機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

20 / 157
そのとき、《アルゴル》のコクピットでは。
『ノルマは達した……もう無理に出張る必要はないぞ?』
との呼び掛け。声の主はロコ・オツォである。
『……ホルローギンのヤツに合わせる必要はないんだぞ?』
「本気で……おっしゃっているのですか?」
『あぁッ?』
オツォの犬が唸るような聞き返しの言葉に、
コクピットに座す彼女は答える。
「今なら……殺れるんですよ?《フリーダム》を。かの伝説を」
後ろ姿を見れば、
目につくのは、後頭部のヘルメット末端より垂れた髪。
黒と茶色と、色の異なる毛がドレッドヘアよろしく束ねられ、
まるで首筋に絡まったヘビみたいで。
「少し打ち合ってみて……確信しました。殺れます」
両手よりそれぞれ2本ずつ指を伸ばして、
その指先を合わせて四角形を作り、
そこから手を胸の前へと突き出せば、カメラのフレームのようで。
この小さな枠の中に、《ヴェスティージ》が綺麗に収まるのである。
対して、画面越しにコクピット内を見るオツォの目に映るのは、
うってかわり、彼女の翡翠色の瞳がフレームいっぱいに光っていた。
『油断するなよ?相手は仮にも……』
「機体はともかく、パイロットは大した腕ではないかと。
こちらの暗器を見抜いたのは、恐らく偶然。
恐れるまでもありません……
少なくとも、本人でないことは明らかですから」
オツォはそれ以上、反論しなかった。ただ、
『……なるだけ早く帰ってこい』
とだけ言い残して、回線を切った。
もっとも、そんな上司の忠告も、
獲物を丸呑みにするヘビがごとく、
口を開けて敵を見据えた、この女の耳には届いていないようだった。


PHASE-03 刹那の戦場(4/7)

そう、慢心するのも無理はないことで、

現に俺は攻めあぐねていたのだから。

接近戦におけるモビルアーマーへのアドバンテージが、

このアルゴルには通用しないらしい。

しかし、距離を取ったとしても、決定打に欠ける。

……俺が、《ヴェスティージ》のスピードに慣れていないのを、

差し引いても。 

『援護が必要ですか?』

ダイの声。

「いや、ここは俺一人の方が上手くやれる……」

『……了解』

回線の切れる音がした。

俺はひとまず、ビームピックを投擲した。

先程、ビームサーベル代わりに使っていたヤツだ。

そして、投擲する片手間に、ビームライフルを抜くのであって。

ピックの刃が、《アルゴル》の張ったリフレクターに阻まれる直前、

俺は上から下へ落ちる感じで、ライフルを撃ち込んだ。

被弾箇所より煙が巻き上がれば、

俺は逃げるように退避して、武器を持ち換える。大剣カーテナに。

突っ込んで来い。仕留めてやる、と。

これが《ダーティ》の煙じゃない以上、敵の座標は表示されている。

距離はまだしも、高度については感覚的には分かりにくいが。

弱点があるとしたら、上か下か。

もっと動物っぽい言い方するなら、背中か、腹か。

ヤツの手足は短い。本当にイノシシみたいに。

あのリーチなら、体の中心には手も足も届くまいて。

多分、チャンスは一度。

前進してきた《アルゴル》を、上に飛んで刺し殺すか、

下に潜って突き刺すか。

ヤツの砲口は恐らく上にしか向いていない。

下は……確認できていないから、ないというのは早計だろうて。

ここは、敵の攻撃がおおよそ予想できる上を。

……なんてゆっくり考えてた訳じゃないが、

ぼんやりと目的が分かった辺りで、煙がとぐろを巻くのが見えた。

来る。やはり、突っ込んで来る。

ビーム兵器の搭載位置からして、

砲撃中はリフレクターを同時に張って身を守るってのは、

出来ないだろうから、バカに発砲してこないのは分かっていたが。

まあ、後退するメリットもなくはないが、

相手が退いたなら、状況はリセットされるから。

そんな訳で、前進してくるのは、おおよそ分かっていた。

とにかく、前に出たんだ。

流石に瞬発力はこちらが上で。

リフレクターを張って、体を守っているが、関係ない。

むしろ、砲火が待っていないだけ、有利なくらい。

左へ避けた。荒ぶる闘牛の突進を避けるマタドールみたいに。

相手も方向転換の素振りを見せるから、

狙いをつける余裕はなかったが、

それでもリフレクターの隙間、そして腕のリーチ外となる、

左の脇腹に目掛けて、カーテナの先端部を槍よろしく突き出す。

勝利を確信した。しかし……

「……掴んだ、だと?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。