機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
小声でそんな言葉を漏らしながら、フェイズシフトを再始動させる。
黒っぽいグレーで一色だった《ハイザック・カスタム》のボディが、
一瞬で変色し、都市迷彩の保護色に転じる。
辺りではハリネズミどもが依然乱射を繰り返している。
ある《ジズ》は、撃ち尽くしたミサイルポッドを分離させると、
煙に紛れながら進んでくる。
やがて煙の僅かな途切れ目から、相手のビームサーベルが見えた。
煙を押し出すように振り上げられる腕。
サーベルは確かに、オツォの機体を襲ってきた。
《ハイザック》の右手のビームシールドがこれを受け止めれば、
相手は荒っぽくなおも振り上げて、
メインカメラでも破壊するつもりだったのだろうが、
軽く上体を反らされて回避され、
頭部のチューブ部分を切断されるに留まった。
逆に、アサルトライフルで反撃すれば、脆いもの。
下半身から頭まで一筋の線を描くように撃ち込まれて、
上半身ぐらいはビームシールドが守ってくれたものの、
メインカメラには命中。
スパークが起こる中、《ハイザック》がサーベルを払い、押し出せば、
次の瞬間には《ジズ》は爆発して果てていた。
……と、自身は奮闘するオツォであるのだが、周囲は。
足を止めないままで、ぼんやりと周囲を見渡せば、
《ハイザック》の残骸、《ワイルドダガー》の残骸が多く転がり、
ミサイルを撃ちかける《ジズ》に、
ビームマシンガンを撃ち返しつつ引き下がる味方の《ハイザック》の姿。
ビルの影に退避するも(オツォからは見える向きだが)、
引き下がっていくうちに、ビルとビルの隙間に差し掛かり、
そんなところで背後から別の《ジズ》に刺殺されてしまった。
時を同じくして、アサルトライフルでこのジズを狙撃したが、
ワンテンポ遅く、味方の《ハイザック》はもう息絶えた後。
ノックアウトされたボクサーのように膝から崩れ落ちて、
まもなく爆発した。
「こんな有り様でも……作戦は成功か?ホルローギン」
眉間に寄せるシワ。
『えぇ……後はアナタの部下次第ですがね』
「……ロビーは強いがな」
『アナタよりも?』
オツォは答えなかった。
ホルローギンの言うところも、間違いではない。
モビルスーツ部隊の大部分は戦艦を離れて、『オバマ』内部か、
アルゴルの手勢を相手にしている。
戦艦の周囲にいたのは少数に過ぎなかった。
それでも、『フレイヤ』はまだいい。
アレハンドロの《アビス》と、ダイの《Im/A-P》が頑張っている。
また『メディオラーヌム』にも、
あの黒い《ジズ》がいくらかも張り付いており、
赤い《ジズ》らも攻めあぐねている様子。
問題は『ベルフェゴル』の方で。
モビルスーツ部隊はほぼアントンに率いられて出払っており、
ほとんど戦艦の防衛能力だけで耐えねばならない状況。
遂に今しがた、
ビームシールドにて砲撃を受け止めながら接近してきた《ジズ》が、
ビーム砲を構え、ブリッジに向けていた。
戦艦の防衛機能は既に破壊されており、守るものはない。
「まさかねぇ……外務委員長様から借りたフネに……ねぇ」
驚いたは驚いたらしい。ただ、顔は笑っている。
それがルカーニアという男。
少し前屈みになって、覆うみたいに顔に手を添えた。
周囲は悲鳴を上げる者、動きを止める者、目を閉じる者いる中で。
ブリッジ前方に立つ《ジズ》。
ベルフェゴル・クルーの生殺与奪は相手に握られているというに。
ルカーニアのこの余裕たるや。
「しっ……司令ィ~?」
震える声で振り返ったオペレーターらしき女性に、
「野晒しだよ……」
の一言と共に、笑うルカーニア。
「……えッ?」
ルカーニアの方を向いていた、この彼女は見逃した。
彼女がその感嘆詞を言い終えるより先に、
一線の光が《ジズ》の頭部を貫くと共に、その衝撃で体が右横に飛び、
ブリッジの視界よりフェードアウトしていく。
すぐにCIC辺りが確認した。
頭上でビームライフルを構えて飛ぶ、《ジ・ゾウム》の姿を。
黄色のボディに黒いアクセントを加えたカラーリンクは、
そうフェイ・デ・カイパーその人のものである。
「……うちの豹頭には敵わねぇだろ?そりゃ」
フェイだけではない。
周囲には複数の黒い《ジズ》も飛んでいる。
どうやら、『メディオラーヌム』から数機が援軍に回ったらしい。
「つくづく思うねぇ……いい拾い物をしたってなァ……クッ」
隠すように口を押さえた手の隙間から、見えるルカーニアの鋭い牙。
クルーの視線がルカーニアに向く。
しかし、当のヴィトー・ルカーニアは、そんな衆生に興味はなく、
「てめぇはどうだ?……《フリーダム》もどき」
と、戦闘中の俺を……《ヴェスティージ》を見ていた。