟きひとつがすべてを物語った……


PHASE-22 白き星と黒き刺客(7/7)

「知るかよ……俺が」

同じ頃だったろう。

ブルース・G・ノーマンはそうぼやきながら、

包帯巻かれた腹を雑に右手で掻いてやがった。

部屋は病室とは言い難い空間で。

窓が開いており、水車の回る日本風の庭園へと直結していた。

部屋の方も部屋。

ノーマンが横たわる黒いソファーベッドは部屋の右端にあり、

彼が頭を向ける側に窓がある。

右の壁には写真やウクレレや、

ヒエログリフにでも併記されてそうな古風な絵が描かれた布など。

種々雑多に吊るされているが、

全体的に落ち着いた色合いの部屋となっている。

壁の材質は煉瓦(れんが)らしいが、床はフローリング。

クリーム色の絨毯が引かれ、その上に暗い色の木で出来た机。

部屋そのものは6、7畳あまりとそう広くはないものの、

風が流れ、ノーマンは心地良さそうだ。

『知らないじゃすまないんだ。ルチアーノ氏が知りたがっている。

……疑っている、といった方がいいかもしれない』

声はノーマンの枕元にて。

衝立に雑にもたげて眠る男の耳の傍らには、

スマートフォンが画面を下にして置かれている。

どうやら声の主は電話口らしい。

「んなもん、電話して聞くことかよ。メンドクセェ」

返事ついでに寝返りを打つノーマン。

『必要だ。敵をどの程度足止め出来るか……』

ノーマンは『足止め』と相手が言った辺りで、

スマホをひっくり返すと、

「足止めェェ?……おいおい、フィリップ!

パーのヤツをバカにしてんのか?

皆殺しか、せめて撃退の間違いだろ?」

なんて液晶に唾がつく程に激しく応じた。

『敵は大部隊だ。それに……』

ゆっくりスマホをまたひっくり返そうとしたノーマンの手。

だったが、

『……パーはもういない』

そんな一言がこれを制止させた。

「んなこと……テメェにわざわざ言われねぇでも分かる。

……分かってる。俺は……見てんだからな」

『だからだ』

「だからなんだ?ヤツだけじゃねぇ。

もうとっくに何人も死んでんじゃねぇか?……そうだろ?」

フィリップ・フロイ、即答せず。

20、30秒程度思案した後、

『だからこそ……次の手を打たねば』

と告げた。

「そしてやることが、

脱走兵のお偉いさんに尻尾振ることか?」

左の口角だけをクイッと上げたノーマン。

『……ブルース』

「安心しろ、フィリップ。ヤツらは強い。

ヤツらは……あのカニどもを突破できるとは思えねぇ。

……何を弱腰になってんだか、俺にはまるで分からねぇ」

笑うノーマンだが……

『オマエなら、話してもいいだろう』

フィリップは声を小さくして、そう告げた。


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