機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
一言で言えばバカにデカいイシガニのようなヤツで。
実寸は知らないが、モビルスーツの数倍はあった図体で、
四肢に仕込まれた強力なビーム砲と、
それこそカニのハサミみたいなクローが武器だった。
最初に戦ったときは結構焦った。
海上での戦闘で、ヤツのハサミに機体の右足を掴まれて、
オモチャみたいに振り回されたのを覚えている。
そこからどうにか巻き返して、倒したから、
今こうして生きている訳だが。
スコアなんてものは一々気にしないもんで、
正確な数は知らないが、その後も何度か遭遇し、何度か倒している。
モビルアーマー戦には結構慣れてる、といっていい。
昔は簡単だった。
接近さえ出来てしまえば、あの頃のモビルアーマーは脆かったから。
並外れたデカい図体ゆえに、
かえって懐に入られると、反撃手段がなかったりしてさ。
勿論、この《アルゴル》の場合は別だろうが……
……警戒すべきは、あの腕。
先程、接近した《ジ・ゾウム》が何らかの反撃に遭い、倒された。
銃ではない、と思う。
銃なら、貫通するか、シールドで弾かれていたハズで。
モーションが不自然だった。
撃ち殺されたなら、すぐに爆発していたハズであって。
同じく、ビームシールドで弾いたとしても、
動きを止めるという判断にはならない。
となれば、恐らく武器は……
「やれば、分かることか」
距離を取りつつ、ガトリングを掃射してもいいが、
流石に今度は避けられるだろう。
コイツは威力こそ強烈だが、反動が強すぎて、
撃ちながら動く目標に合わせて向きを変えるなんて芸当は、
まず無理と考えるべき。
という訳で、モーションの少ないモビィ・ディックをけしかけた。
例のリフレクターで受けにくるかと思えば、
アルゴルは回避しつつ、前に出るという判断を下した。
なるほど、これ程に高出力のビーム、
撃っている間に隙が出来ると見たのだろう。
可哀想なのは、その後ろにいた《ワイルドダガー》の1機。
《アルゴル》が盾になってくれるとの慢心ゆえか、
シールドも張っておらす、
モロにモビィ・ディックの砲火を浴びて、藻屑と散った。
さて前に出た《アルゴル》。
《ダーティ》や《ムナガラー》ほどではないとはいえ、
その図体に似合わす、これが意外に速い。
モビィ・ディックを撃ち尽くし、畳むまで、せいぜい2、3秒。
そこから次の1秒が経つか否かという頃合いには、
もう刃が届くぐらいの間合いにはいたのだから。
折り畳まれるまでの間、俺も呑気に様子を見ていた訳じゃない。
ビームピックを抜いて、投擲。それを右、左、右と3度。
第1射、第2射は上手く避けられ、
第3射に至っては当たったものの、
そこはイノシシでいう前足の付け根の辺り。
痣(あざ)のような小さな傷を少し残した程度で、
猪突猛進とばかりに勢いよく突き進む《アルゴル》を止める力はなく。
「まあ……そんなもんか」
1歩程度、後退する。
そうして……後退していたのに、追い付いてきやがったのだ。
左から抜いたビームピックを、投げる暇はなかった。
やむなくリーチに難はあるが、ビームサーベルのように持ち換え、
ヤツを迎え撃った。
インパクトの瞬間、リフレクターでも張るかと思えば、
そんなことはせず、ただ前足を振り上げた。
嫌な予感がした。とても嫌な予感。
普通なら、みすみす相手の方から腕を出してくれたのだ、
思いきってピックで突き刺しに行くだろう。
だが、それは相手も当然気付くことであって。
何故、前に出した?フェイントにしてはあからさまな動き。
直感的に動いた。避けねば、と。
全く下がってばかりだが、これも必要なる後退。戦術的回避。
……まあ、とにかく、結論を言おう。勘は当たった。
ワン公がお手をするように無様に突き出された腕には、爪があった。
それも、指先からではなく、掌から生えた爪が。
後方からは見えないハズである。
俺も回避した瞬間に、指と指の僅かな隙間から、辛うじて見た。
次の瞬間、もう俺の足が止まった頃には、
既に爪は消えていた。
昔、何かの本で読んだな。漫画だったか?
確か、バグ・ナグとか言うんだっけか。
指と指の間から鋭い刃が顔を出す、インドの隠し武器。
意味するところは『虎の爪』。
……『爪』?……いや、あれは寧ろ肉食獣の『牙』みたいだったが。
「一筋縄じゃ……いかないってか?」
向き合うアルゴル。
先程、ビームピックが切り裂いた場所が白い煙を上げている。
獲物を見つけ、腹を空かせたイノシシが、
その興奮ゆえに白い息を吐いているように。
「……イノシシ狩りだ」