機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
順を追って話していこう。
ヴィトー・ルカーニアの大部隊投入に際して、
脱走兵側は分散してゲリラ戦に持ち込むこととした。
ロコ・オツォの判断は悪くない。
《ジズ》の強みは高火力と密集体型に基づく高耐久。
煙による視界の一部遮断、
ビルに仕込まれた防衛装置による行動範囲の規制。
更に単機で敵部隊の前に現れることで、相手の攻撃を誘う。
オツォの策に誤りはなかった。
相手が上空から延々爆撃を続けるような方法を取り続ければ、
あるいは……とオツォも考えていたが、
敵の司令塔たるアントン・ランスキーにその判断力はなく。
だが、ルカーニアないしはモーリス・ゴンドーは、
より凶悪な策を用意していた。
ホルローギンが提唱していた5分というリミットのギリギリに、
戦艦『オズボーン』の主砲が要塞『オバマ』に穴を開けた。
そこから侵入したのが、例の青い《ジズ》たち。
しかも、場所が絶妙であって。
ゴンドー隊が入ってきたポイントは、およそ『オバマ』の中央部。
つまりは、敵の目前で挑発するように動くオツォと一部の部下と、
遠方にて脱出の準備に取りかかっていた別動隊との間を、
遮断する役割を果たすのである。
それも、ハリネズミの渾名通りの重装備部隊が。
ゲリラ屋だって、ある程度は計算して煙を上げたり、動いている。
それにゴンドーの擲弾兵15余りがやたらめたらに撃ち込んできて、
脱走兵側に被害続出な上に、視界も悪くなる。
いや、何より恐ろしいのは、
ルカーニアの割り切りか、ゴンドーの教育故か、
巻き添えに味方を犠牲にすることをやむなしと切り捨てる、
ハリネズミの非情さである。
……折角、ホルローギンが仕掛けた、
5分で育つ寄生虫どもが時をほぼ同じくして、
宿主たるコバンザメの腹を食い破り、姿を現したというに。
撤退を始めたオツォの視界には、煙に多少遮られながらも、
多少の状況は見えていた。
彼の集中力が為せる業か?それか走馬灯でも見ていたのだろうか?
目に映る世界がスローモーションとは言わぬまでも、
事象に対して緩やかな時の経過を遂げていくのが感じられた。
味方の《ハイザック》の例の機雷に全身を焼かれて、
頭上に手を伸ばしながら倒れていくのが見えた。
機械の体が、生身の人間のように悶えて見えた。
次の、あれは、敵の《ジズ》だろう。
それを頭から鷲掴み、盾に実を守ろうとした《ハイザック》が見えた。
敵機に慈悲などなく、味方の《ジズ》ごと《ハイザック》を砲撃。
第一射が《ジズ》の腹部を直撃し、2機の体が後方に押し出される。
折り紙を畳むように、その身を屈折させる《ジズ》。
そこから手を離した《ハイザック》は後ろに倒れかけて、
何度か足踏みをする。それでどうにか踏みとどまった。
しかし、攻撃の手は止まず、
盾で守ろうと動かすも、定位置に至るより先に腰を撃ち抜かれ、
散った。
そして……あれは、アントンの機体であろうか?
味方が敵を撃つべく放ったミサイルの何発を食らってしまい、
脚部を破壊されて派手にすっ転ぶ。
更に立とうと両肘を伸ばすにも、
すぐ側で爆発した機雷に今度は右腕を飛ばされて、
また顔から地面に叩きつけられた。
「……クソッタレがッ!」
《ジズ》が近付いてきていた。あのハリネズミみたいな青いヤツが。
近くで見れば蜂の巣みたいなミサイルポッドが一斉に隆起し、
ミサイルを飛ばしてくる。顔を出す蜂の子みたいに。
左肩にあった半分程度は、
オツォのアサルトライフルが巣を飛び出すより先に破壊したが、
右肩のおよそ半分と、両腕の数発が飛んでくる。
とはいえ、オツォは知っていた。
このミサイルらが、
モビルスーツの放つ熱量に反応していることぐらい。
ならば、やることは簡単で。
スラスターの勢いを残しつつ、一度フェイズシフトを切る。
元々保護色で灰色っぽかった《ハイザック・カスタム》が、
これに際してやや黒っぽくなる。
さっきまでの移動の勢いが、
無重力下の《ハイザック》のボディを同一方向へ動かし続ける。
対して不思議なもので、ミサイルはほんの数メートル付近にて、
追撃をやめた。
『……えッ?』
相手のパイロットらしき、若い男性の声がした。
ミサイルのセンサーの範囲はそれほど広くはない。
敵を見失った自動追尾型のミサイルが次に捉えるのは、
最も近い熱源体……つまり自身を放った《ジズ》。
空中で宙返りするように方向を転換すると、
躊躇なく主人を襲った。
『来んなァァ!』
叫んだところで、どうにもならない。
慌ててビームサーベルをめちゃめちゃに振り回すが、
接触した1発が爆発してしまった。
オツォからはその先は煙のせいでよく見えなかったが、
煙の間際から、
尻餅ついた《ジズ》が助けを呼ぶように上げた手を、
ミサイルの1発が直撃するところまでは見えた。
ただ1つだけ厄介なのは、そのスピードである。
オツォには、それが緩やかに見えていた。
まるで自分に助けを求めるように……