機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
ユニウス戦役以来、実に7年ぶりとなるプラント本国を襲った戦いは、
1週間あまりにて、落ち着きを見せる結果となった。
我々の負った傷は大きい。
参謀本部と呼ばれた軍の拠点グナイゼナウは外壁から大きく損傷し、
やむなく、参謀長ヨーゼフ・スコルツェニーは、
暫定的に本部をアーモリー・ツーに遷すことを決定。
同じく襲撃を受けた、アーモリー・ワンもまた、
その被害はけして小さくない。
過去の大戦に比べれば、期間・人数ともに少数であるが、
それでも1週間あまりで民間人含め数万名もの人間が命を落とした。
となれば、防衛できたから終わり、といくハズもなく……
赤ん坊を乗せるゆりかごってヤツは、
自分では移動できない赤ん坊を揺らして満足させるものらしいが、
だとしたら、コクピットってのはパイロットのゆりかごだろう。
丁度、形も似ている。
ただ違うのは、パイロットってのは大人であって、
そんな子供騙しで気が紛れる人種じゃないってとこだ。
『目標地点到達まで、残り3分……』
そういうアナウンスが聞こえてくる。パーディの声で。
このパーディだって、ハサンが死んだときには大分参っていた。
人間の死ってのは、本来そういうもので。
だから、ジョーンだって死を恐れていた訳で。
戦争ってヤツがどんな理屈をつけてもあっていいハズはないんだ。
そんなことは分かっている。
だが、どこかで俺たちは失っている。危機感とか、人の尊厳とか。
モビルスーツっていうデカい鉄の壁が、
命の奪い合いっていう残酷な現実を見えなくさせているのか?
ハッキリとしたことは分からないが。
ジョーンに「怖くないのか?」と問われたとき、
俺は返す言葉を失った。
出てきたのは、どうにも嘘臭い言い訳の文句だけ。
分からない……
何の為に戦うのか?誰の為に?他に方法はないのか?
……ただ、分かっているのは、俺にどうする力もないことだけ。
先日、臨時で開かれた円卓会議は、鎮圧との名目でもって、
ザフト脱走兵への実質的な報復任務の発動を宣言した。
発起人は別人だが、
その実、ヨーゼフ・スコルツェニーの献策みたいなもんで。
それも、目標地点が『オバマ』だとは言わないという手の込み様。
先に言質だけ取っておいて、
しかも指揮権はヴィトー・ルカーニアに譲渡。
失敗してもめ事になろうと、自分には責任が及ばない状況をつくり、
その上で『オバマ』出兵を決定した。
まあ、目的は大体見当がついている。
バスティーユ条約の締結により、
プラントと大西洋連邦は直接戦争ができなくなった。
だが、その直後に大西洋連邦は、
プラントの領土と隣接した地域に宇宙要塞『オバマ』を建設。
プラント側も大西洋連邦のある北米に軍の基地をつくった。
だから文句は言えないが、
いざって時にプラント本国が攻め込まれる危険があるからってんで、
どうにか、この軍事要塞を落とせないかと、
ここ1年ぐらい、プラントじゃずっと考えられていた。
大西洋連邦も、いずれプラントとは一戦交える考えなんだろう。
ザフト脱走兵を支援して、プラントを弱体化させようとしていた。
らしい。
だから、プラントはそれを逆手に取って、
脱走兵残党の掃討を目的に、『オバマ』を攻撃する。
普通に考えりゃ条約違反だが、
一応、国際法の中には「テロリスト支援の禁止」って条項がある。
いざとなりゃ、これで訴えれば反論は出来る訳だ。
どちらも悪どい商売してやがる。
ただ、問題は証拠があるかどうかって点。
だから円卓会議でさっさと話をまとめて、実行に移す必要があった。
脱走兵が『オバマ』を逃れるより、先に。
……理屈はこう。
だが、色々と問題がある。
ここでの強行から、大西洋連邦との戦争にそのままなる危険。
そしてそれ以上に、人殺しをさせるっていう……
『モビルスーツ部隊……出撃用意』
パーディのアナウンスがまた聞こえた。
次いで体がフッと持ち上がる感覚に襲われる。
理由は簡単。乗っているモビルスーツごと移されようとしているから。
抵抗することは出来ないし、したって意味はない。
ただ、目の端で、
主を失った《ガイア》の姿を一瞥して、歯噛みすることしか、
俺には出来なかった……